最高の展開を30ページに刻め ~秋傘 水稀『30ページでループする。そして君を死の運命から救う。』を読んで~
世の中には色んな本が出てる。その分タイトルのアプローチ方法も多数存在する。あらすじのようなタイトルでどのような内容なのかを瞬時に理解させることもあれば、逆に意味深にしてどういった物語なのか興味を湧かせることも珍しくない。両極端であれど無数の中から読ませようとしていることには変わりはないだろう。
そんな中で個人的に棚を眺めて矢鱈印象に残ったライトノベルがあった。それこそが今回紹介する『30ページでループする。そして君を死の運命から救う。』である。先頭に算用数字が並ぶのも目を惹くし、その後に続く単位は読書でおなじみの"ページ"ときた。何とも挑戦的なスタイルの作品なんだろうといつもの如く詳細を調べずに購入した次第だ。実は初めてこの本を見た時から少々時間は空いているのだが、作者名の関係もあって探す時間もあまりかからなかったのも思い出深い。
そんな風に色んな観点で初見のインパクトが強かったこの作品。果たしてその30ページへのこだわりはいかに……?
あらすじ
8年前に会ったっきりの初恋相手、通称"あの子"を探す少年志道計助。調査事務所に身を置き、仕事の傍らで調べるも目撃情報が乏しい日々が続いていた。そんなある日、計助は銃撃事件に遭遇し……かと思いきやどうやら夢のようだったらしく気が付けば起床時だった。だが朝の出来事は夢の中そっくりで? 更に空には自分にしか見えない謎のオブジェクトが現れた。
サーティー・ピリオド、計助はそこに閉じ込められたのだった。ループする出来事の中で悲劇と戦わねばならない。共にループの世界に閉じ込められた"あの子"そっくりだけどどこか違う、何故かペンギンの着ぐるみを着た少女、時湖と共に。
詳細と注目ポイント
"30ページ"へのこだわりがガチすぎる
それでは紹介に移ろう。まずは何と言ってもこの作品で重大な"30ページループ"についてだ。いやいやどっからどう見てもそのまんまの意味にしか取れないし、作中に無かったらそれはそれでタイトル詐欺になるだろう。だがしかし、紹介の本文を割く必要性を感じてしまう程に、本作における30ぺージに対するこだわりが強いのだ。
まず本の中、ページ数の隣でキッチリ30ページがカウントされている。更にイラストは作中というよりかはループの間にチャプターのように配置されている。ごまかしは効かない。
その上このページ数はループを行っている計助も知覚可能となっているのだ。私達が読んでいる文章と同じ内容でページ数がカウントされてるため時間を確認するかのような「あと〇ページだ」という書き込みがどこか微笑ましい。
何が起きるから分からないからこそループ
そんなこんなでメタ的にもストーリーとしても30ページ以内でどうにかケリをつけなければならない。因みにふと思い立ったので計算した所、電撃文庫30ページ分に入る文字数は42文字×17行ということで計21,420文字ということになる。ここから改行等で生じる空白も込みでこの数となるとできる範囲は限られそうだ。ページ数を聞くと何とかなりそうなのに、不思議なものだ。
ループものといいつつも相対するのは1つの事件、制限は30ページでかなりの回数繰り返しが発生することからテンポ感が良い。かといって永遠と同じ事を繰り返すわけではなく、分かりやすい制限が設けられていることから前の出来事を踏まえて即座に路線の修正が行われる。だからスパンの短いループでも様々な可能性が広がっていて1つの大きな物語となっているのがこれまた面白い構図となっている。また、常に張り詰めた作風という訳ではなく、明るい会話も多いのでメリハリもハッキリしている。だからこそ1回のループでどこまで事実が判明するのか予想がつきにくくなってよりスリリングになる。
悲劇のために全てを尽くせ!
この本読んですごく「いいなぁ~」と思ったのはループを使って悲劇をどうにかすることに全力を掛けていることだ。世界観はその気にさえなれば無限に広げられるけど、この作品では壮大ながらも一極集中している姿勢が良い。だからこそクライマックスは読んで良かったとなるし、最後はちょっとした余韻にも浸れる。
ストーリー展開に即して言うなら敵は強大、だけど主人公達にできることは限られている構図が印象深い。調査員として働く計助は様々な所に足を運んで協力してもらっているけど、実力は完ぺきではなく押されてしまう事もある。共にループをし、世界観の導入を担う時湖もまた知っている情報が限られる。そんな2人がある意滅茶苦茶すぎる敵が起こす悲劇に対してどう立ち向かうのか。そういう所にずっと目が離せなかった。
さいごに
奇妙な世界と眩しいシーンの数々。単発映画のような疾走感であるとともに、ループのギミックは小説だからこそ出来た切り口。ループの方式こそ特殊だけど整えられていて、それでいてハラハラさせる作品です。やっぱりこういう出会いがあるから本棚をじっくり見渡すのはやめられない。
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