愛する心は壁を越えて ~柳之助『バケモノのきみに告ぐ、』を読んで~
最近の作品のタイトルには最後に句点「。」が付いていることが多い。普段からSNSでの読了報告や今のような本紹介といったものを書いている身からするとミスをなくすためにもかなり神経を張って確認している。そういうことを思うと『バケモノのきみに告ぐ、』のように最後が読点「、」で終わっていることはかなり珍しく感じる。中途半端のような印象も持つがその直前の「告ぐ」という動詞や追想録という特徴を踏まえるとこれから証言をするといった解釈にも取れてしまう。そういう意味では「。」よりも「、」の方が似合っているのかもしれない。
そういう事を考えながら本作の読了報告を書いていたのだったがそこにしか目がいっておらず『きみ』と書くべきところを『きも』と書いてしまった状態で投稿してしまった。『バケモノのきもに告ぐ、』。一体臓物に何の話をするのだろうか……? PCだとIとOが隣に配置されている故の悲劇。というか何で母音がこんなにも固まってるんだろうか。
おっと誤字問題はさておこう。今回は一風変わった作風を持つ本作について語っていこうと思う。
あらすじ
大きな壁に囲まれた城壁都市バルディウム。そこには不安定な精神に由来する異能力者《アンロウ》よ呼ばれるバケモノが潜んでいた。バルディウムで日夜起こる世界の理から外れた力で起こされたであろう事件。ノーマンの仕事は表に秘されたそれらについて調査をすることだった。
しかしどういう訳か彼は今大罪人として捉えられている。一体何があったのか? ノーマンは過去或いは真相を語りだす。それは直近に起きた4つの事件と共に調査をした4人のバケモノ少女達──《涙花》、《魔犬》、《宝石》、《妖精》との物語を。
詳細と注目ポイント
風が吹かない街と"バケモノ"達
最初の詳細は《アンロウ》についてだ。異能と一括りにもできなくもないが暗い雰囲気とコンセプトが中々そうはさせてくれない。センスがいい名前がついてたり分類もなされていたりと王道でワクワクしてくる要素もてんこ盛りだ。では何故暗い雰囲気を漂わせてるのだろうか。やはり文章表現が最もの要因かもしれない。
元は同じ人間であるはずなのに始終バケモノ呼ばわりされる《アンロウ》。それを直接的にも間接的にも再三注意深く書かれている。特にノーマンが「人間だ」と訂正する場面は序盤ということもあり何とも印象深い。だから全体的にこのようなイメージを抱くことになる。
おっとかなりミステリだ
この作品を読む前はいつものなるべく初見で楽しみたい精神が作用してしまいあまり積極的に情報を収集してなかった。そのこともあって成程伝奇なんだなぐらいにしか意識してなかった。だからこそ事件の調査の重きが置かれていることに関してかなり予想外だった。
連作短編のように4つの事件を取り扱っていることもあって事件解決のテンポ感はかなりいい方だった。そしてキチンと筋が通っていた。ガチガチのミステリというよりかは刑事のサスペンスものに雰囲気が近いかもしれない(※かなり個人的な主観です)。私は伝奇脳から切り替える前に読み切ってしまったのでできなかったが頭の回転が速い方だと真相に辿り着きつけるのかなとも考えた。他にも有名作品を彷彿とさせる場面も多々あったりするので、そっち方面でもテンションが上がる方も多いと思われる。
前日譚(と個別ルート)はどこだ!!!!
この作品の最大の特徴は扱う事件が変わるのと同時にノーマンと共に調査を行う少女が変わることだ。皆同じポジションだしそんなにコロコロチェンジしたら印象薄れない? と怪しむ方も多いだろう。安心してください、特濃です。
それぞれで細部が変わってくるお約束の表現でそれぞれのスタンスが明確に見えてくるし何より千差万別の関係性が良い。味わい深い1対1が4ともあるのだ。それらを全て受け入れてるノーマンの姿勢も含めて読んでて滅茶苦茶楽しかった。確かにこれは愛。特別な関係性での相思相愛って最高。そういう事を経験しているからああいう主張ができたのかなとも考えてしまう。
だからこそ彼らの馴れ初めもやその先がもっと詳しく! と叫んでしまいたくなる。もう最初から部屋が暖まった状態でもここまでなのだからその前後とかもっと凄そう。そんなレベルにヤヴァイのだ。個別ルートは少々語弊があるかもしれないが良い感じの言葉が見つからなかっただけなのでそこまで気にしない方向で。
さいごに
やや粗削りになってしまったが読んで初めて分かる良さも多いので今回はこの辺りにしておこう。恋の物語でもあり感情の物語でもありバケモノの物語。分かりやすさを捨ててでもそう纏めたい。それにしてもあのタイトル回収(?)は秀逸だった。過去に転がるもよし未来に転がるもよしという意味でも今後の展開非常にが楽しみだ。
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