【要約&実践】ブランディングの科学 新市場開拓編
どうもー、消費財メーカーのマーケターとして働くmotuです。
マーケティングに関する書籍の"理解"から"実践"への架け橋となる記事を投稿していきたいと考え、活動しています。
書籍の内容を"実務"で活かすことができるよう、要約・体系化していくので、ぜひご覧ください。それではやっていきましょう!
書評
【再現性】 ★★★★★
【面白さ】 ★★★★
【おすすめ度】 ★★★★★
今回紹介するのは、バイロンシャープ氏著書の「ブランディングの科学 2 新市場開拓編」です。この書籍は、以前の記事で紹介した「ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11」の続編です。
前回紹介した、「ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11」では、マーケティングの"理論"を主に説明していましたが、今回紹介する続編では、マーケターが"理論"を活用して具体的にどのようなアクションを取るべきかについて詳細に書かれているので、超おすすめです。前回紹介した書籍を読まずに、この書籍を読み始めても問題ありませんが、可能なら併せて読むことで理解が深まると思います。それではやっていきましょう!
1. ブランドの育て方
ブランドを育てるためには、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを拡大して浸透率を伸ばさなければならない。なぜなら、ダブルジョパディの法則がいかなる市場、カテゴリーに関係なく成立するためである。
ブランドの市場浸透率を拡大することを同時に行わずにブランドロイヤルティを構築するためにターゲットを絞る戦略を取っても成功の可能性は低い。
もしブランドがダブルジョパディの法則から逸脱していれば、市場への浸透を阻んでいるものは何かを解明する必要がある(例えば、重要な地域やチャネルで配荷されていないなど)。
2. 市場全体をターゲットにする
ダブルジョパディの法則は、ブランドを成長させるためには、無購買層と低頻度購買層の心をいかにつかむかが重要であると教えている。そのためには、セグメンテーション戦略ではなく、カテゴリーバイヤーの多様性を考慮して取扱製品に幅を持たせる、プロダクトレンジ戦略が必要である。その秘訣は、消費者の共通点を探すこと、およびメンタルとフィジカルの両面から消費者にリーチする方法をできるだけ多く探すことである。
3. 新規顧客を探す
新規顧客は競合ブランドから獲得するべきである。以下に要点をまとめる。
4. メンタルアベイラビリティを構築する
メンタルアベイラビリティを構築するためには、購買客の記憶構造の中にブランドを定着させる必要がある。このとき、①購買客が購買の選択肢について考えるときに、どのような"きっかけ"を用いているかを知ること、②その"きっかけ"とブランドとの間に新しい強いリンクを構築すること、の2点が重要。
“きっかけ”はカテゴリー購買客の共通の経験から生じ、共通の連想は有用なカテゴリーエントリーポイント(CEP)である。
マーケターは自分の担当するカテゴリーのCEPを優先度の高い順に整理しておくことが重要。そのうえで、ブランドをカテゴリー内のできるだけ多くのCEPにリンクさせることが求められる。
以上の評価基準が、ノンバイヤーやライトバイヤーの長期記憶構造を構築するためのマーケティング活動の効果測定に役立つ。また、これらの評価基準は、ブランドの健全性を測る基準として使うこともできる。例えば、メンタルマーケットシェアと売上マーケットシェアの間に生じている差から、配荷の問題、マーケティングミックスの問題などを浮き彫りにできる。
最後に、ブランドのメッセージ戦略を設計する際のポイントについて示す。
以上のように、メンタルアベイラビリティを獲得するためには、CEPネットワークをできるだけ拡大し、様々な広告表現を介してできるだけ多くのCEPに関心を引き付ける必要がある。
5. 独自のブランド資産を強化する
独自のブランド資産を介して行われるブランドの印象形成が、ブランドのメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを質的にも量的にも向上させる。
5-1. 賢明な選択
まず初めに、独自のブランド要素を選択する必要がある。実用性やブランドの歴史から候補を洗い出す。このとき、意味づけを重視する必要はない。
次に、ブランド資産の強みを数値化し、現在のブランド資産に活用または開発の価値があるかどうかを確認する。知名度(どれほど多くのカテゴリーバイヤーがブランド資産要素をブランド名に関連付けられているか)と独自性(競合ブランドよりも自社ブランドへの反応がどれほど大きいか)の2つの尺度が用いられる。
5-2. 賢明な実行
独自のブランド資産を「使う価値がある」レベルに育てるため、①すべてのカテゴリーバイヤーにメッセージを届ける、②ブランド名とブランド資産が共存する最高の瞬間を目立つように伝える、③一貫性を維持する、の3つのステップを上手く実行する必要がある。
また系列品を発売するとき、賢明なブランディングの選択、実行が必要となる。系列品のデザインは、以下2つのステップで考える。
また、独自のブランド資産があれば、以下のような方法でCEPを幅広くカバーする新鮮なブランドリンクを持ち、ブランドに着目させることができる。
この章について、さらに理解を深めたいのであれば、ブランディングの科学シリーズの続編である、「ブランディングの科学 独自のブランド資産構築編」を読むことをおすすめする。
6. リーチを拡大する
マーケティング活動によってメンタルアベイラビリティを構築できるのは、リーチが可能な購買客層に限られる。ブランドのライトバイヤーとノンバイヤーをターゲットとして狙うべきである。成長しているカテゴリーであれば、カテゴリーライトバイヤーを狙う。このとき、もしフィジカルアベイラビリティが脆弱であれば、いくらリーチを拡大しても売り上げにつながらないことに留意しておく。
メディアプラットフォームを選ぶ際は、カテゴリーバイヤーを第一に考えて立案すべきである。カテゴリーバイヤーが、どのようなメディアを、いつ、どのくらいの頻度で、どのくらいの期間にわたって使用しているかを知ることが重要。この時、より多くのオーディエンスを引き付けるメディアがより頻繁により長期間にわたって使用されているため優先度は高い。一方で、そのメディアを使って重複することなく広範囲にリーチを達成できるメディアプランナーの能力も求められる。購買重複の法則を利用した分析を行う。
最後に、メディアミックスの原則についてまとめる。
7. 話題にする価値のある口コミを作る
マーケターは、どのようなブランドストーリーが会話の中で共有される力を持つかを考えなければならない。その際、ブランド体験がなければ共有したい話題は作れないことに留意しておく。また、絶えず口コミを発生させるためには、人は同じ相手に同じ話題を何度も伝えたいとは思わないため、常に新鮮な話題を提供し続けなければならない。
ブランドの評価指標と同様に、口コミの質も市場シェアと相関関係にある。したがって、ブランドの口コミレベルがブランドの規模にしては高いか、低いかを分析することができる。
肯定的な口コミの方がブランドの売り上げに大きな影響を与える。したがって、否定的な口コミにあまり神経質になる必要はない。以下に肯定的口コミの法則をまとめる。
以上の法則は、購買性向の高い人にリーチする肯定的な口コミは無視すべきだと示唆しているのではないが、口コミの影響力は購買性向の低い人の間で大きい。
逆に、否定的な口コミがブランド購買性向の高い人にリーチすると、その影響力は大きい。しかしそのような人にリーチすることは少ない。
その一方で、肯定的な口コミを好むオーディエンスが持つ、他社を取り込む力としての影響力には限界があることに留意しておく。ただし、口コミを発信しながら発信者は自分のブランド体験を思い出し、自己発生的な広告露出として機能するため、把握しておけばリーチを測定するときに役立つ。しかし、口コミに大型のメディア投資を行うことは、たとえコントロールすることができたとしても大きなリスクを伴う。
8. フィジカルアベイラビリティを構築する
フィジカルアベイラビリティの最も重要な役割はブランドを目立たせて買いやすくすること。①プレゼンス、②レレバンス、③プロミネンス、の3つからなる。
8-1. プレゼンス (ブランドに存在感があるか?)
プレゼンスはフィジカルアベイラビリティを支える中心的要素で、他のすべての要素を支配している。「あなたのブランドは購買が起きる場所と時間にどれほど適切に対処しているか?」を考える。流通ルートや小売店の選択などブランドの配荷に関わる判断に影響を与える。
できるだけ多くの購買機会をとらえられるようにブランドを流通と店舗に配荷するためには、まず初めに購買行動を完全に把握する必要がある。カテゴリーバイヤーがいつどこの店舗で購買行動を起こし、それらの店舗がいつどのような競合活動を行っているのかを知る必要がある。
このとき、人は購買の選択肢が増えると、全く新しく買い物レパートリーを作り替えるのではなく、現在のレパートリーを増やそうとする特性があり、小売店においてもブランドと同様に、ダブルジョパディの法則や購買重複の法則が成り立つため、流通がマルチに存在することがフィジカルアベイラビリティの構築に極めて重要であることが分かる。
また、ブランドのメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティがともに確立されていることが重要。
8-2. レレバンス (ブランドは買い求めやすいか?)
カテゴリー内に存在する多くの購買機会に満遍なく製品を配置することが求められるが、製品の配置とコストとのバランスをとることが重要であるため、全ての選択肢を考慮したうえで優先すべき事項を決定しなければならない。そこで、①カテゴリー内の製品バリエーションをマッピングして、製品が主要な購買機会を網羅していることを確認する、②購買を妨げている原因を取り除いてブランドを買い求めやすくする、ことが求められる。
①カテゴリー内の製品をマッピングする
カテゴリー内の製品をマッピングすることで、購買客が遭遇するほとんどの状況でブランドが購入されるために必要な何かを開発することができる。このとき、製品やサービスのポートフォリオは次のような基準を満たすようにデザインしなければならない。
このとき、1つのブランドですべての選択肢に対応することができない場合、別のブランドをポートフォリオに加えてもよい。
②購買を妨げている原因を取り除く
買い求めやすい製品であるためには以下のような方法をとることができる。
8-3. プロミネンス (ブランドは目立っているか?)
いったんプレゼンスを獲得して購買選択肢の一つとなったブランドは、購買環境の中でブランドの存在感を高めることで、そのプレゼンスがさらに強化される。独自のブランド資産や強いビジュアル資産が求められる。
9. オンラインショッピング
チャネルミックスにオンラインを加えるべきかどうかの判断を行うときに最初に考えなければならないことは、ブランドがオンラインで入手できない場合に購買機会を現在と将来にわたってどの程度失うか、またオンラインでの成功に必要な資金、時間、戦略的能力などの投資をどの程度失うかである。そのために、参入を計画している国または地域でのEコマースの成熟度とカテゴリーを検討する必要がある。
以上の手順でオンラインが実行可能または必要な選択肢であると判断したら、まずブランドポートフォリオを部分的にでもオンライン上で明確にすることをおすすめする。その際、次のような特性に合致する製品やサービスに集中するべきである。
一方で、オンラインにおいてもダブルジョパディの法則に従うため、フィジカルアベイラビリティ構築の環境が公平であっても、メンタルアベイラビリティに差が生じていれば、大規模ブランドほどオンラインではメリットを享受できる。
10. 新ブランド導入と新規顧客獲得
新ブランドが新規顧客をかっく得するプロセスと既存ブランドが新規顧客を獲得するプロセスはあまり変わらず、いずれにしても消費者の心の中に深いメンタルアベイラビリティを構築することができるかである。
オピニオンリーダーを獲得して新ブランドの提唱者になってもらうやり方や、ヘビーカテゴリーバイヤーを獲得するやり方など、少数のロイヤルティを獲得する戦略より、ライトカテゴリーバイヤーなどの大多数にリーチする戦略を目指すべきである。
通常新ブランドを導入する際は、最初に集中的なマーケティング活動を実施したらそのあとは新たな予算を確保できるまでしばらくの間活動を休止するがこれは間違いである。以下2段階の発売戦略をとるべきである。
①第一ステージ
フィジカルアベイラビリティの確保に必要な初期売り上げを達成する。ヘビーカテゴリーバイヤーだけを目標にするのではなく、リーチ幅の広い施策を導入する。一方で、第二ステージのための資金を残すために、実施頻度は最小限に抑える。
②第二ステージ
ミディアム~ライトカテゴリーバイヤーが購買サイクルに入ったら、メディアを選択し、彼らに到達するまで継続的に広告メッセージを発信する。
このとき、メンタルアベイラビリティを構築するためには、カテゴリー内の様々な購買客にとって重要な意味を持つCEPにブランドを関連付けなければならない。また、新ブランドの広告は以下のような特徴を備えてなければならない。
現実的には、次のようなブランディングが理想である。
最後に、カニバリゼーションについて考慮に入れる必要がある。通常、購買重複分析によって算出したベンチマークが示す以上の重複は避けるべきであるが、売り上げが競合ブランドに盗まれるくらいなら自社ブランドに盗まれる方が良いとする判断を取ることもある。
11. 高級ブランドについて
高級ブランドも一般的なブランドと同様に"11の法則"に従う。11の法則については、以下参照。
カテゴリー内での購買経験が浅い消費者は、価格や広告を手掛かりに、あるいはそのブランドを高く評価している人や購入した人が何人いるかなどの情報を手掛かりにしてブランドを選んでいる。つまり、ブランドの評判を聞いたかどうかが最終的に購買の判断に大きな影響を及ぼしているため、高級ブランドがメンタルアベイラビリティを構築し維持するためには大量の広告を出稿する必要があること、目標とする高い評価を得るまでには相当の時間が必要であることが示唆される。
以上です。長い文章にお付き合いいただきありがとうございました。
本日紹介した書籍は以下のリンクにまとめてあるのでぜひチェックしてみてください。また次回!