新卒PMが、売れない原因を特定してピボットをした結果、売上を前年度から81倍伸ばした話
こんにちは、いまふく(@happy_imafuku)です。
今回は「頑張ってもプロダクトが売れない」という状況に対して、プロダクトマネージャー(PM)や事業開発担当者はどのように向き合えばいいのかというトピックについて、自身の経験をもとに考察していきます。
はじめに
私は2022年に予防医療テック・株式会社リンケージに入社して事業開発・PMをしています。
入社前の2021年に内定者インターンにて新規プロダクトを企画・リリースしましたが、まったくといっていいほど売れず、ほとんど収益を上げることができませんでした。
しかしリリースから約1年間仮説検証を回し続けた結果、ピボットを決断してFY2023の期中に新規プロダクトをリリースしたところ、FY2023の売上を前年度の81倍まで伸ばすことができました。
どのようなアクションを取ってプロダクトを成長させることができたのかを時系列に沿って紹介していきます。
(なおリンケージは未上場ということもあり、詳細情報は伏せております。)
要約
はじめに考察した結果を記載しておきます。
売れるプロダクトを作るためにはバリュープロポジション(自社独自の提供価値)を発見する必要がある
バリュープロポジションを発見するためには、顧客のインサイト(潜在的なニーズ)を得る必要がある
顧客のインサイトを得るためには、喫緊の(お金と時間をかけてでも解決したい)課題を見極める必要がある
顧客の喫緊の課題を見極めるためには、顧客の声を集めて考え抜く必要がある
新規事業案リサーチ(21/05-21/07)
2021年5月、私は事業開発部にアサインされ、内定者として新規事業開発プロジェクトに関わることになりました。
事業開発部のメンバーは、上長と私の2人。
上長から降りてくる新規事業案の市場・競合のリサーチ依頼をひたすらこなすところから始まり、1ヶ月後くらいからは実際に3C(顧客/市場・競合・自社)を軸に新規事業案を考えて上長に壁打ちしながら、ブラッシュアップしていきました。
プロダクトリリース(21/08-22/01)
インターン開始から約3ヶ月後の8月頃に新規プロダクトの大枠が固まり、リーンキャンバスをもとに、誰のどんな課題をどうやって解決するのか?を詰めた上で、プロトタイプを作っていきました。
プロダクトの内容はざっくりいうと、企業に導入してもらい、所属する従業員の健康をリンケージの専門家が支援する、人事労務系のBtoBtoE(Employees)のプロダクトです。
プロトタイプのツールを15の基準から選定したり(個人情報に関わるセンシティブなプロダクトなので、情報公開範囲や使うまでの動線を慎重に確認していました)、プロトタイプツールとAPI連携が必要になって、Postmanでコードを書いたり、オペレーションで使うスプレッドシートでGASの設定をしたり、、
また予防医療プロダクトという特性上、医療の専門的な観点からのフィードバックが不可欠であったため、社内の医療専門家の方に意見をもらいながらプロトタイプをブラッシュアップしていきました。
オペレーションが可能なレベルまで中身が詰まると、営業資料やオペレーション用のLPの準備をデザイナーの方と進めていき、大枠が固まった8月から5ヶ月後の2022年1月に新規プロダクトをリリースしました。
プロダクトがまったく売れない(22/02-22/07)
リリースしたはいいものの、リリース後半年間は無料トライアル期間としていたにも関わらず、とにかく顧客が獲得できませんでした。
営業に同席してプロダクトの説明をすると、ほとんどの顧客から「いいサービスですね」というよさげな反応をもらえるものの、実際には導入いただけず、、
トライアル期間が終わり、有償化した後も当然、導入顧客数はほとんど増えず、低空飛行が続きました。
なぜ顧客の反応は悪くないのに、ここまで売れないのか、、
リリース後半年という月日が過ぎた後、ひとつの簡単な答えが出ました。
「顧客が欲しいものを作っていない」
ここまで読んで気付いた方もいるかもしれませんが、私が主に時間を費やしていたのは「どう実現するか?」というHowであり、「誰が何に困っているから、そのプロダクトを提供するのか?」というWhyを考えたり、そのために顧客のインサイト(潜在的なニーズ)を得るために顧客の声を聞く時間が圧倒的に不足していました。
リーンキャンバスこそ作っていたものの、今思えばその内容は何の根拠もない妄想でしかなかったです。
「嘘の仕事(Fake Job)は、やるべき仕事に比べて、簡単で楽しめるものだ」
Y Combinatorの元代表で、現在はOpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏の言葉通り、やるべきことをせずに嘘の仕事をしていたことを痛感しました。
売れない原因の特定(22/08-22/09)
リリースから半年が経過していましたが、そこに気づけたことを前向きに捉え、できるだけ多くの顧客の声を得るために、私の少ない人脈を駆使し、商談相手になることが多い企業人事担当者(現・元問わず)に
本当に想定している課題を持っているのか?
その課題を解決するためのソリューションとして今のプロダクトはフィットしているのか?
についてインタビューしていきました。
具体的には、就活の際に内定をもらっていた企業の人事担当者や、大学の部活の顧問の知り合い、大学OBの方の紹介、経営陣の顧問先企業の人事担当者などなど。
とにかく必死でいろいろな人に声をかけてインタビューのお願いをしました。
インタビューをして分かったのは、自分が想定していた課題はあるにはあるものの、顧客にとっての優先順位が低く、今すぐ解決したい課題ではないことが分かりました。
営業の際の反応はいいにも関わらず、無料でも導入してもらえないのは、顧客自身も取り組みたいと考えているものの、導入やその検討のために貴重な時間は使いたくなかったからというわけです。
※なお顧客インタビューについて書いたnoteもあるので併せてご参照ください。
バリュープロポジション発見のための仮説ブラッシュアップ(22/10-22/12)
売れない原因を特定した私は、
時間とお金をかけてでも取り組みたい顧客の課題は何か?
それに対してどのようなプロダクトを提供できるか?
それは競合ではなく、なぜ自社がやるのか?
というバリュープロポジション(自社独自の提供価値)を意識しながら、顧客の課題に本気で向き合うことにしました。
具体的には、商談に同席してインタビューを行ったり、会社が開催したユーザー会で顧客に困っていることや悩みについてお伺いしたりして、考えた仮説の数だけバリュープロポジションキャンバスを作り、実際の顧客の声をもとにブラッシュアップしていきました。
その結果、明らかに他の課題と比べて顧客にとっての優先度(喫緊度)が高く、その課題を解決するためのソリューションとして既にリリースしたプロダクト(元プロダクト)の技術・ノウハウが使えるのではないかというバリュープロポジション仮説を発見しました。
時期的には2023年1月頃で、最初のプロダクトのリリースからちょうど1年後ということで、1年間悩んだ中で確立した仮説でした。
ピボット・新規プロダクトリリース(23/01-23/04)
その仮説を資料に落とし込み、課題に対して関心の高い顧客に対して有償での導入を提案したところお願いしたところ、想定以上の食い付きがあり、5社ほど初期顧客として獲得できました。
この時点で前のプロダクトとは異なる確かな手応えを感じていました。
早速プロダクト要求をドキュメントにまとめて実現方法や工数について開発の方と議論し、初期顧客の導入開始時期に間に合うように開発を進めていきました。
またオペレーションを事故なく回すために、オペレーション担当のメンバーともほぼ毎日MTGを行い、課題や懸念点を網羅的に洗い出し、その解決策をひとつひとつ議論して潰していきました。
開発を開始してから約4ヶ月後、新規プロダクトがリリースされ初期顧客の運用が開始されました。
なお最初のプロダクトにも顧客がいたので、それはそれで残しつつ、新規プロダクトとしてリリースするという形でピボットを遂げました。
新プロダクトの成長(23/05-23/11)
初期顧客が開始して数ヶ月後にまとまったデータを集計・分析すると、プロダクトの成果として期待以上の結果が出たため、その結果をもとにさらに営業をかけ、FY2023の年度末までに(リリースから半年間ほどで)エンプラを中心に20社ほどに導入いただき、FY2023の売上を前年度の81倍まで伸ばすことができました。
まとめ:顧客にとって喫緊の課題に取り組めているか?
今回のトピックは「頑張ってもプロダクトが売れない」という状況に対してプロダクトマネージャーや事業開発担当者はどのように向き合えばいいのかというものでした。
ここまで述べてきた自身の経験からまとめると、以下のようなことが言えるのではないでしょうか。(冒頭の要約の再掲)
売れるプロダクトを作るためにはバリュープロポジション(自社独自の提供価値)を発見する必要がある
バリュープロポジションを発見するためには、顧客のインサイト(潜在的なニーズ)を得る必要がある
顧客のインサイトを得るためには、喫緊の(お金と時間をかけてでも解決したい)課題を見極める必要がある
顧客の喫緊の課題を見極めるためには、顧客の声を集めて考え抜く必要がある
書いてある内容は事業開発やプロダクトマネジメントの書籍にもよく書かれていることかと思いますが、実際に手を動かしてプロダクトを作っている際は忘れがちなことではないでしょうか。
もし「頑張ってもプロダクトが売れない」という状況にある人は、「顧客の喫緊の課題に取り組めているのか?」という視点から一度プロダクトを見直してみると解決の糸口が見つかるかもしれません。