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【推しの子】は罪の物語。ラストの意味を考える。

【推しの子】が結末を迎えた。いつもはジャンププラス派なのだが、今回ばかりは、ヤングジャンプで課金して閲覧した。

衝撃的な結末を迎えて、正直に言うとめちゃくちゃ落ち込んだ。きっと、何か壮大などんでん返しがあるに違いない。これまでの展開と同じような予想を裏返す展開が…とワクワクしていたくらいだ。

それが、どうだろうか。予想外といえば予想外、単調といえば単調と言える結末に、かなり衝撃を受けて、この展開のラストを妄想し続けた。

けれど、良く考えれば考えるほど、この終わりしか無かったように思えてきた。
それと言うのも、【推しの子】が、罪の物語だったと捉え直せたからだ。

【推しの子】の結末について、考えをまとめておきたい。

転生と罪の物語

【推しの子】について、始めは流行りの転生ものか…とか思ってちゃんと読んでいなかった。そもそも、見始めたのはアニメを見始める前の無料閲覧期間がきっかけだった。

驚いたのが、その構成の緻密さだ。

推しのアイドルの出産を担当となった男ゴローは、何者かによって殺される。
そして、命を落としたはずのゴローは、推しアイドルの子供(アクアマリン)となって蜜月を過ごす。そして、双子の妹ルビーもまた転生者であった。

よくある転生ものの魅力は、この蜜月を描くところにあるだろう。前世での記憶や経験を武器に、戦略的に今世を生き抜く「転生」の展開は、カタルシスを産みやすく、読者にわかりやすい構造になっている。

【推しの子】でも、生まれ変わったアクアマリン(ゴロー)視点で、推しアイドルを母にした幸福な日々を描き出す。しかし、それは、あっという間に推しアイドル(母)の死によって呆気なく終わりを告げる。

その死を目撃するのは、視点人物のアクアマリンだ。妹のルビーは近くにいながらも、その死を目撃出来なかった。
推しアイドルの命を守ることが出来なかったアクアマリンは、罪の意識とともに、復讐に走ることになる。

序盤のこの展開は、この漫画がただの読者を楽しませるだけの転生ものでは無いことを示しているだろう。
かなりハードな物語を、今一番読まれている話型の「転生」で包むことによって、読者がこの後の展開をわかりやすく、楽しみやすくする効果を生み出しているはずだ。

あえてやっていると言うのは簡単で、計算して導入に落とし込んでくるのは、並大抵のことではない!

二重の母殺しと、父殺し。

幼子とはいえ、成人男性(ゴロー)の理解力をもつアクアマリンは、母殺しの罪の意識から逃れることができない。
これは後々明かされる、前世でゴローが出生の段階で母殺しの罪を背負っていることにも重なってくるだろう。

アクアマリンは、前世の経験と己の恵まれた美貌を武器に、復讐の相手となる「父親」を探す。

芸能界で、アクアマリンはその才能を使い、「父親」の足取りを掴んでいく。
プロファイリングの天才的な才能を持つ女性の心を掴み、自分の本命の女性を傷つけ、妹のルビーにさえもその自立を促すために時に強かに振る舞う。

復讐の相手の恐ろしさは、「教唆」で相手を動かし、実際に手を下していないことだった。そんなことが可能なのか…? と疑うと同時に妙な納得感もでてきた。
アクアマリンの持つその他人を巻き込み、扱う才能もまた「父親」譲りのものではなかったか?
「父親」の才能でもって、「父親」を殺す。物語の王道パターン、「父親殺し」である。


母親を助けられなかった罪を背負ったアクアマリンは、「父親殺し」をすることにより、救われるものの、今度は「父親」を殺した罪を背負わなくてはならなくなる。罪を背負いつづけたアクアマリンが新たな罪を意識しないはずがない。

母殺しの罪の意識を感じつづけてきた、アクアマリンはどうやってこの「父親殺し」の罪を克服すればよかったのだろうか?


一つの展開として考えられるのは、父親が心から自分の罪や悲しみを理解し受け止められることだ。この起爆剤になるはずだったのが、「母」のビデオレターなのだが、すでに父親はその真の言葉すら汲み取れなくなっていた。


ここでアクアマリンは断念し、完全犯罪、完璧な「嘘」をつく必要があった。
「父親」は、「母親」の幻影を探して、「娘」ルビーに手をかけるのは目に見えていた。
そして、「娘」ルビーを守り、かつ「母殺し」の罪の意識から逃れるためには、罪を背負って「父親を殺す」しか残されていない。つまりそれは、周囲の人間にさえも罪を背負わせるということでもある。


アクアマリンが生き残るための選択はなかったのだろうか??

例えば、記憶喪失なんてどうだろう?
アクアマリンは助けられるも、そのアクアマリンとしての記憶、ゴローとしての記憶は全くなくなっているのである。
アクアマリンによく似た人物は存在するため、いっときは周りは救われるだろう。
しかし、恋人も本命も妹も、真に愛した人物の個性は戻ってこないのである。
このような状態で、果たしてアクアマリンは生きているのか? 
また、生半可に生き残ってしまった場合、やはり罪がアクアマリンを追いかけて離さない。

徹底的な罪への償い。それがアクアマリンには必要だったと言えるのではないだろうか?
「母親」よりも、「父親」よりも、嘘つきで人を魅惑する才能があったアクアマリン。彼はその才能を人にも自分にも区別なく使ったのだ。


母なる海へ

アクアマリンは海の中へとのまれていった。
二度目の転生もないだろう。

母なる海へ帰っていくこと。これが、アクアマリンの救済だった。名前もアクアマリン(海の水)で、すでにそのラストは決まっていたかのようだ。
苦しみの先に、どこか穏やかに見えるのは、彼がやっと罪を償えた安心感からきているのではないだろうか?

辛く、悲しく、寂しく、悔しい。そんなラストではあったものの、これ以外はあり得ない。
その先にある未来をポジティブに、光が輝けば輝くほどに、罪は精算されなければならなかった。


妹の「ルビー」をどう捉えなおしたらいいのだろうか?
はじめから通してみれば、彼女は母親から捨てられた、「シンデレラ」的少女である。
継母からの虐待に耐える話だが、元々は実母による話が原型だ。
アクアマリンが、罪の物語の主人公なら、
ルビーは、成功の物語の主人公なのだろう。

嘘をつく才能や人を煽動する力を持ちながらも、彼女はそれを人を導くために使う。故にラストの彼女は圧倒的な輝きをもっている。

前世の報われない日々をゴローとしてアクアマリンは共有していたからこそ、彼はその身を捧げることができたのかもしれない。


余談…

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