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選歌

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2023年5月の記事一覧

選歌  令和5年6月号

選歌 令和5年6月号

ささやかな違反ひとつで返します心で誓いハンドル握る
永田 賢之助
 
暗闇の祠の奥でほほえんで語り合いたし病めるバッカス
 宮本 照男

吾よりも勉強が好きだつた弟よ微分積分教はりしかな
渡辺 茂子
 
ふるさとのあおき山河よ老いぬれば帰る日叶わず夢に顕わる
青山 良子
 
新宿に反戦デモのありし頃寺山修司は健在だつた
臼井 良夫
 
淋しさは次の淋しさ呼ぶように通院帰りと友が立ち寄る
児玉 南

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選歌  令和5年5月号

選歌 令和5年5月号

映像のダイヤモンドダストに目を凝らす誰かが中にゐると思へて
高田 香澄

切り落とす桜の枝の樹液さえ意志持つ者の恨みなるべし
田口 耕生

大相撲を初めて詠みしは愚庵とか癖のメモ書きまた一つ増ゆ
橋本 俊明

人と犬次々過ぎてその為のごとく静もる一本の道
広瀬 美智子

恋しいと冷たい月夜に身をよじり横たわる君のてぶくろ一つ
森崎 理加

孫とまく鬼やらひの豆朗朗と久しぶりなる夫の良き声
渡辺 茂

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選歌  令和5年4月号

選歌 令和5年4月号

恒例の第九聴きつつこの年もとどこおりなく早終えんとす
財前 順士

追ひ焚きのボタンを押した熱い湯にあなたのゐない時空を生きる
高田 香澄

他の人の役に立つとは生くるための杖を手にいれ歩むに似たり
高田  好

夏豪雨あり洗はれて古滝の恥しきまで白き岩組み
橋本 俊明

夕日浴ぶる母と児の背ひっそりと黄昏時の影となりたり
松下 睦子

夕さりてまた降りだしぬしらじらと雪はこの世の讃たらしめよ

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選歌  令和5年3月号

選歌 令和5年3月号

この世には分からぬことの三つ有る寿命と心・生存理由
木下 順造

行く舟の航跡の波の打ち寄せて秋のひとひに心あふるる
清水 素子

ぽかぽかと足先温し細胞が両手を挙げて万歳をする
高田 好

車椅子狭い売店の中に入れ夫は森永キャラメルを買う
玉尾 サツ子

日毎増すコロナ罹患を告げしのち今月の死者数ことなげに言う
永田 賢之助

ウクライナに干支のあること知りたる日冬陽に重き山茶花の紅
橋本 俊明

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選歌  令和5年2月号

選歌 令和5年2月号

現実は現実として老いの身を単独で飛ぶ風をとらへて
臼井 良夫

「好きだったの」写真の君はその通り、彼に寄り添い夢を見ている
鎌田 国寿

わたくしは歩き回る木生きるため枝を張らない自我なんてない
高田 好

何気ない言葉の棘が抜け切れぬ 外は大空翔んでみようか
高橋 美香子

怠り来し墓参コロナの言ひ訳の子供じみゐて帰路の寂しさ
橋本 俊明

褄を合わせてみても綻びの見えてくるのも人間だから

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選歌  令和5年1月号 

選歌 令和5年1月号 

ひそやかに降り来る白き秋の風聞きつつ庭の草を取るなり
青山 良子

久に見る天の青さに吸われたる心の隅の小さき黒点
上村 理恵子

孤のつく字みな淋しいと友が言う遠き日輝く孤独ありしに
児玉 南海子

空気読むこと出来るらし餌やるなと書きたる駅に鳩来なくなり
高田 好

もて余す時間か老ら陽だまりに二人・三人また一人増す
広瀬 美智子

汗たりて草とるよりもなお辛し取れずして庭ながめいる身の
藤峰

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