見出し画像

【観劇】ミュージカル「生きる」(IKIRU)

 つい先日、市村正親さん鹿賀丈史さん主演(ダブルキャスト)、宮本亜門さん演出の舞台ミュージカル「生きる」を観てきました。


★黒沢映画をミュージカルへ

 この作品は映画監督の黒澤明さんが1952年に発表した映画「生きる」を黒澤プロダクションとの協力を得て2018年にミュージカル化されたものの再演作品です。

 物語は役所の市民課に30年勤めた渡辺勘治という定年間近の男が病を患い、自分の命が残り半年という事実に向き合えず悩み、苦しみ、やがて周りの助けを借りて自分にできることを見つけ実現へ向けて奮闘するというものでした。

 私が観たのは市村正親さんが主演の回。主人公が葛藤しやがて小さな希望を見つけるまでを一幕、そしてその希望が実現するまでが二幕で描かれていました。

 

★市村さんが表現する小さな「歯がゆさ」と大きな「テーマ」

 市村さんの舞台を観劇するのは2018年のミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」、2019年の「スクルージ〜クリスマスキャロル〜」に続いて3度目になります。

 過去の2つの作品は市村さんの力強い歌声、そして魅力的なダンスに圧倒されたのですが今回はほとんどお預けになりました。それもそのはず主人公の渡辺勘治は病を患っているので力強い表現は似合わないのです。その分、彼を囲む演者たちが舞台上を駆け回り、明るく、鮮やかにユーモラスに物語を先導してゆきます。

 パワフルな市村さんが大好きな(私のような笑)観客には思いを抱え込んだままの主人公が歯がゆく見えます。けれどそんな無口な勘治が胸の内を吐露する幼少の息子とブランコで遊んだ思い出を歌った曲、そしてブランコに乗る姿は素晴らしく見終わった今もしっかりと私の中に焼き付いています。

 「生きる」という人間の最大のテーマにストレートに向き合う素直さと勇気をミュージカルに関わる皆さんと市村さんのステージからいただきました。


★盛り上がりなのか騒いでいるのか

 そしてちょっと辛口な感想も少し。先ほども書きましたが病を患い動きの少ない(ように見せる)勘治に変わって多くの演者が踊り、歌い、笑い、泣いてくれましたが、なんというか…ひとつになっているようでまったくなっていないように見える瞬間も多々ありました。豪華な家具が揃っている部屋なのに、配置が心地よくない、というか整っていない部屋に出入りする大勢の人たちを見ているような感覚がありました。勘治に協力する小説家の方はとても良かったんですが、同じように勘治を支える女性が葛藤する場面がなんだか中途半端(すみません!)でせっかくの彼女の魅力が半減して見えました。大勢集まる場面も「盛り上がり」なのか「騒ぎすぎ」なのかわかりにくいところもありました。(亜門さんごめんなさい!でも大好きです!)メリハリが効きすぎていたのかな…。


★演者も客席も進化してゆく

 コロナ禍ではカーテンコールが1回、観客は声を出さないように、と言うルールがあるためかもしれませんが会場全体の雰囲気がコロナ前のそれと違っていました。上手く言えませんが演者は演じるリハーサルを、観客は観るリハーサルをしている・・会場全体が本番を迎える準備段階、のようでした。けれどこれがwithコロナとしてより良い方向へ変わってゆく「観劇」のまさに進化している時間だったのかもしれません。

 

 ミュージカル、演劇、音楽、映画もこれからの経済再生の一端を担っていることは確かなのに、同時に「不要不急論」を繰り返し突きつけられては答えを求められています。エンターテイメントは今のような何もかも投げ出したくなるような状況になって心が空っぽになったときに何かを照らしてくれる小さな灯のようなものだと私は思っています。そしてそれは劇場へ行った時、大きな明かりとなって私たちの人生に色をつけてくれるものだと思うのです。


 チャンスがあれば鹿賀丈史さんの回も観たいですね。私は鹿賀さんの「ラ・カージュ・オ・フォール」でのダンスにすっかりやられてますますファンなってしまいました☆


#舞台感想




サポートいただけましたら詩(エッセイ)作品集の出版費用の一部として使用させていただきます★ どうぞよろしくお願いします。