眠れなくて… ①
このところ、眠れない…という夜とは無縁だった。元々、眠りが浅く、記憶に残る夢もよく見る。しかし最近は、入浴して布団に入る…という、当たり前のような習慣が当たり前に出来なくなっていた。
一人で寝られない犬を部屋に入れ、添い寝している間にぐっすり眠り込んでしまう。明け方、こっそり抜け出して風呂に入り、出勤準備までの一時間ほど、寝ているような寝ていないような時を過ごす。その一時間が、吉と出るか凶と出るかはその日次第。大抵は、早起きの犬がしっこしたりうんちしたりするので、その処理に追われる。
ひと時でも眠りたいが、これまた早起きの母が活動し出すのに気付けば、しっこやうんちが出なくても、犬は扉を「開けろ、開けろ」と引っ掻くので寝ていられない。明るいと眠れないので、犬を出した後、扉を閉めて布団に転がるが、暫くしてまた、今度は外から「開けろ、開けろ」と誰かが引っ掻く。開ければ入って来るが、閉めればまた開けろと言って出ていく。その繰り返し。そのうち、出ていなかったちーやらうんやらで大惨事!なんてことになる。
先に入浴すれば良いが、仕事は大して忙しいわけではないのに、多かれ少なかれストレスも感じ、それなりに疲れているのか、湯船に浸かっていると平気で寝てしまう。この状態は危険らしいが、死の恐怖に脅える以前に、風呂で寝てしまうと余計に疲れるので、添い寝からの転寝を自分に許しているところもある。
仕事は土日祝休みだが、このところ土曜出勤が続いた。月曜に代休をもらえるものの、リズムは確実に狂ってしまう。今回は六連勤後二日休み、五日働いて二日休んだが、日曜に朝から出かけていたので、朝、ゆっくり出来たのはこの月曜日だけ。それでも、買って半年で壊れた、パソコン修理の打ち合わせ電話に起こされる。保証書を取りに部屋を出る時、ついて出ようとした朝の散歩と朝食を終えて昼まで寝る予定の犬を押し戻し、用事を済ませた後、こっそり台所へ降りた。畑で穫れた野菜を、休日に纏めて調理し、冷凍しておくためだ。いつもは昼から作業に取りかかるが、畑へ出て行った母が、昼に戻る保証はない。犬がひとりでも寝ていられるうちに出来ることを済ませておかないと、私自身も昼までごろごろしていなければならなくなる。そうなったときの一日は大分短い。
台所仕事を終え、正午を過ぎたが、母は帰って来ない。汗だくで帰ってシャワーを浴びるので、風呂掃除も出来ないし、二回目の洗濯も出来ない。
暑さに耐えかね、エアコンが効いている寝室へ戻る。犬は起きていたが、未だ眠いようで、欠伸ばかりする。シャッターは開けたが、私がベッドでごろごろしていると、彼はうとうと眠り始めた。来た時は殆ど寝ない子犬だったので大分心配したが、このところリズムが付いて、それなりに寝るようになった。
結局、母が帰ったときには一時半を回っていた。畑仲間がとっかえひっかえやって来て喋るので、なかなか帰れなかったと言い訳される。
昼食後は、現在犬部屋になっている、元々妹が使っていた部屋で昼寝…というのが平日の倣いらしい。あちこちエアコンを点け替えるのも厄介なので、食事は犬部屋で摂ることにした。
用意し、洗濯し、風呂掃除をしている間、母は私の部屋で寝ている犬の横で、一回目の洗濯物を畳む。終わったら犬部屋に移動し、エアコンと昼寝の準備をしてもらうよう頼んだが、二つの盆を両の手に乗せて階段を上がれば、閉まっていたのは私の部屋で、犬部屋は窓も扉も全開だった。どうやら畑に疲れて、涼しい私の部屋で寝入ってしまったらしい。気持ちはわかるが、全身汗だくの私は噴火しそうになった。
すっかり冷えてしまったピザとインスタントのスープを平らげた頃には、既に三時半を回っていた。私も畑に行きたいが、ここ一週間、湿気が凄い。久々に陽が差したこの日も、湿気だけは変わらず、結局布団は干せなかった。空気自体がうだるようである。
食後、インターネット以外は機能する、古い方のパソコンを設置し、起動確認しているうちに、母と犬は眠ってしまった。
食事の片付けは未だだが、一通り用事が済み、お腹も膨れたせいか、私も急激な眠気に襲われる。盆を階段の上に置いたまま自室に入ると、昨夜から半日以上点けっぱなしだったエアコンのお陰で、室内はまだひんやりしていた。ベッドに転がると、いつの間にか寝入ってしまい、気付いた時には小一時間ほど経っていた。隣室で動き出す音が聞こえる。犬の腹時計が鳴り、「おやつ、おやつ」と騒いでいるのだろうか…。
盆を下げ、洗い物をしようとしたら、何だかお腹がおかしく、トイレが先になった。何が悪かったのか、その晩は、苦悶するほどではないお腹の不具合で、トイレとすっかり仲良くなる。なのに何故か、腹は引っ込まず、体重計は過去最高を叩き出す。私はパソコンを使えない期間中、ダイエットすることを固く決意した。