合わない病院 ③
木曜日、やっと受付を通って指定された場所で順番が来るのを待っていた。火曜に来た時より大分空いている。昼までには帰れるか…と読んだものの、なかなか名前が呼ばれない。身長、体重を計った後、血圧は自分で計測器を使うように言われ、再び待つ。30分ほどして、計測時とは違う職員に呼ばれた。
「検査結果、今日聞いて帰られます?」
どういうことなのか解らなかった。首を傾げる。
「検査結果聞いて帰られるなら、時間大分かかりそうなんですけど、どうしますか?」
健康診断で結果を聞いて帰る…という経験を、私はしたことがない。
「結果って、郵送していただけるんですか?」
そういうものだと思っていたので訊ねると、郵送可という回答を得たため、そうしてもらうことにした。既に大分待たされているのに、これ以上の長居は無用である。
更に30分ほど待たされ、別の職員に呼ばれた。
「内科より乳腺外来の方が空いてそうなので、エコーの方、先に案内しますね」
そうなのか…私は内科で大分待たされていたのか…と、その時初めて知った。10分ほど待ってようやくエコーの検査室へ案内される。何回やっても慣れないエコー。しかし痛みを我慢しなければならないマンモグラフィに比べたらマシだった。
凄く丁寧に検査してもらった後、検査結果を聞くために再び15分ほど待ち、これまた丁寧に結果報告をしてもらった。今のところ危険な兆候は見られないが、色々と気になる所見があるようだ。
「痛い思いしてマンモグラフィ受けても映らなければ意味無いので、年に一回ぐらいエコー検査受けた方が良いかもね」
専門医の見解に若干首を捻ったのは、初めての乳がん検査時、「痛いのは嫌」だという理由でエコーとマンモの二択からエコーを選択し、その時も引っかかって結局マンモも受けなくてはならなくなったからだ。更に精密検査でエコーを受け、悪い所見は見当たらなかったが、二年に一度は検診を受けるように勧められた。そしてそれを守って受診しているのである。
取り敢えず、来年は痛い思いをせずに気持ち悪い思いをするだけで良いのだと思うと、ほんの少しストレスが和らいだ。
診察室を出た時点で、既に午前診の終了時間を20分も過ぎていた。待合室に人はおらず、職員間の行き来も殆ど無い。内科受付で待つように言われ、更に30分待ってもお呼びが掛からなかった。既に三時間近くここに居ることになる。流石にトイレへ行きたくなり、受付へ声を掛ける。
「まだ暫くかかりそうですか?お手洗いに行きたいんですが…」
受付の職員は一瞬挙動不審になったが、OKのサインが出たので私はトイレへ向かった。便座に腰掛けた途端、名前を呼ぶアナウンスが聞こえて顎が外れそうになる。
用を足して受付に戻ると、先程とは別の年配の職員に案内された。
「もう一度お入りください」
は?入るの初めてですが…。
待っていたのは毛むくじゃらの医師による、物凄く丁寧な問診だった。
「検査結果を聞きに来てもらわないといけないんですが、いつにしますか?」と訊ねられ、目が点になった。傍にいた看護師が慌てて口を挟む。どうやら〝郵送可〟は、案内した職員の勘違いだったらしい。
検査結果と言われても、健康診断に関しては、まだ身長・体重・血圧を計っただけである。取り敢えず翌週に予約を入れてもらい、内診を受けた。
診察室を出て更に待たされる。ほぼ人っ子一人いない院内で、何故こんなに待たされるのか解らなかった。
やっと呼ばれていけば、待っていたのは血液検査だった。
「さっきはごめんなさいね。初めてなのに「もう一度お入りください」なんて言ってしまって…」
丁寧なのかいい加減なのかよくわからないその看護師の採血は、物凄く痛かった。
「こんなに待たされるんやったら、検査結果聞いて帰るようにしたら良かったね」
手当をしながら続ける看護師の言葉にハッとした。そうではないか。時間が掛かると言われたから、報告を郵送にしてもらうように言ったのだ。
「今からでも聞いて帰ること出来るんですか?」
看護師が唸る。血液検査の結果が出るのに30分から一時間程度かかるらしい。この際だからそのくらい待とうと思ったが、そもそも医師の診察時間が既に終わっているので、どう頑張っても無理だと言われ、がっかり。忘れたことを蒸し返されてイラっとしただけだった。
最後に検尿を指示され、健診は終わりだと言われた。
『さっきトイレ行ったばっかりやがな!』
心の中でツッコみ、何とか絞り出す。レントゲン検査があると思っていた私は、何とも腑に落ちないまま病院を出た。こんな簡単な検査の為に午前中いっぱい時間を取られたのかと思ったら、馬鹿馬鹿しくて仕方なかった。
それにしても、あまりに職員間の連携が取れていない病院である。私との相性が大分良くないのかも知れない。適当なことを言われて何度振り回されたことか!
近隣に然るべき病院が無いので、来年のエコー検査には再びここを訪れなければならないだろうが、調子が悪くなってもこの病院には絶対来たくない。健康診断なんてもっての外だ。一日も早く、職場でちゃんと健診を受けられる仕事に就かなければ…と、変なところで決意も新たにしたのであった。