人と人との繋がりは… ②

 諸事情から私が退職した年、彼女は別の職場へ異動した。再就職に行き詰っていた一年前、現状伺いのラインが入った。行き詰っていることをそのまま伝えたが、本当は自身の近況を知らせたかったようだ。
「やっぱり前の職場は私には合わなかった。今のところは皆親切で居心地が良いです」
 職場の人間全員と一対一の関わりを目指していたように見えた人だが、自身の部署である十数人のグループからは、いつも逃避しているように見えていた。他所に自分の居場所を探し求めて、必然的に広く浅く…になってしまったようだが、そもそも個々の付き合いを大切にしようという人だったとは思えなかった。
 一年経って、まるで昨日今日まで対話していたかのような食事の誘い。そもそも緊急事態宣言下で不要不急の外出は制限されている。先が見えないのと、現状での会食は現実的ではないことを踏まえ、当たり障りなく返信したつもりだった。
「コロナでなかなか外出も難しいですが、機会があればまた是非…」
 携帯電話の役割を果たしていない我がスマホ。そもそも半日前に入ったラインに半日後に気付いて送った返信だったが、即座に既読になり、即座に返事が来た。
「明日はどうですか?」
 何度も書くが、今は緊急事態宣言下。不要不急の外出は制限されている。しかも明日って…。私どんだけ暇だと思われているのだろう…。
 明日は弟家族が来る予定になっていた。そのまま返信する。
「因みに今は何のお仕事されているんですか?」
 あれ?私いつ、再就職したって言ったっけ?これって誘導尋問?持って行くの上手いなぁ…。
 確かにこの時、仕事はしていたが、目標の“一生働ける正社員の事務職”ではない。達成するまで人に話すつもりはないので、表向きはいまだ“就活中”の身である。私が再び働き始めてひと月なのを知っているのは、母と弟家族、畑&犬友のおばちゃん一人だけ。別居中の妹はおろか、家庭内別居中の父すら知らない。
「短期の臨時なので、まだ就活中ですよ~」
 嘘はついていない。
「それって事務職?」
 聞いてどうすんねん…と思ったが、否定だけはしておいた。嘘はついていない。
 どんなに仲良くしていた相手でも、時々妙な予感が当たる。
『あぁ…この人とはもう、会うことないだろうな…』
 そう感じた後、大体必ず連絡は途絶える。向こうからも来ないし、こちらからもしない。どうやら私は人との縁が薄いようで、長らくそれを寂しいと感じ、落胆しながら生きてきたが、このところは執着しなくなってきた。
 しかし彼女に対しては、予感とは別で、確固たる意志を持って『もう二度と会うことはない』と感じている。
 彼女の人生の中に、私という存在が居なくなったところで、彼女は何も困らない。いくらでも新しい人間関係は築けるし、彼女の良さに気付ける人はきっと居る。
 非常識な状況でも靡くような人間だと思われたのか、数打ちゃ当たる方式でお鉢が回ってきたのかは知らないが、コロナで人付き合いがゼロになっても、私はそんなに寂しくないし、彼女を必要としているわけでもない。身の軽さがいかに心地良いかわかったのは、おうち生活の恩恵かも知れないと思っている。

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