自分の小さな箱から脱出する方法〜人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!〜 を読んで
著者:アービンジャー インスティチュート 監修:金森 重樹 翻訳:冨永 星
0 本の概要
自己欺瞞による弊害を、「箱」に例えて分かりやすく解説した作品。ストーリー仕立てで非常に読みやすい。読者の共感を呼ぶ「あるある」が随所に散りばめられ、主人公と共に、解決策を模索することで、読者自身も自分事として捉えやすい。読者と共に悩み、共に気づきを得られる構成となっている。
⑴ビフォー(本書を読む前)
荒木博行氏の著書「ビジネス書図鑑」を読んだり、Voicyで紹介されていたりする中で以前から気になっていた一冊だった。
職場が変わったこと、子供との関係に悩み始めたこと、思い通りにいかなくなってきたとき、本書を思い出した。読破後に分かったことだが、もろに「箱」にズッポリと入っていた。
⑵アフター
⑴筆者のいう箱とは何か?
著者によると、以下のような定義だと捉えられる。
要するに、「箱」とは自己欺瞞を意味する。自己中心的であるため、自身の感情や環境を何よりも優先してしまう。場合によっては、思考停止に陥っているとも言えるだろう。具体的な例として、飛行機の例が挙げられる。
箱がある状態とない状態では、認知後の行動に大きな差が生じる。なぜ、このように差が生じるのか。
⑵どうして箱に入ってしまうのか?
本書の要点をまとめると、以下のとおりである。
自分を裏切っていたという事実に、これまで気づかなかった。主人公の気持ちが痛いほどわかる。「なぜ部下の責任を自分が?」「どうして私だけが?」「学ぼうとしない人間に、私が得たものを分け与える必要があるのか?」と、何度も自問自答した。しかし、まさにその思考こそが、自らが望まぬ結果を招く根本原因だったのだ!
「自分は悪くない」という思い込みから、自分の正当性を証明しようとし、相手の欠点を探し始める。すると、相手も同じように自己弁護に走るため、互いに「自分が正しい」と主張し続けることになる。
このような悪循環に陥ると、相手が自己弁護せざるを得ない状況に追い込み、結果として望ましくない状況が繰り返されることになる。
例えば、息子が夜遅くに帰宅した場合、親は注意を促す。しかし、息子が反発すると、「言うことを聞かない」という認識が強まり、親はより厳しい態度をとるようになる。その結果、本来息子に期待する行動が見られたとしても、それを正当に評価できなくなってしまう、という状況に陥る。
教育現場を例に取ると、いつも忘れ物をする子供Aがいる場合、周囲は忘れ物を責めるだけでAの言い分を聞こうとしない。その結果、Aは再び忘れ物をするという悪循環に陥る。内心ではAに忘れ物をやめてほしいと思っているにもかかわらず、「Aは忘れ物の常習犯だから」と決めつけ、Aが忘れ物をすることで発生する問題(例えば、周囲の大人からの叱責)を、無意識のうちに求めてしまう。さらに、Aがたまたま忘れ物をしなかったとしても、「どうせまたすぐ忘れるだろう」「今日はたまたま運が良かっただけだ」と、Aの成功体験を否定する。こうして、Aは忘れ物を繰り返す負のループから抜け出せなくなり、周囲はAを叱責し続ける。この関係性こそが、互いに依存しあい、問題を維持しようとする共謀関係と呼ばれる状態なのである。
⑶箱から出る方法は?
要するに、「箱」から脱出するための特効薬のようなものは存在しない。劇中のラストシーンが象徴するように、職場、家庭、友人関係、同僚との関係、組織など、あらゆる場面で「箱」に陥るリスクがあるからだ。重要なのは、一度でも「箱」から脱出した経験を持つことである。その経験が、その後も「箱」の外に留まろうとする強い動機付けとなるからだ。
⑶ToDo
「箱」を出ることだけを目標にするのは見当違いだ。
「箱」の中にいる状態が、むしろ人間のデフォルトだと捉える方が適切である。最初に、この考え方を心に留めておくことが肝要だ。
次に、様々な状況で自分が「箱」の中にいるかどうかを意識的に捉えること。その判断基準は、自分の言動が相手を「人」として捉えているかどうかに尽きる。同僚、生徒、保護者、飲食店の店員、わが子、家族に至るまで、皆がそれぞれの人生観をもっている。だから、「自分だって大変なんだ」と自分のことばかり考えてしまった時に、「危ない、今、箱の中に閉じ込もってしまった!」と気づき、落ち着いて行動できるよう心がけたい。たとえ期待どおりの結果にならなかったとしても、相手を「人」として大切にしていれば、長い目で見れば、いつの間にか「箱」の外に出ていることに気づくはずだ。
これまで「7つの習慣」や「道は開ける」「The Magic」といった自己啓発書を読んできたが、この本は私の人生観を更新する上で非常に有益な一冊だった。