見出し画像

中小企業の採用基準を考える

かわいいポチ袋に入った3,000円よりもティッシュに包まれた5,000円の方が価値が高いとわかってはいるのだけれど(もっと価値が高いのは裸で渡される壱萬円だし、いちばんいいのは帯で束ねられた100万円)、(お年玉を)あげるからには爪痕を残したいと云う気持ちが抑えきれず、帰省することが決まった正月前にはかわいいポチ袋を探す冒険が始まる。誰とも被ることがなさそうなもので、主張が強すぎず、かといって決して無味乾燥でもなく、ほどよいシャレ感で渡した瞬間に「セ、センスのかたまり!」とこどもたち(およびその親々)を震わせるようなポチ袋。いつか人生に幕を降ろす時に通夜振る舞いの席に集まった人たちが「クールで美しい人だったよね。彼女のポチ袋選びのセンスは群を抜いていた。」「知的で賢くかわいらしい人だった。ポチ袋選びのセンスにおいて彼女の右に出るものはいなかった。」「ふとした瞬間の表情がどことなく深津絵里さんに似ていた。彼女のポチ袋選びのセンスには毎回度肝を抜かれた。」と口々に称えるような人になりたい人生だったので、クールでも美しくもなく、知的でも賢くもかわいらしくもなく、深津絵里さんにも似ていないわたしは、せめてポチ袋で爪痕を残したいのだ。

8年間勤務して退職された方の業務を引き継いで軌道に乗りに乗って間もなく、今まで担当していた主業務を実務経験のない新入社員の方に引き継ぐよう言い渡される。あ、もうポチ袋の話はしていません。じ、じつむけいけんがない!!!!!?わたしがもともとやっているバックオフィスの業務は至極地味ではあるけれども、豊富な経験と(自分で云っちゃう)、細かい気配りと(自分で云っちゃう)、1か月後1年後まで見通して必要な情報を都度細かく記録し(自分で云っちゃう)、類まれなる観察眼とコミュニケーション能力と先見の明を駆使して(自分で云っちゃう)、自分の意図せぬ方向から多少のボヤが発生したとて早急な対応と再発防止策を直ちに講じて被害を最小限に喰いとめるという、それは見事なマルチタスク能力が求められる業務なのである(自分で云っちゃう)。一般的な職種なのでもちろん自分にしかできない専門性の高い業務というわけではないけれど、そつなく淡々とこなしてきた背景に(自分で云っちゃう)、どれだけの細かな気配りや配慮を捧げているのか、それを理解してもらえていなかったんだと思うととてもやるせない気持ちになった。じつむけいけんがない人にさらっと引き継げるような仕事ではないのに。じつむけいけんがない人を採用した理由は、人柄と今後の資格取得などに向けた意欲だと云う。たった1時間程度の面接で判断した人柄+意欲>じつむけいけん。ふーん。

もしかしたらめちゃくちゃポテンシャルが高い人かもしれないので、じつむけいけんがないということは聞かなかったことにして引き継ぎは始まった。わたしが話す一言一句を書き留めておられる。一文話す度に数分間のメモタイム。「メモを取れ!」は聞いたことがあるけれど、「一言一句メモを取るな!」は聞いたことがないので言っちゃいけないんだろう、口をつぐみ不思議な気持ちで見守る。無情にもは時間は進む。これはマニュアルに載っているのでメモしなくても大丈夫ですからね、と云わない限り一言一句を書き留め始めるので気が抜けない。前日にやった作業の内容を復習していたらそれもまた書き留め始めたので驚いた。「これは昨日メモしておられましたよ?」と伝えたらノートのページを遡って探しておられる。昨日メモしたページもすっ飛ばして遡るので、「あ、ここに」と見つけて指をさして伝えたら「あぁ、これかぁ」と仰る。あんなに時間をかけてメモした意味。。。たった1時間程度の面接で判断した人柄+意欲>じつむけいけん。ふーん。

例えば実務経験がそこそこある人だとしたら。おおまかな業務の流れをまずは伝えて、そのあと、細かいやり方を伝えていく。その会社に特有の作業であれば引継ぎなしには難しいだろうけれども、実務経験や知識さえあれば細かい引き継ぎはなくとも難なくできることもあるのでポイントを絞って特に注意すべき点を念入りに引き継ぐ。これまでにいくつもの引継ぎを受けてきたこともあるし、引継ぎをしてきたこともあるわたしにはわかる、少なくとも中小企業においてじつむけいけんなしは厳しいと。ある程度即戦力が期待できなければ難しいと。もしもわたしが中小企業の経営者であるならば、たった1時間程度の面接で判断した人柄+意欲でじつむけいけんが皆無でもかまわないという判断は絶対にしないなぁと大変に失礼なことを考えながら仕事納めまでの2週間程度を引き継ぐことに費やしてきたのだけれど、経営者の考えることはどうにもわからない。いつまでもわたしが寄り添ってじつむけいけんのない方をサポートし続けるものと甘えられては困るので、あらかじめ引継ぎの期間はどれくらいを想定しているのかと問うた時に「2週間だね」と云った経営者の言葉をわたしは一生忘れない。2週間の引き継ぎの成果にずっこけろ。Excelさえもまともに使えんぞ。たった1時間程度の面接で判断した人柄と意欲で、じつむけいけんゼロでもかまわないという判断をしたことを反省しろ。面接で人柄や意欲を偽ったり盛ったりすることはいとも簡単だけれど、実務経験はたやすく手に入るものではないのということを思い知れ。そもそもじつむけいけんのないことをチャラにするほどの人柄ってどんなだよ。マザーテレサ並みの慈愛か?

人柄や意欲はもちろん大事。だけどそれだけで実務経験のないことを補填できるものではない。実務経験豊富ないかにも性悪しょうわると、じつむけいけんのない見るからに従順そうな人、2択だったわけではなかろう。そこそこの実務経験があり、少なくとも性悪しょうわるではないだろうと思える人はいなかったのだろうか。採用基準についてもやもやを抱える不毛な年末である。おそらく今年最後になるであろう記事をなんてところに着地させてしまったんだ、わたしは。

それでは皆様よいお年をお迎えください。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集