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【楽曲解説】Welcome to the Isolated World 〜ようこそ、犯罪者隔離世界へ〜

※今回の記事はゲーム「犯罪者隔離世界」第1-4話に関するネタバレを含んでいるのでご注意ください。

はじめまして。
この度、あざみさん主催ゲーム「犯罪者隔離世界」にて、OP曲とBGM3曲、ED曲を書かせていただきました、新海あざ丸と申します。
普段は作曲活動をメインに、時々歌の活動もしている音楽系Vtuberです。

本日は4月に公開された範囲で聴ける楽曲のうち、BGM2曲とOP曲の楽曲解説をさせていただきます。
音楽についての難しい専門用語や前提知識が必要な話はしないので、
プレイされた皆さんや関わられた方々も、ぜひ物語に想いを馳せながらお読みいただければと思います。

◆第1話戦闘曲BGM「Escape from the steam」の聴きどころ

まず最初にご紹介するこちらの楽曲は、エリア1ボス戦のロボットシューティングミニゲームでかかる曲です。
とある人物がロボットで襲いかかってくるイラストとともに流れ始めて、そのまま戦闘に突入する演出となっています。

2年と4ヶ月ほど前の今頃、第1話のBGMとして「スチームパンクの楽曲」というオーダーをいただいて一番最初に書いた楽曲です。
作ったことのないジャンルではありましたが、とても面白いプロットを読んだ後だったので、アイデアは割とすぐに浮かびました。
自分の敬愛する作曲家さんがそうしているように、自分も楽曲を「読書感想文」として書かせていただきました。


【注意】このあたりからネタバレがガッツリ入ります【注意】


こんなに面白いストーリーである以上、単にロボットや蒸気の雰囲気があるクールな曲だけで済ますのは勿体無い、と。
この戦闘曲を通じて、エリア1のリーダーである臼井瑞樹(ウスイミズキ)君の”人となり”と葛藤を描くべきだと直感的に思いました。
素晴らしいプロットを描いた、あざみさんへの最大限のリスペクトを込めて。

物語を読んだ時、強く印象に残ったのは「ミズキ君の孤独な闘い」でした。
1話の中盤でミズキ君は一度、秘書ちゃんの言葉に応じて心を開く素振りをします。
しかし、秘書ちゃん一行が見せた隙をついて、ロボットを使役して襲いかかってきました。
この時、「罠で嵌めて秘書ちゃん達を騙したかったのかな?」とも最初は思いましたが、自分の受け取った結論は少し違います。

まず、自分が信じる目的のためなら、きっとミズキ君は自身が悪役になって、非情になりきれるタイプなのだと思いました。
でも同時に、心根はとても、とても優しい。
罪悪感に悩む気持ちに蓋をして、これでいいんだと言い聞かせて、エリア1の国民のことをたった一人で背負って生きてきた。
秘書ちゃんが差し伸べてくれた手も、本当はすぐにでも握り返して、心を開けるものなら開きたい。
けれど、ロボット技術に途方も無い時間と情熱を注いできた者の矜持として、
非倫理的な方法に手を染めてでも、不器用にも国民を守り抜いてきたエリア1のリーダーとして、
心を砕きながら築き上げてきた「この国を自分が背負う」という信念を曲げるわけにはいかなかった。
だから、秘書ちゃんの手を取らない選択をして、決意を固めて襲いかかったのだと受け取りました。

ーーと、ここまで饒舌に語っておいて全て個人の感想なんですけども。見当違いだったらごめんなさい。笑
音楽を通じて読書感想文をぶっ放せることが、烏滸がましくも作品に楽曲提供で関われる最大のご褒美だと思っているのでどうか許してください。
叩かないで。石を投げないで。

閑話休題。
これらの印象を基に、戦闘曲はミズキ君の固めた意志を前面に押し出すように、苛烈で攻撃的なメロディーや曲調で始めるようにしました。
ゲームの戦闘に入る時は、緊迫感あふれる音作りで行くのがやはり一番高まりますからね。
一方で、途中のメロディーにはふと葛藤や優しさが顔を出す演出にすべく、オーボエやフルートの切ない旋律を取り入れています。
そして、曲がループするときには、その心に芽生えた希望のような感情を自ら振り切るように、一気に不穏な音を入れて最初のフレーズに戻しています。

他には、「スチームパンク」のオーダーにもきっちり応えるため、その空気感を出すために効果音として歯車や蒸気の音を取り入れています。
また、遊び心として、スタジオを借りて自分でこっそりテナーサックスを吹かせていただいています。

作曲を始めて間も無い頃に作った曲ではありますが、時間が経った現在でもとても気に入っている楽曲です。
「この物語面白い!」という爆発的な想いだけを燃料に、音楽理論をしっかりと身につける前に感性ファーストで書いた曲だったこともあり、
多分、色んな意味で2度と書けない曲だと思います。
コロナ禍を機に作曲を始めた自分にとって、他でもなく人生の大きな転機となった一曲でした。

◆第1話ほっこりBGM「warmth of the friendship」の聴きどころ

こちらは戦闘後に流れる楽曲ですね。
タイトルのごとく、友情の温かさを描いた曲となっています。

冒頭はチェロで始まり、最もエモーショナルなパートではオーボエを使っています。
さっきの戦闘曲でも使われていた木管楽器ですね。
メロディーにもこだわったので、2周目をプレイされる方はぜひ耳を澄ませてみてください。

このオーボエに託した役割は2曲で共通しています。そう、「ミズキ君の優しさ」です。
まっすぐ心に訴えかける秘書ちゃんとのやりとりを通じて、
葛藤の中で少し見え隠れしていた優しさが、この曲で溢れ出すのを裏テーマとして設計しました。
物語が連綿と続いていくのであれば、音楽自体も繋がりを持たせた方が一層モチーフが伝わりやすいですからね。

私事ですが、戦闘曲とこの曲が、実際にプレイした中でそれぞれ流れた時には思わず涙してしまいました。
2年前に送り出した自分の楽曲達がゲームに本当に実装されていることへの喜びを感じて、
声優さん達の演技が素晴らしく、素敵な作品に微力ながらも楽曲提供という形で参加できたことに感謝の念が溢れて。
あざみさん率いるこの作品に携われてよかったと、誇りに思っています。

そしてイラストレーターさん、デザイナーさん、プログラマーさんなどなど沢山の方の素晴らしいアウトプットによって作られた、
この「犯罪者隔離世界」の入り口であるエリア1に、楽曲で彩りを灯すことが出来たのなら、一人の音楽家としてとても光栄に思います。

◆OP曲「Welcome to the Isolated World」の聴きどころ

こちらは確か2022年の9月ごろに書き、今年に入ってから一部加筆と再MIXをした楽曲です。

きっかけは、あざみさんが2022年5月に「30秒くらいのビッグバンドの良さげなBGMないかなー…とさがしている」と呟かれたのを見たところから。
とはいうものの、一度作ろうとしたのですが、残念ながらあまりしっくり来ずその時は断念しました。

時が流れ、同年9月。
ジャズビッグバンドに所属して短い期間サックスを吹いていた当時の曲を久々に漁って聞き直し、
初心者向けのジャズピアノ作曲本を買ってブルーノートスケールを勉強しました。
すると、吹いていた時のリズム感やノリが戻ってきて、その後あれよあれよと2-3日で書けたものと記憶しています。

この楽曲は「一人ひとりの”主人公”が活躍する煌びやかな群像劇」をイメージしてお書きしました。

確かまだ序盤数話分のプロットを読ませていただいた頃合いでしたが、各エリアリーダーの歩んできた人生や彼ら彼女らが紡ぐ物語に感銘を受けたので、
この「犯罪者隔離世界」への入り口として、サーカスのような華やかさのある音でOPを彩りたくて。
タイトルこそ不穏な香りがしてパンチのある響きを持っていますが、物語はものすごく人間的で、どこかヒロイックなアクション映画のような印象を受けて。
そこで、個々人にスポットライトが当たるような、「ショーの舞台」を音楽として表現したかったのです。

このため、ジャズにはやや珍しいストリングスとハープも取り入れて、ファンタジックな響きを取り入れました。
ストリングスが管楽器と組み合わさると、煌びやかさが一層出るんですよ。
純粋なビッグバンドジャズの作曲では自分は初心者でしたが、
ファンタジー方面のストリングスサウンドと掛け合わせるのは当時から相対的に得意な領域だったので、実際正解だったかもしれません。

そして何より、(当時読ませていただいた冒頭数話分ではありますが)秘書ちゃんの活躍&成長ストーリーを描きたくて。
4話の秘書ちゃんの活躍ぶり、とってもカッコよかったですよね。
社長のいない中、美作君に果敢に挑んでいく討論対決は正直シビれました。
このOP曲でソロとして大暴れする、クラリネットのどこかコミカルで、それでいてカッコいいメロディーは、
そんな秘書ちゃんのドタバタ活躍劇にも通ずるものがあるかもしれません。
大慌てしたり天然を炸裂させたりしながらも着実に成長していく秘書ちゃんの勇姿を、サウンドを通して表現できていると嬉しいです。

そして、気づかれた方はいらっしゃいますでしょうか。
途中から入ってくる先ほどのストリングスパートは、ご紹介したミズキ君との戦闘曲のテナーサックスソロパートのメロディーを再構成したものなのです。
ゲームの世界観にもしっくりくるお気に入りのメロディーだったので、「犯罪者隔離世界」を表すメロディーとして設計し直しました。
編曲の力で、戦闘曲よりもちょっと明るく感じられるのも面白いポイントです。
こうしてストーリーを通じて同じモチーフを使うことで、曲調の違うジャンル間でも音楽としての統一感が出てくるのです。
もちろん、受け手としては無意識に感じる程度かもしれませんが、物語作品に音楽を添える上で重要な要素だと思っています。

ーーと、長く語ってしまいましたが、3曲について解説させていただいたので本日はこの辺で。

最後に、ダイレクトマーケティングのコーナーです。
OP曲「Welcome to the Isolated World」と、Vtuber活動5周年記念曲セルフカバー「I’m here」の入った3曲入りシングルを
ダウンロードデータとしてBOOTHにて1,000円で販売しておりますので、よろしければどうぞ。
今年4月末の春M3でリリースする際に、あざみさんとご連携の下、ハンカクのチラシとともに頒布させていただいたのも大変光栄でした。
ゲームを通じて知ってくださった方も何人か来てくださいました。交友の輪を広げてくださったことも、心より感謝申し上げます。

それと、旧Twitterもやっているので、ご興味あれば。
https://twitter.com/azamaru_shinkai

こちらでは普段は音楽よりもご飯の写真が多いので、自分は恐らく近いうちに「飯テロ罪」で隔離世界に無事収監されることと思います。

でも、夏に公開予定の5話のBGMを1曲と、ゲームのED曲も担当させていただいているので、公開後にまた楽曲解説記事を書きたいんですよね。
もし新海あざ丸が運良く「犯罪者隔離世界」から戻ってこられたならば。
ーー約束です。その時はきっと、またこのnoteでお会いしましょう。

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