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狭い世間の伝説。

読書記録5冊目。

◆読んだ本

『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹(創元推理文庫)

◆本のまとめ

千里眼の祖母・万葉、元レディースで漫画家の母・毛鞠、語り手のただの普通の女の子・私。
山陰地方の片田舎の名家、赤朽葉家の親子三代。時代に翻弄されながら、“家”とともに駆け抜けた女たちの物語。

◆感想

一言でいうと、人がたくさん死ぬ話だ。死にすぎではないかと思うくらい、たくさん死ぬ。ただ死ぬのではなく、その死が物語の鍵にもなっている。
老衰で死んだのは万葉の義母のみで、他は若くして死んでいる。
時代の死も描かれている。

死だけでなく、散りばめられた伏線がうまく絡まり合って、読後の達成感がすごい。

赤朽葉一族の物語だが、田舎の町なので、人間関係が狭い。
祖母・万葉の育ての親の息子がレディース時代の毛鞠と大きく関わったり、その孫が私の彼氏だったり。
万葉が初めてみた幻影の空飛ぶ男の正体である豊寿。その姪っ子が、母・毛鞠の親友だったり。

特に印象に残ったのは、みどりとの関係性だった。
山の上で鉄鋼業を生業とする"上の赤"と、山の下で造船業を生業する"下の黒"。
お互いにいがみあい、子供たちの間でもいじめにつながり、黒の娘であるみどりはいじめられていた。
万葉は文字も読めず、"辺境の人"に捨てられたので、学校でも孤立していたため、黒の娘である黒菱みどりは、万葉をいじめていた。

そんなみどりの兄は、美男子であるが、戦争に行ったきり帰ってこなかった。
そんな兄をみどりを待ち続けていたが、中学校を卒業した頃、帰ってきていた。
帰ってきた兄はおかしくなって、みどりの煌びやかな振袖とかんざしをつけて徘徊していた。
女装をしている兄は、汽車に轢かれて死んだ。自殺だった。自殺をした若者は"辺境の人"が死体を埋葬する習慣がある。
"辺境の人"の捨て子である万葉は、みどりに呼ばれ、"辺境の人"への合図であるトコネン草を焚いた。みどりとともに散らばった死体を夜通し箱に詰めると、疲れ切って寝てしまう。朝起きると、兄の死体もその形跡も無くなっていた。
不思議で恐ろしい話だ。

時代が進んで、地上写真が地図に載るようになった頃、みどりが万葉の下を急に訪ねてきて、言う。"辺境の人"が死体を祀る時に使う箱が地図に写っていたというのだ。
万葉とみどりは三日三晩山を登り、ついに箱を見つけた。2人は叫び、その時友達になったと感じる。
紆余曲折を得て友達となった2人、その描き方が

少し話が逸れるが、万葉の第一子の泪は、山で死んだ。そんな泪は同性愛者だった。現代と違って、(現代も変わらない部分もあるが)それはひた隠しにする嗜好であり、みどりの兄の女装と似ていると感じた。
男が男の責任を果たすことが求められていた時代が描かれていると思う。

それ以外でも、たくさんの人との交わりが物語を形作り、私に集約されていく。
"伝説"という表題がぴったりの作品だと思う。

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