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アイドルみたいな理由でぼくはブラック企業に入社した

「芸能界に入った理由はなんですか?」「わたしは興味がなかったんですけど、友達が勝手に応募しちゃったんです」

いやあ、あのときはやってしまったな。

わたしは、なんとなく展開が面白いからという理由で、すぐに悪魔のエレベータに乗ってしまう。

ある時期、わたしは「通常の」ブラック企業に勤務していた。社員はみんな「とんでもないブラック企業だ」と言って辞めていったけど、わたしにはみんなが嫌がっていたものに対して耐性があった。

これは「当たり」のケースだ。

そりゃ、みんながうらやむホワイト企業に勤められるに越したことはないけれど、次善の策は「たいだいの人は嫌がるけど、自分にとってはそんなにつらくない」場所を探すことだ。

大げさに言うならば、天職とはそういう領域にこそ存在する。

つらいこともあったけれど、どうしても辞めなければならない状況ではなかった。

それなのに、向上心のようなものが邪魔をした。

このまま、ここにいていいのか? もっと上を目指さなくていいのか? 

わたしは転職エージェント大手のJACに登録した。JACは外資系に強いことで知られている。そのせいかどうなのか、エージェントの方々も、成果主義に追われるがごとく、がつがつしたところがある(※個人の印象です)。

◇ ◇ ◇

問題の求人は、わたしにとって微妙なものだった。はっきり言って、先方が求めているものと自分の経験・スキルがほとんどマッチしていない

だからわたしは、

興味はあるのですが、応募要件が自分には合っていないようなので辞退します

とエージェントに返した。

ところが、エージェントは意外な提案をしてきた。

興味があるのなら、仮応募をしませんか? 先方の反応を見て、判断しましょう

そんなことができるのか?
「それならまあ……お願いします」となった。

わたしは正式に応募したつもりがない。それなのに、後日、そのエージェントのアシスタントから、

書類審査を通過しました。次は一次面接です。おめでとうございます!

と連絡がきた。

いや、応募してないよ! と思ったのだが、そこで断れるかというと、そこまでの信念もないというか、せっかくだから流れに乗ってみようかという気持ちになってしまう。

エージェント側のこの微妙なやりとりが計算なのかどうか今でもわからない。

担当エージェントはその日、たんに休暇だったから、アシスタントから連絡がきたのだろうか。それとも、それは計算で、仮応募うんぬんの話をうやむやにするために、あえてアシスタントを使ったのだろうか。いまだにわからない。

そういう手口があるのかどうか、JAC関係者の人、こっそり教えて

◇ ◇ ◇

ともかくわたしは一次面接に進んだ。出てきた部長は、その会社きっての天才肌の人で、話が早い。

ばーっと、事業の構想を説明し、その内容について短い会話をしたあと、わたしへの評価として

まあ、実際に採用してみないとわかんないしね

と言った。

実質、そこで採用が決まった。

この天才っぽい人との会話で、

求人票では、向こうが求めるものと合わない気がしたけど、部長が大丈夫って言うなら、けっこう大丈夫なのかな

と思えてきた。

エージェントが給与交渉をしてくれて、現職から年収が10%上がるのでわたしは入社をOKした。なにより、アイドルみたいな展開がのちのち伝説になると思ったのだ。

「この会社に入った理由はなんだったんですか?」「えっと、エージェントが勝手に応募しちゃったんです」

これは絶対におもしろい!

わたしは面白さに導かれて、悪魔のエレベータに乗ってしまった。

結果、地獄が待っていた。パーフェクトブラック企業。わたしは、職業人生、第2の底に突入する。

これが典型的なブラック企業のパターンだよ!!

ひとつ前のブラック企業は、わたしが耐性をもっていたから助かったけど、次のブラック企業には耐性がない。むしろ弱点。

ブラック企業に対して、弱点だけは掛け合わせてはいけない。
「ブラック企業耐性=天職」だとして、「ブラック企業弱点=まごう方なき地獄」だ。

◇ ◇ ◇

例の天才部長とは、

わたし「わたしに何かを感じて採用したんですよね」

天才部長「えっと、君は何ができるの?」

ものすごい次元でかみ合っていなかった。

よほどのことがない限り、転職なんてするものじゃない。今の職場で我慢できるのならそこにいたほうがいい。

どうしても、どうしても我慢できないとき、転職という選択肢を持ち出すべきなのだと思う。

まあ、伝説の転職にはなったから、当初の目的は果たしたのかもしれない。

せめて、多くの人に笑ってもらえますように。

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