サングラスでお仕事できますか?
一日中サングラスをかけて仕事をしている方はどのくらい、居るんでしょうか?芸能人で思い付くのはタモリさんと井上陽水さんくらい。芸能の方の中には「スポットライトやカメラのフラッシュがツラくて」と、ファッション目的ではない、という方がいるかも知れないですね。
溶接工の方、ガラス製品の検品の方、実は仕事中はサングラス(のようなモノ)という方は少なくありません。皆さんは職場が許すとして、サングラスをかけて仕事は出来ますか?仕事になりますか?ここまで言っておいて何ですが、僕も仕事中サングラスをかけているわけではありません。僕は仕事上、たまにサングラス(のようなもの)が欲しくなるときがあります。お客様から「コレ、何色ですか?」と聞かれた時「少々お待ちください」としか言えません。
僕は先天性色覚特性です。最近では色弱、色盲、色覚異常という呼び方は差別を生む、ということであまり使われなくなりました。色覚特性、色覚多様性というような言い方をします。古い言い方で言いますと、僕は「色盲」にあたります。強度の部類になります。
色弱、色盲にとって昭和の時代こそ就職の門戸が狭かった様ですが、令和の今そういった職は両手で数えられるほどです。
例えば『お医者さん』であれば患者の顔色、血液や尿の色、薬の色、命に関わるコトも多いですから、分からないと言えない立場です。
旅客を運ぶ『パイロット、運転手』飛行機、電車、バス、いずれにしても色分けされた計器が分からないと『命』を守れません。職によっては、ですが色の見分けがつかないは命取りです。
色盲の僕がやっている仕事、ソレは命に関わるコトが極々少ない『メガネ屋さん』です。
メガネ屋の仕事というものは不思議なもので、近視の度数が強いほど、お客様の気持ちに寄り添える。近視に限らずですが、自身が抱えている、視力の問題の多さ、大きさがそのままチカラになる、少し特殊かもしれない業界です。
先述の通り、色覚異常を克服するために見た目はサングラスのような「色覚補正レンズ」というものをかけなければならないのですが…。特に僕のように色覚のズレが大きい人はものすごく真っ赤なレンズをかけなければいけないのです。
「いらっしゃいませ~!」
と朗らかに奥から出てきたスタッフが真っ赤なギンギラギンのサングラスをかけていたら。ほとんどの方はスゴい店員出てきたな、店を間違えたな、と思うはずです。メガネ屋は接客業でもありますから、そういったメガネを常時かけているわけにはいきません。幸いにも色を厳密に見分けなければならない、という内容の仕事はほぼありませんし、あったとしてもソコだけ誰かに変わってもらえれば良い話です。
僕は色覚特性を持っています、と公言していることもあり、色覚特性の相談をよく受けます。色覚特性の悩みは多岐にわたります。
就職して初めて自分が色覚特性を持っていることを知った、職場に貼りだされたスケジュールシートの色分けがわからない、プレゼン資料を見ても強調されているところに気付けない等々。
先日、3000人に1人いるかどうかというレアケースな大学生のお客様を担当しました。僕同様に強度の色覚特性でしたので普通の補正レンズでは真っ赤なサングラスになってしまいます。普段使い出来る、外から見てレンズの色が気にならないようなモノ、というオーダーでした。
なんとか気に入ってもらえるご提案が出来、完成まで楽しみにお待ちくださいとお帰り頂いたその夜、相談者のお母様から伝え聞きました。
「私、このメガネ出来上がったら服を買いにいきたい」
今回のお客様、非常に珍しい、女性の、そして強度の方でした。
僕の場合、色盲を理解したその日から「色」に対する興味がなくなっていきました。どうせ間違うし、と諦めていたんですね。男ということもあり色鮮やかな服装を求められるコトもないので全く気にしていませんでした。僕はその感情を忘れていました。
みんなが当たり前に出来ている。
どの色にしようかな
あれも良いな、これも良いな
この色、かわいい~
今まで不自由だった、キレイな色づかいの服を買う、がやっと叶う。
そう思ったら、電話中にも関わらず頬を伝う涙。良かった。本当に良かった。そう思ってもらえることが出来て。そしてこの仕事を選んで間違っていなかった。本当に良かった。
一応、今回使用したレンズ情報も載せておきます。色覚補正のエビデンスがあるレンズではないので。念のため。
補正レンズは色の濃いタイプであるほど補正効果は高くなります。今回は薄いレンズでの購入でしたが、今後はっきり見たいとき濃い方のメガネも作りたい、と仰っていたようです。その時は一番かわいい服を着てお店に来てもらえたら嬉しいですね。そしたら僕また泣いちゃう(笑)
この文章を打っている今も涙腺が大活躍です。僕は色覚特性ってメガネで直せるのかな?という興味からメガネという業界に入りました。色覚特性を持っていなければ、今回の女の子の笑顔を見ることも出来ませんでした。今こうして涙ながらに文章を打つこともなかったはずです。
いろんなメガネ屋さんが言っています。メガネ屋が作るのは「視力」ではない、「快適な生活環境」だ、と。コンプレックスが視界に入ると誰でも嫌な気持ちになります。小さなコンプレックスを大きいハッピーな世界に変える。
メガネ屋は僕の天職です。