アーネスト番外編スピンオフ/ナヲズミ編(5)
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【前回のあらすじ】
ナヲズミの母のフユミの病気が完治した後、
家族4人で お花見へと出かけた。
学校の教師のほうには復職せずに、
そのまま家族との時間を過ごすことを
選んだのだった。
そして、それからの、その後のフユミや
ナヲズミ達の彼らの日々は……。
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【第5話】
――お母さん、大丈夫……?
ええ。…大丈夫よ。
……だから、そんな心配そうな顔しないで。
ヒロキも、…ナヲズミも。
あの春の日に、家族でお花見に
行った日から数年後。
フユミは、1度は病気も完治したものの、
それからまた数年たって、病気が再発してしまった。
入院して治療をしていたが、その場面はやってきてしまった……。
***
母のフユミとのお別れの場では、
当時の教え子の生徒たちも、何人かやってきていた。
みんな、新聞の欄を見て気づいた人が、
いまも連絡を取りあっている友人同士でやってきたり、
または個人で会場に問い合わせをして、
1人でやってきた人であったりと様々だった。
フユミが教えていた当時は中学生だったが、
もう今では20歳をむかえて成人している
元生徒もいた。
その元生徒たちが、
喪主のコダマにこう話しかけた。
「私たちが生徒だった頃……、フユミ先生、
夏休みに、科学館に行ってきたっていう思い出があって。
…それで、そのときの夏休み明けに、
木彫りのキーホルダーを見せてもらったことがあるんです。
『先生、意外と器用だったんですね』って、笑って、
みんなで話したりして……っ。」
「うん……、それで、……そのあと、
その木の彫刻の工芸品を作っている方とご結婚されたときいて……、
私たちも…、嬉しかったです……。
中学校を卒業して、
高校にあがって以降は、もうそれきり、先生とも
連絡をとることもなくなって
いましたけど……。」
「あ……、でも、1度だけ、
ジュンちゃんが会ったことがあるんだよね。」
「うん、地元の街中で…。
自分も大学1年生になったところで、……休みの日に
街をぶらぶらしてたら、声をかけてきた
女の人がいて。…それが、フユミ先生だった。
…あぁ、いまでも自分たちのこと、覚えてくれてるんだなぁって
うれしく思ったし……。
……それに、フユミ先生も、結婚して苗字が変わって、
さらに小さい子どもが2人もいるんだなぁって知ったら、
幸せそうでよかったって思えたよ……。」
「ね……。…でも、それが、……まさか、こんなに早く、
フユミ先生-……、亡くなることになるだなんて……っ。
早すぎるよ……っ。そんな……不公平だよぉぉ……っ。」
堰を切ったように、そこで1人の元女子生徒の涙があふれ出して、
それから、ほかの友人たちの子も、つられて泣き出していった―。
父のコダマは、その様子を、ただ無言で、
ポンポンと背中をたたいてあげてはなぐさめていた。
すみません……と、元女子生徒が言った。
……父のコダマの少し離れたところの
後方にいたナヲズミと、ヒロキは、
――その様子を見ては、
ナヲズミが、「行こう。向こうの、人の少ない所」と、
弟のヒロキの手をひいた。
ナヲズミは高校1年生、弟のヒロキは11歳だった。
弟のヒロキのことを気にかけただけでなく、
自分たちがここから少し離れた場所にいるほうが、
弔問にやってきた元教え子の人たちも、気兼ねなく、泣けるだろうと
思ったからだった。
***
人の少ない場所で、休憩中の2人。
弟のヒロキが、兄のナヲズミに、話しかけた。
「…ねえ、兄ちゃん。」
「ん?……どうした?」
「ん……、なんでもない。
……ただ、いろんな人が来ては、みんな泣いたり、
かなしがったりするものだなぁって。
……お葬式っていう場所は。」
「うん……。それはそうだよ。
…みんな、母さんが亡くなって、悲しんだり、
寂しがっているからな…。」
「……じゃあ、……それは、兄ちゃんも―……?」
「うん?」
ヒロキの言葉に、ナヲズミが振り向いた。
「あ……、ごめん。…そうだよね。
悲しがったりしてないわけは、ないよね……。
…ただ、兄ちゃんも、お葬式の式のときも、
気丈にすごしていたから……、つい……。
おれは、泣かないようにって、必死に気持ちをこらえていたんだけど……。
兄ちゃんは、おれとはちがって、強いなって……。うん……。」
自分で話していた言葉をとぎらせて、ヒロキがうつむいた。
「……馬鹿。……そんなこと、ないよ……。」
「うん……。」
静かに、ナヲズミが、否定して。
それにヒロキが、ぽつりと、小さく消えるように返事をした。
***
さきほどの、お葬式の場面にて。
みんな、かなしそうに泣いていたり、その様子を
なだめる別の友人だったりと、
その様子を、長男のナヲズミは、ただ黙って、感情をこらえながら
見つめていた…。
母の子どもの自分たちも、おなじように、泣きたいだろうに。
…でも、ほかの人たちの様子を見ていると、
なぜかそれは出来ないことのように
思えてしまったのだった。
……だから、悲しい気持ちをこらえて、我慢して、
その場をやり過ごしていた。
父が、1人ずつ、やってきた人に向けて、精一杯の、
きづかいの微笑みをしていたからなのもあるだろう。
そこに、自分まで泣いてしまうわけにはいかない。
高校生になったナヲズミは、まだ中学生になる前の、
弟のヒロキの肩を、終始ずっと ぴったりと、
自分の体へと寄せつづけていた。
ヒロキも不安な気持ちだっただろうが、兄のナヲズミが
寄り添ってくれていたことで、泣き出すことはなかった。
「兄ちゃんが居てくれて……心強いよ。…おれ。」
「ん……、そうか。」
「うん……、そう。」
ふふ……と、すこしだけ口元に、
ほほえむ余裕ができたヒロキを見て、
ナヲズミも、「そろそろ向こうに戻るか。……父さんが、
自分たちのことを探し出すといけないし。」と言っては、
また2人で、
全体のいる場所へと戻っていった。
(つづく)
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