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スラムダンク映画レビュー(感想):『THE FIRST SLAM DUNK』監督の井上雄彦さんに見る創作のおしえ

 ふぅ。この作品について、書くか書くまいか少し悩んだけれど、やはり書こう。

というのも、作品が尊すぎて言語化したくないという気持ちなのだ。

言語を否定するわけではないのだけど、なんだろう。走査線で仕切られたマスに当てはめて信号化される形に押し込みたくないという、気持ち。

あくまで感覚で感じたままにしておきたい。

それはこの映画で体感したことが、情熱や興奮、愛情そのものだと思うから。

情熱や興奮、愛情そのもの。会ってもいない制作者さんたちや実在してもいないキャラクターたちのそれを、本当の意味で感じられる作品はそうそうない。この体験を、大事にしたい。

その場の空気の動きまで感じるリアリティ


井上雄彦さん自身は、この映画をSLAM DUNKの「新しいひとつの命」と表現していました。

映画が始まって一番最初に感じたのは「みんな生きてる!」という感覚。

Spotifyのポッドキャストで井上さん自らが「血を通わせる」と仰っていて、まさにそんな感じだった。

スラムダンクのファンは、連載が終了したあとも桜木花道や流川楓が自分たちの中で生きていて、会話しています。

だから、キャラクターたちを再び動かすのであれば、まるで生きているようにそこにいないと、がっかりしますよね。

ご本人がそこに最大限に気をはらって制作されていたのが、本当に嬉しかった…。

それは予告編の映像でもわかったので、絶対に観なきゃと思っていました。

劇場のスクリーンで観てみて、その手触り感は予想をはるかに超えていました。

CGで立体的に人物を表現するだけでは、あんなふうに ”そこにいる感” は作れないと思う。

変化がつけられた線の太さ、心情をそのまま表すわけではない人間の表情の細かい描写、手を使って筆で塗ったような色の濃淡、声優さんたちの表現力。

全てが美しく、生命とともにキャラクターを描いていました。

ゼロからあそこまでのリアリティに辿り着くまで、どれだけの苦労があったろう。

井上さんやクリエイターの方々の苦労と情熱が画面からビシビシ伝わってきて、ストーリー上の感動に加え、アニメーターさん達の筆圧のようなものが顔全体にぶつかって、更に泣かせる。

一緒に観に行った仲間が、映画鑑賞したというよりか、スポーツした感じだよね。と言っていた。それも同感。

湘北チームの中に入ってメンバーとしてバスケをしてる感じ。メンバーの微妙なアイコンタクトや、疲れ、マッチアップしている選手とぶつかったときの衝撃など、全てを感じ、その場にいた感覚。

映画館を出た時、バスケやりてー!ってなる。

映画鑑賞の体験として、新しい感覚。
こんなの初めて。

制作陣の情熱。こんなに本気で仕事してる人たちが、いるんだ。
俺もっと頑張らなきゃ。って、思った。

だから、まだ観てない方がもしいたら、絶対に劇場に行ってほしいです。
この映画の上映が終わったら、こんな体験は十数年単位でしばらくできないと思います。

パンフレットに書いてあったもの


 そして、このnoteをやっぱり書こうと思った大きな理由の一つが、パンフレットです。

井上さんのインタビューが、なんか静かに読み応えがあって、すごいんです。挿絵も含めてたった4ページだけど、そこで感じる、井上雄彦さんの創作に対する姿勢。

創作というものについて全てに通ずる教科書になると感じました。

制作の世界には、孤高な存在となる作者がいて、その方のわがままとも勘違いされるようなオラオラな振る舞いで傑作を作るスタイルもあると思うし、それを否定もしないのですがー。

井上さんは、孤高な存在にも関わらず、そういうスタイルではない。

漫画というほぼ一人で創作が簡潔する作業と、皆で力を合わせないとできない映画製作という作業の対比をはっきりと認識し、それについて話しています。

そして、その中で起こるコミュニケーション。ご自身は映画監督として初めてなので、ゴールは分かっているけどそこにどうやって辿り着くのか、アニメの技術としては分からない中で指示を出さなければならなかった。

その中でどんなふうにコミュニケーションを取って、どうやって伝えていったか。

スタッフさんたちの心意気、返ってくる反応、みんなでやっているからこその苦労や、自分の領域を超えて予想外に良くなったときなど、制作という一つのプロジェクトの中で起こること、コミュニケーションとして大切なことが、全部このインタビューに含まれている気がします。

読者とどう対話してきたか


 インタビューの中でも、なぜ自分が監督として参加したかの理由のところで少し語られていますが、井上さんは、いつも読者を置き去りにしない。

過去にスラダン関係で行った企画や制作も、どこかファンのためにという視点が必ず入っているのが、とてもあたたかいです。

ファンと直接握手はできなくても、井上さん流のファンとの対話の仕方が、この作品の映像にも、振る舞いにも現れています。

こんなにも丁寧にファンとずっと付き合う、そこを雑にせず振る舞い続ける井上さん。お勉強になったというか、なんだか手を合わせたい気持ちになりました。

なんだろう、この言語化力


 井上さんの、言語化力もすんごいなと思いました。

インタビューの中で、その時の気持ちと状況、スタッフとの対話で何が必要だったかなどを分かりやすく表現されていて、そこにいなかった人間にもこんなに分かる形で話してくださるインタビュイー、なかなかいないんじゃないでしょうか。

この言語化力そのものが、生命力あふれる作品を作るまでに制作陣みんなを先導できたゆえんなのではないかとも思いました。

同時に、この記事を書いたインタビュアーの方の引き出し力にも、敬服します。

公式パンフレットだからという部分もあるとは思いますが、聴くべきことをちゃんと聞いて、知りたいことをちゃんと引き出して作者にお話してもらえるインタビュー、すごい。なかなかできない。

公式の刊行物で、逃げずに外さずに、ど真ん中の質問をしないといけないインタビューほど、難しいのではないでしょうか。

井上さんに対してのリスペクトもちゃんと感じさせつつ、現場の苦労やうまくいかなかった部分など、この映画の制作に関して知りたかったことが、ほぼこのパンフレットに書いてある。

なので、パンフレットも買ってほしいです。

もし、百歩譲ってSLAM DUNKにあまり興味が無かったとしても、制作に携わる方にはパンフレットだけでも購入していただいて、井上さんのインタビューを読んでほしいです。

それくらい、このインタビュー記事には感動しました。


ということで、音響演出の笠松広司さんの話によると音響はDolby Atmosで制作しているそうなので、おかわりはDolby Atmosが入った劇場で観てみたいと思いました。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』の制作に携われた皆さん、ありがとうございます。

井上雄彦さん、ありがとうございます!

hanata.jp


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