音はまだ聞こえる
中学、高校ともに吹奏楽部に所属していた。
最初はフルートを希望していたが、「リズム感あるね!」と判断され、希望していなかった打楽器に。今では、指揮者・指導者の目の前に座り続けることにならなくてよかったと思うし、演奏しなくなった今でも打楽器は大好きだしで、結果オーライである。
好きな打楽器はティンパニ、バスドラム(大太鼓)、マリンバ(大きめの木琴)、エトセトラ。特にティンパニが本当に好きだった。音だけじゃなく、ティンパニのあの囲われている空間も大好きだった。できることなら、全曲ティンパニを担当したいくらいには。
打楽器は同じ曲で同じパートを演奏することが少ない。管楽器であれば1st○人、2nd○人と複数人で同じメロディを吹くこともあるけれど、基本オンリーワンで突き進んでいく打楽器にはそれがない。探せば同じ楽器を二台並べて叩く譜面もあるだろうが、私はついぞ出会わなかった。
あとは……おそらく音楽に明るくない人が聞くと「目立たない」と思う。シンバルやドラムロールはたしかに派手だが、その後でずっと鳴っているバスドラムの存在は、様々な音階を持つ管楽器に霞んでしまうだろう。その気になればバンドをひっくり返してしまうような音量と圧があるし、私イチオシのティンパニは「第二の指揮者」と言われるほど影響力があるんだけどなぁ……。メロディの後ろで凄いことやっている時があるんだけどなぁ……。閑話休題、一度でも音楽に携わった人たちなら気がついてくれるけど、全く知らない人たちからすればたぶん主役のメロディを盛り上げるBGM、そんなところではないだろうか。自分で言っていて悲しくなってきた。
そんな打楽器にもソロはある。
楽譜にsoloと書かれてはいなかったけど、バンドで合わせたらティンパニしか動きがなかったことがわかった。
たった一小節と四分音符一つ分。それでもソロが回ってくるのは、緊張するし、めちゃくちゃ嬉しい。
気合いを入れて、このマレットのおろし方がいいかとか、こんな鳴らし方がいいかとか、夢中になって練習していた。
大会本番。
ステージの上は意外に暑い。緊張して暑いのもあるだろうけど、演者を照らすライトの強いこと強いこと。裏でチューニングを済ませたはずなのに、鳴らした音は何処か的外れ。こちらを鳴らしながらあちらの音の微調整……そして音を変え、多分またずれるだろうから目安このくらいずらして……と、楽器を鳴らすこと以外でも頭も体もフルで使っていた。
結果は優勝(本当は優勝なんてわかりやすい言い方じゃないんだけど、便宜上の一等賞ということで)。ただ、次の演奏会は次年度なので、メンバーも曲も変わってしまう。
この曲ともこれでお別れかぁ。そう思っていたが、その年の定期演奏会でまた演奏することになって、内心、とても喜んだ覚えがある。
高校を卒業して数年後、同じ部活だった友人のTwitterを見た。
「あの曲の(大会の曲)の華音のティンパニがイケメンだった」「思い出したら他の人のあの楽器の音も聞きたくなったけどあのイケメンぶりには敵わんが」
イケメン?why?who?
そんなふうに思ってたなんて、現役時代一度も聞いていない……?
それよりも、もう数年会えていないのに、私はもう打楽器から離れてしまっているのに、それでも思い出して「良かった」と言ってもらえるのが嬉しかった。
そこからさらに数年。まだその友人には会えていない。きっとその呟きをしたことも忘れてしまっているだろう。それでも、次に会ったらありがとうをどうにか伝えたいな、と思っている。
あの頃みたいにはマレットを振り回せないし、きっちりリズムを刻むことはもうできないだろう。あの頃みたいながむしゃらに、ひたむきに、曲や楽器と向き合えることももう無いかもしれない。
それでもまだ、あの四分音符5つ分の音は、耳の奥で鳴っている。