キッチンの中心で「暑い!」と叫ぶ
まだ6月である。
7月の気配はすぐそこにあるものの、まだ6月なのである。
「ピンポーン♪」
我が家に夏の気配がやって来たので、
「はーい」
と陽気に玄関のドアを開けたら、いきなり殴り倒された。6月であるにもかかわらず、そんな衝撃的、かつ暴力的な暑さだ。
本日の我が家のキッチンの室温は、すでに36度を指している。怖い。
私はこのキッチンを離れ小島と呼んでいる。夏場は他の部屋と全く異なる雰囲気を醸し出す、ホラーなキッチンだ。
エアコンの風が一切届かない。しかもエアコンがつけられない。
それなのに、太陽の日差しを一身に受ける構造になっている。我が家のキッチンは、調理に不向きであるだけでなく、同じ国、同じ県、同じ町内、同じマンションの一室とは思えぬ程の熱気を放っているのだ。
キッチンだけ異国のようである。
この暑さ、ビーチならまだ許せるが、ここはキッチンだ。
ビーチなら、波打ち際でキャッキャできるが、私はここで煮炊きをしなければならない。
しかも私はすこぶる暑さに弱い。
外気温が30度を指し始めると、普段の怠惰な性質が輪をかけてひどくなり、もはや人間と呼べるレベルではない生き物になっている。
そのダラけ具合は態度だけにとどまらず、肌も汗に負け、赤くただれている。これがもう、本当に痒いのだ。
「痒い痒い!」
そう私が嘆いていると、夫が横で
「カーイカイカイ♪ カーイカイカイ♪」
アニメ怪物くんのテーマソングを歌い始めた。
しかしながら、全くもって愉快痛快ではない。ただただ暑くて痒いばかりである。
それなのに、こんな酷暑の中、外で働く人がいる。
なんということだろう。
最近、「感謝しかない」という言い回しが横行していることに眉をひそめる人もいるようだが、この体を蝕むような酷暑の中、懸命に外で働く猛者の皆さんを目にすると、もう本当に尊敬しかない。
間違った日本語であることは重々承知だが「尊敬」以外の言葉が見当たらないのだ。この強烈な暑さのせいで、様々な称賛の言葉は意味をなさずに、無残に焼け尽くされ、そこにはただ「尊敬」の一言だけが焼け残っている。まさに尊敬しかないのである。
炎天下での仕事をこなす人がいる一方で、私は36度のキッチンで「助けて下さい!助けて下さい!」と心の中で悲鳴を上げている。なんと情けないことだろう。そう思いながらも、私はキッチンの中心で、
「暑い!」
と、叫ぶのをやめられないのである。
どうやら私は、昨年も同じことを言って嘆いていたようです。
カーイカイカイ♪ カーイカイカイ♪
もう18年前の作品なんですね…。