アイスモナカを愛す
私は我慢の利かない女である。
袋菓子など一度開封してしまうと、途中で袋を閉じてとっておくことができない。さすがに最近は四十路も半ばに差し掛かり、袋菓子を平らげるようなことはしなくなったが、若い頃は、気が付けば袋の中が空っぽ、ということがざらであった。
全部食べたらダメだ!
そんなことを思いつつも、目の端で食べかけの袋菓子を追っている。そうなると、ずっと食べかけの袋菓子の気配を背中で感じながら、時を過ごすことになってしまう。
お菓子を全部食べられない、というのはストレスだ。
目の前にあるのに食べられない。
この、「ある」と「ない」が同居する矛盾に、私の心は掻き乱されてしまうのだ。
袋菓子を全部食べずに取っておける人は、辛抱強い、できた人だと思う。我が家にも、そんなできた人が一人いる。
夫である。
私の夫はとっておける人だ。
ブルボンの袋菓子にチョコリエールというクッキーがある。
個包装になっており、ひとつの袋に二枚のクッキーが入っている。夫がこのチョコリエールを食べるとき、たまに一枚だけ残していることがあるのだ。
個包装の袋は小さい。
その袋が開いたところをわざわざ輪ゴムで閉じている。残された一枚のチョコリエールは、苦しそうに袋の中で身を締めているように見える。
見るに忍びない。そして何だかじれったい。今日中に食べるつもりでいるのか、もしや明日のコーヒータイムまで取っておくつもりでいるのか、気になって仕方がない。
こういうとき、私はつい、
「残ってるの食べちゃっていいの?」
と訊いてしまう。
ここで夫は「オレのだからダメ」「明日食べるんだから!」などとは言わない。大抵、
「いいよ」
と言ってしまう。夫が優しい分、私は肥えてしまうわけだ。
そんな夫が好んで食べているアイスが、アイスモナカである。
アイスモナカといえば、やはり有名なのが、チョコモナカジャンボだろう。
ロングセラーのアイスクリームだ。しかも近年は、モナカの部分もチョコもパリパリで歯触りがいい。その進化に企業努力を感じてしまう一品である。
最近では、コンビニのプライベートブランドでも、安価なアイスモナカを見かけるが、これもまた、チョコモナカジャンボと違ったしっとり感を味わえて良いものだ。
休日の昼下がり、アイスでも食べようかということになって、
「なにがいい?」
と訊くと、夫は大概、
「モナカのやつ」
と言う。
私は仰せの通り、自分の食べたいアイスと、モナカのやつを買って帰り、コーヒーを淹れ、アイスモナカと一緒に渡すのであるが、夫は決まって、モナカを半分割り、
「これ、冷凍庫に戻しといて」
残りのアイスモナカを私に手渡してくるのである。
「そんなに惜しみ惜しみ食べて、本当に好きなんだねぇ」
私が言うと、
「違うよ。他のカップアイスだと、取っておいても面積が減らないから邪魔になるけど、モナカは食べた分小さくなるから冷凍庫を圧迫しないんだよ。モナカは取っておきやすいアイスなんだよね」
夫がアイスモナカを愛する理由が「取っておきやすい」ということだとわかり、私は驚きを隠せなかった。冷凍庫の面積まで考えて食べるものを選ぶなんて、そのとき食べたいものを、ただ買うだけの私にはできない芸当である。
やはり、おやつを取っておける人、というのは、考えることが一味違う。無闇矢鱈に食べてしまう私とは違い、全てにおいてソツがなく、行き届いているのだろう。
そう思いながら、私は半分になったアイスモナカの袋を輪ゴムで止め、それを冷凍庫の隙間にしまった。
この記事が参加している募集
お読み頂き、本当に有難うございました!