ブラックでプレミアムな金曜日
「ねぇ、ブラックフライデーとプレミアムフライデーって何が違うの?」
私は夫に訊いた。
近頃、何かと金曜日界隈が賑やかだとは思っていた。しかし、私は関心がないことを、とことんほったらかす悪癖があり、このときまで、私はその詳細を把握していなかったのである。
しかし、そんな世間知らずな私でも、11月も中頃を過ぎると、ブラックがやたらと騒がしいことに気づき始めた。そういえば少し前に、プレミアムも話題になっていた記憶がある。もしかしたら、ブラックにせよ、プレミアムにせよ、これに乗り遅れたらエライことになるのではあるまいかと思い、
「ねぇ、ブラックフライデーとプレミアムフライデーって何が違うの?」
そう夫に訊いてみたのである。私の問いに、夫は宙を見ながら一言。
「味わい?」
と答えた。
ブラックとプレミアム。
並べてみたら確かに、ビールの味わいさながらである。もし金曜日にビールの飲み比べ大会が行われるなら、是非とも参加し、浴びるように飲みたいところではあるが、その程度のことで、ここまで世間が騒いだりはしないだろう。
夫はブラックとプレミアムの違いを知っていながらも、とぼけたことを言うばかりで、気安く答えてはくれない。仕方なしに自分で調べてみると、
プレミアムフライデーは2017年2月24日から始まった日本政府と経済界が提唱した個人消費喚起キャンペーンで、
ブラックフライデーはアメリカで毎年11月の第4木曜日に行われる感謝祭の翌日の金曜日のことだそうだ。
ここでいちいち言われなくても皆さん既にご存じのことだろうが、どうやら、プレミアムの方はあまり盛り上がっていないらしい。
それに引き換え、ブラックの方は勢いを増すばかりだ。
軒並みセールの見出しが躍り、スーパーマーケットのチラシを見ても、Black Friday の文字が黒光りしている。
しかし、スーパー自体はこの黒船襲来にまだ慣れていないらしく、近所の店舗では、黒いパッケージの商品が、目玉商品として並べられていた。その陳列の中で、黒糖かりんとうが居心地悪そうにしていたのを見て、少しばかり気の毒になった。
いつも菓子売り場でひっそりと、自分を愛食してくれる人に買われていく日々を送っていた黒糖かりんとうが、ただ黒いというだけで、突然、目玉商品にされてしまったのである。きっと黒糖かりんとうも、普段は上がることのない華やかな舞台に尻込みしたに違いない。
昨年は、黒糖かりんとうが困惑するほど、ブラックフライデーは盛り上がっていたのだろうか。
そんなことを思い返していたら、ちょうど昨年の今頃、AmazonでEcho Show 5を半額で購入していたのを思い出した。
私はブラックフライデーを意識することなく、Amazonのブラックフライデーセールに参加していたのである。私のことだ。
「おおっ! 半額!」
と思うだけで、それ以上のことを考えなかったのだろう。それか、届いたEcho Show 5に
「アレクサ! アレクサ!」
と話しかけ過ぎて、喉をからしてしまったため、ブラックフライデーのことが、すっかり頭から消え失せてしまったのかもしれない。
そんな私も、今年はきちんとブラックフライデーを意識したうえで、セールに参加することができた。
買った物は、愛用のシャンプーと、ポータブルハードディスクである。
いざ、セールになってみると、案外買いたいものが見つからないものだ。この時期を狙って散財する人も多いらしいが、そういう人はあれこれ見定めて、安いときを狙える、買い物上手な人なのだろう。私はどうも、気ばかり焦ってダメである。
焦った結果、ギリギリになって、こんなものを買ってしまった。
ブラックでもプレミアムでもない、赤く輝く第3のビールであるが、企業努力のおかげで、これもなかなか美味しいのである。
ブラックフライデーにちなんで、ちょっといい黒ビールでも買おうかと思っていたが、そうこうしているうちにブラックフライデーセールも終わり、更にそうこうしているうちに、なんと今年も師走になってしまった。
気ばかり焦ってしまいそうなひと月にならないよう、しっかり2022年を締めくくりたいものである。