〔介護を学ぶ8〕誕生日は 母を苦しめた日
なぜ介護をするのでしょうか。
受けたご恩を知ることが、介護の出発点でしょう。
古典に学んでみましょう。
◆恩とは
「恩」という字は、「因」の下に「心」と書きます。
「原因を知る心」ということでしょう。
「こんなに恵まれているのは、誰のおかげか」
「どなたのご苦労があって、私は生かされているのか」
その原因を知れば、そのご恩を感じ、報いようという心になります。
『仏説父母恩重経』には、親の恩について詳しく教えられています。
介護とは、弱き家族をまもることでしょう。
最も弱い者は、生まれし子どもです。
父がいなければ、生まれることはできなかった。
母がいなければ、育つことができなかった。
父母に守られて、私達は生まれ育ちました。
今回は、親の大恩十種の二番目、「臨生受苦の恩」から学びます。
◆陣痛に耐え、出産してくださったご恩
臨生受苦の恩とは、出産に臨み、
大変な苦痛を受けてくださるご恩のことです。
『父母恩重経』には、こう記されています。
「いよいよ月満ちて子どもを生む時になると、
全身がバラバラになるように痛み、あぶら汗が流れ、
その苦しみは耐えがたい」とあります。
握らせた青竹を、押し割るほどの激しい痛みに耐えながら、
母親は子どもを生むのです。
出産の苦しみを「陣痛」といいますが、「陣」は戦場のことです。
男性は戦場を命をかけて戦いましたが、
女性にとって出産は命がけなのでしょう。
◆誕生日は母を最も苦しめた日
“水戸黄門”で有名な徳川光圀は、誕生日には最も粗末な食事をとっていました。
その理由をこう言ったといいます。
「誕生日こそ、亡き母上を最も苦しめた日なのだ。
それを思うと、珍味でお祝いする気にはどうしてもなれぬ。
せめてこの日だけでも、粗末な料理で母上のご恩を感謝したい」
◆受けたご恩は忘れがち
「貸し手は 借り手より記憶がいい」ということわざがあります。
お金を貸したことは忘れませんが、借りたことはすぐ忘れてしまう、
という意味です。
貸した時、「あの時、あの人に、あの場所で、〇〇円貸した!」と、
しっかり覚えています。
一方、借りる時は簡単に借ります。
請求されても、「そんなお金、借りたっけ?」と、
うる覚えではないでしょうか。
恩についても同じことが言えそうです。
人にしてあげたことはよく覚えていますが、
してもらったことは忘れがちではないでしょうか。
「懐胎守護の恩」も「臨生受苦の恩」も、
子どもにとって知らない時に受けたご恩です。
なんといっても、生まれる前に受けたご恩ですから。
私たちは、自覚している何百倍、何千倍ものご恩を、
両親から受けているに違いありません。
介護とは、家族をまもること。
受けたご恩を知ることが、介護の原点ではないでしょうか。
参考文献
1)木村耕一:『親のこころ』,1万年堂出版,2003