傷が 一線を越えると トラウマになる
トラウマという言葉は今日、広く知られており、
「心の傷」という意味で使われています。
私が皮膚科医になって習ったトラウマは、「皮膚の傷」のことでした。
どうすれば皮膚の傷をきれいに治すか、それがトラウマの治療でした。
ここで皮膚の構造を細胞レベルでみてみましょう。
◆表皮の一生
皮膚は表皮と真皮からなっています。
表皮は細胞が積み重なって構成されており、一番下層を基底層といいます。
基底層の細胞を基底細胞といいます。
基底細胞の仕事は「細胞分裂」であり、毎日せっせと分裂して、
仲間を増やしています。
分裂した細胞は、上へ上へと押しやられ、
約1か月で垢となって落ちます。
表皮の一生は約1か月です。
◆痕が残るかどうか
やけどの患者さんが必ずといっていいほど尋ねる質問が、
「痕は残りますか?」です。
皮膚の構造からみると、基底細胞がやられていなければ、痕は残りません。
基底細胞が分裂して、表皮をキレイに修復してくれるからです。
一方、基底細胞が損傷を受けると痕が残ります。
痕が残るかどうかが分かれる一線は、基底層です。
トラウマ(心の外傷)も、同じようなものかもしれません。
衝撃的な出来事によって脳の細胞がダメージを受けても、
それが許容範囲ならば、脳の細胞は修復されるでしょう。
一線を超えた衝撃の場合、脳の細胞は元通りに修復されず、
傷が残ってしまうのでしょう。
トラウマとは、そういうものかもしれません。
◆ハラスメントがトラウマに
世の中には、傷を負う機会が山ほどあります。
「ハラスメント」を検索してみると、
実に多くのハラスメントが見つかりました。
そのうち10個を示します。
1.パワハラ(パワーハラスメント)
2.セクハラ(セクシャルハラスメント)
3.セカハラ(セカンドハラスメント)
4.モラハラ(モラルハラスメント)
5.アルハラ(アルコールハラスメント)
6.アカハラ(アカデミックハラスメント)
7.ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)
8.リスハラ(リストラハラスメント)
9.スクハラ(スクールセクシャルハラスメント)
10.ドクハラ(ドクターハラスメント)
皮膚の深い傷は、たとえ治ったとしても、
硬く引きつれた瘢痕を残します。
自分の心に、トラウマを残さないためにも、
傷が深くなる前の対処が必要です。
瘢痕を残すくらいなら、逃げた方がましでしょう。
また、他人の心にトラウマを作らない心がけも重要でしょう。
相手が思い通りにならないとき、
「これだけ言っているのに、まだ分からんのか!」
と、ついつい言動が過激になってしまいます。
相手の心に、取り返しのつかないトラウマを作らないよう、
注意したいと思います。