化学物質過敏症は「アレルギー」ではなく「脳の病気」
◆化学物質過敏症とは
化学物質過敏症は、いろいろな化学物質によって、
多種多様な症状を起こします。
1999年、米国国立衛生研究所が主催の会議で、
以下のように定義されました。
①再現性がある(同じ症状が出る)
②慢性
③わずかな量で症状が出る
④原因物質を取り除くと症状が改善する
⑤いろんな物質に反応する
⑥症状は多臓器に及ぶ(頭痛、めまい、吐き気、せき、のどの詰まる感じ、動悸、腹痛、下痢、筋肉痛、におい過敏)
どのような仕組みで化学物質過敏症を起こすのか。
不明な点が多いですが、「中枢性感作」という仮説があります。
◆アレルギーは免疫の病
花粉症、食物アレルギーなどは、免疫の病気と考えられています。
花粉症を例にとってみましょう。
体には、敵を攻撃する「免疫」というシステムがあります。
花粉を吸いこんでいるうちに、体が花粉を敵とみなします。
これを「感作」といいます。
感作された人の鼻の粘膜に花粉がくっつくと、免疫システムが作動し、
花粉を攻撃します。
その結果「くしゃみ、鼻水、鼻づまり」がおきます。
「免疫」は体を守るシステムですが、
それが過敏に働くと「アレルギー」になるのです。
免疫システムの本拠地は、全身に点在しているリンパ節です。
リンパ節に住んでいるリンパ球がボスとなり、
他の免疫細胞に指令を送って任務を遂行しているのです。
◆化学物質過敏症は視床下部の病
「免疫」以外にも、体には「自律神経」や「ホルモン(内分泌)」というシステムがあります。
私たちが健康な日々を送れるのは、
「免疫」「自律神経」「ホルモン」の仕組みが正常に働いているからです。
それらを統合して指揮を執っているのが脳の「視床下部」であり、
いわば、総指令本部です。
その視床下部が化学物質によって感作されて化学物質過敏症を発症するという考えが、「中枢性感作」の仮説です。
◆「脳の窓」から化学物質が侵入する
脳には、多くの血管が走っており、脳細胞に栄養を送っています。
脳はデリケートな臓器であるため、血液中の有害物質が脳細胞に流れ込まないように強固なバリアがあります。
それが「血液脳関門」です。
「血液脳関門」とは、脳の血管の壁にある「関所」のようなものです。
「関所」で、血液中の物質を厳密に分析し、
脳にとって有害なものは入れないようにしているのです。
しかし、視床下部には「血液脳関門」がありません。
「関所」はあるのですが、門戸が開放されているのです。
これを「脳の窓」といいます。
視床下部は、自らが産生するホルモンを全身に届くように放出しなければならないため、門戸が開かれているのです。
荷物を配送する拠点では、24時間門戸が開いて、
トラックが出入りしているようなものです。
これが裏目となり、「脳の窓」から化学物質が侵入するのです。
視床下部が化学物質によってやられてしまうと、「免疫」「自律神経」「ホルモン」が正常に働かなくなり、いろんな症状(頭痛、めまい、吐き気、せき、のどの詰まる感じ、動悸、腹痛、下痢、筋肉痛、におい過敏)を起こすのです。
バスのニオイなど、不快な有害物質を吸い込んだとき、脳の中心部分が気持ち悪くなりますが、そこが視床下部かもしれません。
「脳の窓」からは、新鮮な空気を入れたいですね。
参考文献
1)渡井健太郎:その「重症」薬剤アレルギー・「重症」喘息・「重症」食物アレルギーは, 多種化学物質過敏症 (特発性環境不耐症) ではありませんか,難病と在宅ケア 26(10): 43-45, 2021.
2)黒岩義之:「視床下部の生理学的役割と制御破綻 (視床下部症候群)」,自律神経 (suppl): 52-52, 2018.