〔介護を学ぶ9〕介護の苦労を忘れるようにしよう
◆介護とは
介護の「介」は「気にかける」「心にかける」、
「護」は「まもる」という意味があります。
家族同士が、お互いを気にかけ、まもる行為が介護です。
一部の高等動物では見られるものの、
介護は人間特有の優しい行為ではないでしょうか。
◆古典に学ぶ 生子忘憂の恩
『仏説父母恩重経』に説かれている「親の大恩十種」の三番目、
生子忘憂の恩より学びたいと思います。
生子・・・子どもが生まれる
忘憂・・・憂いを忘れる
出産には大変な苦労が伴い、時に命の危険にもさらされます。
全身の痛みに耐え、無事に生まれたわが子を見ると、
それまでの一切の苦しみを忘れて喜んでくださります。
それが、生子忘憂の恩です。
「子どもが生まれると、父母の喜びは非常なもので、
まるで貧しい女性が高価な宝石を手に入れたかのようである」
「母は、赤ん坊の産声を聞くと、
自分も初めて、この世に生まれ出たような喜びに包まれる」
万葉歌人の山上憶良は、次のように詠んでいます。
「銀も 金も玉も 何せむに まされる宝 子に及かめやも」
“銀や金や玉は、確かに宝かもしれないが、子どもに勝る宝はないのだ”
私達が生まれるまで、どれだけの苦痛を与え、心配をかけたことか。
それら一切を忘れ、誕生を心から喜んでくだされたのは親なればこそ、
と教えられています。
◆親からは 苦情も 礼の催促もない
この親のご恩は、決して当たり前でないでしょう。
私たちは、迷惑をこうむったとき、
そのことを相手に伝えて反省をうながしたい思いになります。
「あなたの書類の不備のせいで、私が叱られた。
私が尻ぬぐいをする羽目になった。
どうなってんの!!」
相手から「すみません。ごめんなさい」と謝ってもらって、
少しスッキリします。
また、相手の知らないところで良いことをした時、
「あなたのために、〇〇してあげたから」
と、礼を催促したくなります。
「えーっ、うっそー。ありがとう」
とお礼を言われてスッキリします。
しかし親から、生んだ時の苦情を言われたことがありません。
「あんたのせいでどれだけ苦労したことか。痛かった、つらかった」
礼の催促をされたこともないでしょう。
「あんたのために、頑張ってあげたから」
◆親は反省 子は感謝
『父母恩重経』は、お釈迦さまの説法記録です。
説法を聞いた子どもは、親なればこそと感謝したことでしょう。
説法を聞いた親は、かくあらねばと反省したに違いありません。
親子関係とは少しことなりますが、
介護は、「介護される人」と「介護する人」があります。
「介護される人」は、その恩を感謝できたら素晴らしいですし、
「介護する人」は、苦労を忘れるようにできたらいいですね。
参考文献
1)木村耕一:『親のこころ』,1万年堂出版,2003