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これからの時代は「HRBM(HRブランドマネージャー)」が必要かもねって話

こんにちは、GaudiyでHR/PRを担当してる山本(@hanahanayaman)です。HRとPRのはざまを歩み続けて、はや4年が経ちました。

年末年始にAI時代の考察に関する記事や本を読んだり、いろんな人と会話したりして、これからの時代、企業のブランド価値向上がますます重要性を増すだろうなと思う今日この頃。

「どうすれば、強い企業ブランドをつくれるのか?」

その問いを最近ぐるぐると考えていたのですが、ひとつの解として行き着いたのが、人と組織のブランド価値向上を担う「HRBM(HRブランドマネージャー)」という新たな役割の創出です。

今回のnoteでは、HRBMとはどんな人なのか。これからの時代になぜ必要なのか。いま考えていることの言語化を試みました。

7,000字超でちょい長めですが、HRBMに関心を持つ人が世の中に増えたらいいなと思って書いてみたので、HRはもちろん、経営者やPR、事業サイドにいるマーケター、編集者の方などにも届くと嬉しいです。


企業がブランドに投資すべき理由

これからの時代、なぜ企業は「ブランド」に投資すべきなのか。その理由としては大きく2つあると考えています。

“第一想起”に入らねば土俵にすら立てない

もはや耳タコすぎると思いますが、昨今の採用市場は、完全に「売り手市場」です。

特にプロダクト人材の採用はますます激化しており、候補者が転職を考えはじめる以前から転職候補先としての「第一想起群」に入っていなければ、採用活動の土俵にすら立てない時代になってきています。

(以前のnoteにも書いてますのでよければ👇)

その第一想起に入るために重要なのが「ブランド」です。

もし明日、あなたの勤め先がなくなったとしたら、どの企業に話を聞きに行くでしょうか?

自分だったら、気になる企業がすでにいくつかあります。転職機運はまったくありませんが、たとえばNOT A HOTELなどはずっと推しです。

伸びている企業は他にもたくさんあるけれど、NOT A HOTELのプロダクトの唯一無二感は、他社に代えがたいものがあるよなぁと思ったりします。これがまさにブランドであり、事実、ブランドが強い企業は、採用も強いです。

もちろん採用力はブランドだけで決まるわけではなく、行動量とグリットがものすごく大事であることは、これまでの経験から身に染みてわかっています。先日YOUTRUSTさんが発表したスカウトランキングを見ても、採用が強い企業は、圧倒的な行動量やコミットメントをされてるなと感じました。

スカウト送信数1,000超え…!

一方で、ブランドを軽視してはならないとも思っています。なぜなら、強いブランドがあれば、戦わずして選ばれる土壌をつくれるからです。

これだけ採用競争が激化し、候補者から選ばれることが至難の業になっている今、比較されずに選ばれることは最強の採用戦略だと感じています。

AI時代には自分たちの“異質性”がより重要になる

さらに、これからの時代を考える上で欠かせないのは、AIとの協働です。

定型業務はAIに代替され、情報収集はAIで個に最適化されていく時代においては、スカウトメッセージも記事コンテンツも、一定の均質化・標準化が起きてくると思います。

そんな状況下では、潜在候補者にせっかくリーチできても、素通りされてしまうかもしれません。それを回避するためには、自分たちの「異質性」に目を向け、価値を言語化し、その価値を認知してもらうことが重要です。

そして異質性とは、「私たちはどう在りたいのか?」というビジョンや信念を言語化するところからはじまると思っており、その異質性を可視化し、あらゆるタッチポイントで一貫することが、これからの時代ますます重要になると考えています。

(AI時代におけるブランディングの重要性は、ラクスルCMO田部さんのnoteからも学ばせていただきました🙏)

企業ブランドを構成するもの

このように重要性が高まっているブランディングですが、歴史的に、ブランド論は「商品・サービス」のマーケティング文脈で発展してきており、「企業」のブランディングについてはまだまだ発展途上にある認識です。

ここで一度、企業ブランドの全体像を整理してみます。

企業ブランドは“商品”と“人”の両輪からなる

企業ブランドを論じる視点はいろいろあるのですが、今回はシンプルに、下図で整理したいと思います。

企業が形成するブランド資産

企業が形成するブランド資産という視点で整理すると、「企業ブランド」は「商品ブランド」と「人・組織ブランド」の両輪からなります。簡単にブランディングの目的と関係する対象を整理すると、下記の違いがあります。

(さまざまな定義あると思いますが、あくまで3軸の比較で簡易的に整理したもの)

(※企業ブランドと組織ブランドが混同されやすいので、以下、「人・組織ブランド」のことを「人ブランド」と呼びます。)

BtoC企業では、商品ブランドが企業ブランドとほぼイコール関係になることも多いです。先ほど挙げたNOT A HOTELも、強い商品ブランドが、強い企業ブランドをつくっている例だと思います。

一方で、複数のtoCプロダクトを展開する企業やBtoB企業などでは、商品ブランドだけでは強い企業ブランドを形成しづらいため、強い人ブランドを構築することが必要です。Gaudiyも、BtoBtoCのプロダクトのため強い商品ブランドをつくりづらく、「人ブランドの構築」により注力してきました。

また強い企業ブランドをもつBtoC企業であっても、そのブランドに愛着をもってくれる人が採用のターゲット層と異なる場合には、人ブランドを別で強化する必要があります。たまに他社人事の方から、採用ブランディングの壁打ち相談をいただくことがあるのですが、その課題は、商品・企業・人におけるブランドターゲットの違いに起因していることが多いように感じます。

そのため、多くの企業にとって「人(人の集合体としての組織を含む)」のブランディングは、欠かすことのできない活動だと考えていますが、現実にはそこに投資できている企業は多くないように感じます。

なぜ人のブランディングに投資できないのか?

その最たる要因として、採用や組織開発が、商品のマーケティングと違って売上に直接貢献しないために、経営者が人のブランディングに投資する意思決定をしづらいのではと考えています。

また現実的な問題として、HR人材のケイパビリティとリソース不足があると思います。

私自身は元編集者で、マーケティングやブランディング関連の書籍から採用活動のヒントを得ることも多いです。内容は割愛しますが「ブランディングの科学」や「ファンベース」はバイブル的に参照していますし、今回のnoteを書くにあたっては「ブランド戦略論」を読んで理論を学びました。

しかし、HRでそうしたバックグラウンドを持つ人は非常に稀です。あまり出会ったことがありません。そのため、人ブランディングを強化したくても、HR部門に適任者がいないケースはありそうに思っています。

また、これはAIが解決してくれることを願っていますが、HRはオペレーション系の業務も多く、足元が多忙すぎて、中長期的に腰を据えて取り組むべきブランディングに工数を割けないケースも多いのではと思います。

これらの仮説をふまえ、人的資本のブランド価値向上のために、最近、ひとつの解として私が思考しているのが「HRBM(HR Brand Manager)」という役割の創出です。

「HRBM(HRブランドマネージャー)」の必要性

HRBMってどんな人?

前提、HRBMは、やまもとの思考から出てきた造語です。「HR部門のブランドマネージャー」をイメージして名付けました。

そもそも「ブランドマネージャー」ってなんぞやという方に向けて、ChatGPTでお答えします。

ブランドマネージャーは、特定のブランドの価値を維持・向上させる責任を持つマーケティングの専門職です。企業のブランド戦略を統括し、消費者の認知度を高め、ブランドのポジショニングを最適化する役割を担います。

ChatGPT 4oより

説明文にある「特定のブランド」を「組織のブランド」に、「消費者」を「候補者」に読み替えてもらうと一定理解いただけるかと思いますが、私のHRBMの定義としては以下です。

HRBMとは、人や組織のブランド価値向上を通じて、タレントを惹きつけ、組織の求心力を高める役割を担う人

やまもとの脳内より

具体的には、

  • はたらく人や組織の独自価値(ビジョン、価値観など)の言語化

  • 届けたい相手に、独自価値を認知・想起させるためのブランドコミュニケーションの設計

  • ブランドコミュニケーションに必要なコンテンツ制作・ディレクション

  • 社員ひとりひとりが独自価値を理解し、愛着を持ち、すべてのタッチポイントで一貫したブランドを体現できるようにするための支援

などを担うHRの人です。

今ある職種では、採用広報やカルチャー担当の人が近しいかなと思いますが、私があえて「HRBM」と呼ぶのは、ブランド観点で採用から組織開発までを一気通貫する役割だからです。

ブランドは、外側をお化粧して作るものではなく、内側から染み出すものです。そして強いブランドは、人から人へと伝播して拡がっていきます。

その実現のためには、内側のアイデンティティを磨き、外側にその価値を伝え、社内外のステークホルダーと対話しながら認知のGAPを埋めたり、ときにブランドターゲットからの逆算でポジショニング戦略を考え、人や組織をプロデュースしたりすることが必要です。

この役割を全うするには、組織に深く入り込む必要があり、マーケティング部門の人が片手間でやるのはかなり難しいと思います。

だからこそ、HR内の専門職として「HRBM」を置き、事業部や職能組織のリーダーと協働する形がよいのではないかと考えています。

ちなみに海外では、2023年頃から「Talent Branding」というワードが生まれ、HRトレンドのひとつになっています。記事には「Talent Brandingが優秀な人材の惹きつけと離職防止につながる」と書かれており、私の考えていることとかなり近そうです。

HRBMを含めた組織体制は?

HRBMの体制は、企業の戦略によってさまざまだと思いますが、考え方としては、P&G発の「ブランドマネジメント制」が参考になると思っています。

なぜかというと、特にプロダクト開発を行う組織の場合、個別の職能組織におけるブランドターゲットが異なるからです。

具体的には、個別の商品をブランドマネージャーが管理しているように、個別の職能組織をHRBMが管理するような形です。個別にブランド管理をしながら、組織全体のブランディングを統括する人とゆるやかに連携します。

HRBMの体制イメージ(右)

リソースが潤沢にある企業であれば、Engineer、Designer、PdMなど各職能組織にHRBMがいるのが理想かもしれません。現実的には難しいと思うので、最初は1人のHRBMが複数兼務し、組織規模に応じてHRBMの人数を増やしていくのがよさそうに思います。

また、事業部制の組織ではHRBP(HRビジネスパートナー)の隣でHRBM(HRブランドマネージャー)が伴走するような体制もありそうです。この場合は、HRBPが採用と組織開発を担い、HRBMは事業のブランディングと人・組織のブランディングの双方を担うイメージになるかと思います。

HRBMに求められるシンプルな素養

では、HRBMにはどんな人が向いているのか。
私はHRとしてのキャリア有無は関係なく、以下4つの素養をもつ人であれば誰もがHRBMになり得ると考えています。

・・・

Differentを定義する「言語化力」

まず、HRBMに最も必要な素養は「言語化」です。

そもそもブランドの本質は、プロダクトのもつ「便益」と「独自性」にあり、それらを記憶、想起しやすくすることがブランディングです。
(西口一希さん著書「ブランディングの誤解」の定義を参照しています)

そのため、HRBMがまず取り組むべき仕事は、従業員や採用候補者がその組織に見いだす「便益」と、他の組織にない「独自性」がなにかを特定し、言語化すること。これがブランディングをはじめる上での第一歩になります。

「どんな組織でありたいのか?大事にしている価値観はなにか?」「他社では代替できないDifferentな部分はどこにあるか?」「自分たちの組織はどんな便益(価値)を従業員に提供できるのか?」

このような問いを組織に投げかけ、議論を促し、便益と独自性(=ブランド)を言語化する。この素養がHRBMには必要不可欠です。

人と組織に向き合い続ける「胆力」

次に大事なのは「胆力」です。

組織は、人の集合体です。社員ひとりひとりがブランドを自分ごと化し、すべてのタッチポイントで一貫したブランドを体現することが、強いブランディングにつながります。

組織のブランディングが難しいのは、その「複雑性」にあると考えています。組織には、多様な人の感情や価値観があり、かつナマモノで絶えず変化していくので、商品・サービスよりも扱いづらいです。

その複雑な組織で、足腰の強いブランドをつくるには、人に向き合い、組織の変化に応じてブランド自体をアップデートし続けることが重要だと考えています。その上で、芯のブレないコミュニケーションを続ける「胆力」が必要です。人・組織のブランドづくりは、一朝一夕には成し遂げられません。

企業価値の向上に対する「アウトカム意識」

3つめは「アウトカム意識」です。

HRBM自らコンテンツをつくれたほうが遂行力は上がると思いますが、スキル以上に、アウトカム意識が大事であると私は考えています。

なぜなら、コンテンツ制作スキルだけでは、アウトプットは生めてもアウトカムを生めるとは限らないからです。

発信量と接触回数を増やすことも大事ではありますが、HRBMが出すべきアウトカムは、企業のブランド価値を高め、自社にマッチするタレントを惹きつけ、組織の求心力を高めることです。

そのためには、コンテンツをつくる以前に、ブラントターゲットとなる従業員や潜在候補者の理解をより深めたり、事業や職能組織のドメイン知識をつけたりすることがまず大事だと思います。

またアウトカムを高めるには、HRBMが自分でコンテンツをつくるよりも、社員ひとりひとりの発信をサポートするほうが、より強いブランドがつくられるはずです。その意味では、編集やディレクション力を持っていると、HRBMとしてより活躍しやすいかもしれません。

人や組織への「愛」

そしてさいごに、忘れてはならないのは、人や組織への「愛」です。
その組織を、人を、心から愛せないと、HRBMを担うのは難しいと思います。逆にピュアな心で推せるのであれば、没頭できる仕事です。

・・・

上述したような素養があれば、HRでも、事業サイドでも、HRBMは務まると思います。個人的には、事業サイドにいるマーケターや編集者、デザイナーなどが、HRBMに向いていると思っています。

当たり前ではありますが、事業やプロダクトをつくっているのは「人」です。良いプロダクトは良いチームから生まれます。その人・組織のブランド価値向上に、今まで培ってきた知見を活かせるのがHRBMです。

Gaudiyが体現したいファンベースな組織観

私も素養だけで言えばペルソナに当てはまっていそうなのですが…、現実には全然やりきれていません。HRBMの実践は本当に難しいです。

もともとの入社動機が、

私がGaudiyのおもしろさを世の中に伝えていきたい。共鳴する人を増やしていきたい。そこに自分が培ってきたものが貢献できそう

入社エントリより

でしたが、日々色んな課題に向き合うなかで、戦略的なブランディングができているとは正直言い難いです。

それでも、自身が携わったコンテンツが人々の心を動かし、ビジョンに共感してくれた人が仲間として集まってきて、会社のフェーズがどんどん前に進んでいく実感を直に味わえるこの仕事は、すごくおもしろいなと思います。

Gaudiyがビジョンに掲げる「ファン国家」は、人々が“好き”や“夢中”で生きられるような社会です。その実現をめざす私たちも、ひとつの「ファン国家」として、ビジョンに集う人々が自律的に価値を共創できて、貢献に対してフェアに価値分配できるような、そういう組織をつくりたいと考えています。

(Protocol Designerの @rfuj1wara234 が その辺りを担われており、AI時代の組織考察をしてるのでよければ👇)

また採用においては「企業と候補者」という関係性ではなく、Gaudiyの「ファン」を増やすことでビジョン実現の仲間が増えていくような。そして退職では、企業との縁が切れるのではなく、Gaudiyとの新しい関係性がはじまるような。そんな“ファンベース”を築いていきたいと思っています。

こうした世界観を実現するには、やはりブランドが重要です。

2025年は、事業も組織も大きくアップデートしていく未来が見えているなかで、人と組織のブランディングに本気で取り組みたいからこそ、HRBMという役割を立てて、ちゃんと実行に移したいと思っています。

本当は「こうやってるよ!」という実践知まで語れるとよかったのですが、まだ事例をつくりきれていないので、まずは今の思考を明らかにしてみました。実践編のnoteは1年以内に出すと、ここで宣言しておきます(自ら追い込むスタイル←)

さいごに

今回のnoteで伝えたかったことを最後にまとめます。

  • これからの時代、企業のブランド価値向上がますます重要になる。

  • ブランドを軸に採用から組織開発まで一気通貫する「HRブランドマネージャー(HRBM)」という役割が、強いブランドをつくるために必要。

  • HRBMに求められる素養は「言語化力」「胆力」「アウトカム意識」「愛」であり、HR未経験でも活躍できる。

HRBMは最高にタフで難しいけれど、経営に直結する最高にやりがいのある仕事だと思います。まだ全うしきれてないけれど、HRBMに近しい役回りを担っている者として、このテーマはとても深淵で探求しがいがあり、おすすめです。

グローバルには先行事例があるにも関わらず、ここの担い手が少ないのは、日本社会の課題だと感じています。本noteを通じて、キャリアの選択肢として(肩書きではなく役割としての)HRBMを志す人が世の中に増えたら嬉しいです。

もし内容に興味もってくださった方や、すでに近しいことに取り組まれている方がいたら、ぜひカジュアルにHRBM談義させてください!

ひとりでは到底立ち行かないことを痛感し、私の仲間を探すことにしました。ぜひ一緒にやりましょう!!

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やまもとはなか
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!