ユリ根と同じぐらい繊細な素人が1日農業バイトに挑戦してみた|リポートその2
1日農業バイト「デイワーク」に求人が出ている農作業の中でも、重労働の一つとされる「ナガイモ掘り(前回の記事)」をやり遂げたわたし。
もう怖いものはない!…ような気がしていたが、やはり気のせいだったことに気付いた話をしようと思う。
▼1日農業バイト「デイワーク」でナガイモ掘りした前回の記事
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2024年のゴールデンウィークも後半に入り、2回目となる「デイワーク」挑戦の日がやってきた。
今回の作業は、懐石料理などに使われる高級食材・ユリ根の植え付け。舞台は、ユリ根の生産量日本一を誇る後志(しりべし)管内真狩(まっかり)村。演歌歌手・細川たかしさんの出身地でもある。
ユリと聞いて、どんなイメージを持つだろうか。美しい花を咲かせる、優雅で"繊細"な花の代名詞的存在。どう考えてもわたし向きのはずだ(またかよ)。
…冗談はこれくらいにして、現場の畑に着くと、その広さに言葉を失った。十勝の大規模な畑にはかなわないけれど、広く感じたのだ。
前回のナガイモ掘りは3人での作業だったが、今回はざっと20人はいる。頼もしい。みんな頑張ってほしい(ひとごと)。農家さんも素敵な人たちである。これは頑張るしかない。
まず、初めての人向けのレクチャーを受ける。球根を互い違いになるよう溝に並べ、土をかぶせる動作をひたすら繰り返していくという。作業自体に難しさはない。
ただ、足場となるうねの幅が限られている。体に柔軟さのかけらもないわたしにとって、足場の狭さが後からじわじわ効いてくることになる。
ユリ根の栽培についても教わる。
毎年、畑を変えて植え付ける必要があるほか、花が咲くと栄養を取られてしまうため、つぼみを摘み取らないといけないのだという。収穫・出荷できるまでにかかる期間は、おおむね6年。手間ひまがかかる作物なのだ。
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作業が始まってしまうと、しゃがんでは植え、立ち上がっては次の場所へ移動して、またしゃがむの繰り返し。
みんな涼しい顔で作業している…その横で、わたしの表情はくもっていた。空は晴れ渡っているというのに。足場の狭さも相まって、股関節をはじめ、下半身が早くも悲鳴を上げ始めたのだ。
だからと言って、声に出すわけにもいかない。心の中で、掛け声を出して、なんとか正気を保とうとする。
その掛け声は時間とともに進化を遂げていく。
よいしょ
↓
よっこらしょ(比較級)
↓
よっこらせっ(最上級)
その後も「よっこらせーのせ」という超越級まで生まれる始末。
そんなわたしの心中を知ってか知らぬか、ある会話が聞こえてきた。
「ここが終わったら十勝ですか?」
「ええ。その次が空知でしばらく田植えの手伝い。それが終わるとまた十勝。まあまあハードなスケジュールです」
...は?
聞けば、1日農業バイトに打ち込むベテラン勢の中には、北海道じゅうを渡り歩いているつわものが何人もいるとか。場所によっては車中泊もいとわないという。もはや、プロである。前回出会った師匠たちと同じような生き方を実践する人たちが、ここにもいた。
心の中の掛け声は、午後になってさらなる進化を遂げる。
よっこらせーのせ
↓
マジやばい
↓
あかん、もう無理や(エセ関西弁)
↓
何も考えるな何も考えるな(悟り)
そんな中、新たな発見もあった。
ある親子は、九州を出発し、デイワークで日銭を稼ぎながら北上を続け、北海道までたどり着いたという。この後も農作業を転々としながら、観光も楽しむのだそう。新しい旅のスタイルを見た思いがした。
確かに、旅先で働くというのはありかもしれない。その土地に暮らす疑似体験ができるというのは、何だかわくわくする。気に入った町で働いてみるのもありだなと思った。
「へぇ、そんな旅の仕方もあるんですね」
...と感心している場合ではない。どんどん重くなる足腰が、容赦なく現実へと引き戻す。
夕方が近づき、ようやく終了の時刻が見えてきた頃。体の各部位から「明日といわず、今の時点で筋肉痛です」という通知が次々と届く。普段あまり体を動かさないわたしが使うことを忘れていた筋肉たちが、一斉に自己主張を始め、うるさいったらありゃしない。
「お疲れさまでした!」
午後5時。作業終了の声がかかった時、心の中では大きな拍手が鳴り響いていた。
またしてもやりきった!
充実感と安ど感がないまぜになったような、心地よい疲労感に包まれていた。でも...。
例のつわものたちは、まだ余裕があるように見えるのに、わたしと来たら、足腰は悲鳴を上げ、体はガタガタ。なんとか家にたどり着いたものの、玄関で長靴を脱ぐのも一苦労だった。
こうして、1日農業バイト体験は終わった。ナガイモ掘りとユリ根の植え付け、どちらも自分の甘い考えが見事に打ち砕かれる経験だったが、後悔はない。
むしろ、たくさんの気付きがあった。
例えば、野菜の値段。スーパーで野菜を手に取るたび「高いな」と思っていた自分が恥ずかしくなる。
ナガイモにしても、ユリ根にしても、これほどの手間と時間をかけて育て、収穫し、さらに流通のプロセスを経て手元に届くのだ。「ありがたい」という気持ちが強くなった。
新しい世界を知ることができた。本業の休みをすべて農業バイトに充てる人、稼いだお金で1年の半分は沖縄で暮らす人、農作業をしながら旅を続ける親子...。どれもが目からうろこの生き方だった。
体が硬くても何とかやれた。体力や柔軟性のなさを自覚できたことは、大切な気づきとなった。
何より、作業をやり遂げられたのが、気持ちの面で大きい。土や作物に触れ、自然と向き合う時間は、日常を忘れさせてくれる特別な体験となった。
◇
畑仕事の途中で、ふと顔を上げると、でんとたたずむ羊蹄山の姿。雄大な景色を眺めていると、力が湧いてくるから不思議だ。
「生きていく上での選択肢が一つ増えた」
そんな心持ちで、わたしはまたデイワークのアプリを眺めている。来たるべき次回に備えて、少しずつストレッチもしている。
さて、次はどこで働こうか。
関連リンク
ユリ根は村内にある道の駅真狩フラワーセンターで購入できる
デイワークの公式Webサイト
北海道農業経営局のアプリ紹介ページ
道央農業協同組合のアプリ紹介ページ