ナガイモと同じくらい繊細な素人が北海道で1日農作業バイトに挑戦してみた
ナガイモは繊細な作物である。
何を隠そう、わたしも繊細なのだ。最近は「繊細さん」が世の中に定着してしまって言いにくくなってしまったが、ここでしっかりアピールしておきたい(誰に?)。
そんなわたしが農作業に興味を持った。一時期、年に30~40回ほど、収穫期を迎えた農家さんを訪ねて話を聞く機会があったのが大きい。聞けば聞くほど、「農作業するのって、実際どんな感じなんだろう」という思いがふくらみ、破裂しそうになっていた。
破裂音が何よりも苦手なわたしである(これは本当)。
このままだと破裂するぞと思っていたそんなとき、1日農業バイト「デイワーク」というアプリの存在を思い出した。
短期バイトといえばタイミーが有名だ。その農業版といえば分かりやすいだろうか。生産者と働き手を1日単位でマッチングしてくれるアプリで、農業分野における人手不足の解消を目的としている。
2023年度(令和5年度)には、全国で延べ13万人以上のマッチングに成功した実績があるという。わたしは偶然にも、開発者に直接話を聞く機会に恵まれ、「いつか使ってみよう」とアプリはそのままにしていたのだ。
◇
2024年のゴールデンウィーク。行動に移すときがやってきた。
なにはともあれ体験してみようと、アプリを開く。いろんな求人がある。植え付け、収穫、選別、後片付け、ビニールハウスの組み立てなどなど。
求人が出ていた中から、ナガイモの収穫と、ユリ根の球根植えに応募してみる。運良く、どちらもマッチングが成立し、晴れて畑への"出勤"が決まった。
そうと決まれば、準備が必要だ。形から入るわたしのこと。作業着は手持ちのヤッケがあった。ただ、かなりのボロボロ。「さすがに失礼では...」と気になってしまい、これもいい機会と新調することに。
問題は手袋だった。球根の植え付けに使うゴム手袋は指定されていた。「マリーゴールド」という名前の製品。手袋を求めて、ホームセンターを巡ったところ、
1軒目...なし。
2軒目...ここもなし。
3軒目...あるわけない(決めつけ良くない)。
結局、北海道を中心に展開する仕事用品店のプロノで見つけた。最初から専門店に足を運ぶべきだった。農家さんが同じ価格で分けてくれる話もあったのだけど、準備万端で臨みたいと、探し回ったのだった。
◇
さて、バイトの話はナガイモ掘りから始まる。スケジュールと場所で選んだのだが、後から考えると、認識が甘かった。
当日は、ゴールデンウィーク前半戦の初日。天気は晴れ。わたしは行楽の車がひっきりなしに通り過ぎていく国道沿いの畑にいた。「みんなが遊びに向かう中、わたしは畑でナガイモ掘り。よいではないかよいではないか」と変なテンションで盛り上がっていた。
...最初のつまずきは車をとめる場所だった。アプリの地図を見ると、集合場所は畑になっている。ただ、入り口が分からない。一度通り過ぎ、引き返したところで農家さんを見つけ、大声で確認し、畑の片隅にある倉庫の前にとめる。作業前に既に汗をかいてしまう。
ナガイモの収穫作業は、何度か見たことがある。ただ、いわゆる秋掘りだった。今回は春掘りである。
顔ぶれは、ご主人と奥さん、子どもたちとおばあちゃん。バイト組は初体験のわたしのほかに経験豊富な男性2人。いずれも自分より年上。わたしは最初からこの二人に最上位の敬意を示し、心の中で師匠と呼ぶことに決めた。
ナガイモの収穫は、いくつか方法があるらしい。こちらでは、農機の後ろにつけた金属のツメのようなものを地中深くに差し込んで、ツメを振動させることで土の塊をほぐしながら畑を移動して、ナガイモを抜き取っていく流れだった。
わたしの役目は、農機に乗った補助役の人が抜き取ったり、土の中から顔を出したナガイモを手に取って土や泥を落とし、太さや長さ別にざっくり選別して並べていくというもの。
作業は驚きの連続だった。
ナガイモの繊細さ。見た目は堅そうだけど、ちょっと力を入れるだけでポキッと折れてしまう。自分のメンタルのようで、泣けてくる。
ナガイモは重い。繊細さと力強さの両立という難しい注文を突きつけられる。
わたしの母より少し若いぐらいと思われるおばあちゃんの機敏な動きに気が気でない。子どもたちも手際よい。わたしはただただ「最低限の仕事はしよう」と必死に手と体を動かした。
午前10時になり、救いの休憩時間がやってきた。
収穫かごをひっくり返して、円になるように並べてみんなで座って一息つく。これをやってみたかったのだ!
農家さんのご厚意で飲み物をごちそうになる。ほかに菓子パンやおにぎりもあって、いかに体力を消耗する作業であるかを思い知る。
子どもたちが学校であった話を聞かせてくれて、ほっこりしたのもつかの間、師匠二人の話に驚愕することに。
一人は、本業の休みの日を全て農業バイトに充てているという。長期休暇も全部という徹底ぶり。休みなしで働き詰めである。本人はいたってケロリとしている。太陽の下で働くことがストレス発散になっているという。
もう一人は稼いだお金で沖縄で半年ほど暮らして戻ってきたところだという。
わたしにとっては、異次元の働き方だ。二人とも場数を踏んでいるので手際が良く、農機の操作など幅広い知識があり、尊敬しかない。農家さんもデイワークを利用するのは初めてらしく、二人の話に興味深く聞き入っていた。
◇
午後からが本当の修行だった。
心の支えになっていた子どもたちがいなくなり、気力との戦いになる。
「大丈夫ですか?」
様子を見かねた奥さんの優しい声。だいじょばない(大丈夫ではないの意)けど、「大丈夫です!」
「そろそろ終わりましょうか」。夕方になり、天の声が聞こえた時は、「何とかやりきった!」と、達成感でいっぱいになった。
ここで、衝撃の事実が発覚する。
ナガイモ掘りは、デイワークに求人がある農作業の中でも、ハードな部類なんだという。もっと早く知りたかった。
師匠から「ナガイモ掘りをこなせたら、たいていの作業は大丈夫だよ」と褒めてもらい、ふんぞり返ろうと思ったけれど、泥だらけになるので、か細い腹筋で耐え忍んだのもつかの間、
「道東の別な農家さんで作業した時は、掘り出したナガイモを片腕に10~20本抱えて運んだので結構大変だったよ。ハハハ」
...はい?
一気に現実に引き戻される。わたしなんて、まだヒヨっ子以下。いや、卵にすらなっていない?
そんなこんなで、体はボロボロになりながらも、達成感のほうが何倍も大きく、気持ちよく帰宅。手にはナガイモが入った袋。傷が付いてしまったナガイモをご厚意でいただいてきたのだ。
ナガイモの味は格別だった。すりおろして食べても、ステーキにしても絶品。「自分で収穫した野菜は格別」なんて、よく聞くせりふだけど、まさにその通りだった。
土まみれ泥まみれになりながら、汗を流して収穫したからこそ味わえる喜び...なんて格好いいこと言ってるけど、実際は「やっと終わった!」という解放感と「まさか自分が農作業なんて」という実感が混ざった、何とも言えない気分だった。
夕食を食べた後は、もう限界。そのまま爆睡。不思議なことに、疲労感が心地よかった。パソコンとにらめっこの毎日では味わえない、体を精一杯使った充実感なんだろうか。
「続けていると体が慣れてくるよ」
師匠は語る。その言葉を信じて、わたしの農業バイトはユリ根の球根植え付けという新たなステージへ移っていくのでした。
ちなみに、その日の評価は満点だった。きっと「よく頑張りました」という励ましなのだろう。農家さん、その節は本当にお世話になりました。
(次回、ユリ根編に続く...のか?)
関連リンク
デイワークの公式Webサイト
北海道農業経営局のアプリ紹介ページ
道央農業協同組合のアプリ紹介ページ