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ほうれい線クライシス
先日、「背中がかゆい」という文章を書いた。実を言うと、あれはフルコースでいうところの前菜だった。ドラマでも、もう一人の主役は少し遅れて登場する。本当の主役は、この「ほうれい線」の話なのである。
2024年の秋、移ろいゆく季節とともに、異変は始まった。元々、見られる顔ではないが、ほうれい線に沿って皮膚がポロポロとはがれ落ちるようになったのだ。
まるで紅葉と競うかのように、皮膚は赤くなり、次々とはがれ落ちていく。ただし、木の葉と違って一度落ちたら終わり、とはならず、次から次へと落ち続ける。風流とはかけ離れた、痛々しい状況である。
深刻なのは、ほうれい線に続く口元で、赤く深い溝が左右それぞれに数本、刻まれてしまった。さすがにまだシワが入る年齢ではない、と思いたい。
鏡を見て思う。これは、亡くなられてしまった、志村けんさん扮(ふん)する「ひとみばあさん」の口元にそっくりだ、と。
ショックだった。口角を上げて皮膚を引っ張ってみても、溝は消えない。本当のシワになってしまいそうだ。それは避けたい。背中もかゆいままだし、重い腰を上げることにした。
ウェブから受診の予約を入れると、整理番号100番超え。診察はすでに40番まで進んでいた。高をくくってのんびり病院に向かったが、到着時点であと5人という瀬戸際。危なかった。
若い医師はわたしの顔を見るなり「ひどいですね」。生まれ持った顔を否定されたのかと思い、蹴ってやろうかと思ったが、さらなる医療費の増大と警察沙汰になるのは避けたい。グッとこらえる。
診察の結果、「乾癬(かんせん)」という病気らしかった。
説明によると、皮膚の炎症と、表皮の新陳代謝の異常の二つの側面を持つ病気で、盛り上がった赤い発疹の上に銀白色のあかが付いて、フケのようにはがれ落ちるという。
驚いたのは、この病気、表面の皮膚が健康な状態の10倍以上のスピードで生まれ変わっているというのだ。10倍である。病気とはいえ、私の体にそんな能力が備わっていたとは。
最近疲れやすいのは、皮膚がずっと働き続けているせいなのではないか。これだけ頑張っているのだから、休んでもいいのでは?…と心の中で盛り上がったが、むなしくなったのでやめた。
原因はストレスかもしれない、と医師は言う。思い当たる節が山ほどあるわたしは、「実は…」と切り出そうとした。だが医師は待ってくれない。
「塗り薬出しておくので朝晩2回塗ってください。おだいじに」。
カウンターパンチのような速さである。診察時間わずか3分。そう、病院は混んでいる。わたしなんぞの人生相談に付き合っている余裕はない。
処方された薬を塗ると、2、3日で赤みは薄まり、10日もすると皮膚がはがれ落ちることもなくなった。刻まれた溝も少し和らいだような気がする。この調子なら、完治も近いかもしれない。
ところが、そろそろいいかな、と塗るのを止めると、再び症状が出てしまう。言いようのないもどかしさに、患部を彫刻刀で削り取る手荒な解決策を考えてしまうが、そこまでの勇気はない。
コロナ禍が落ち着いてきたとはいえ、マスク着用がまだ許容される世の中で良かった。ひとみばあさん化した口元との付き合いはしばらく続きそうだ。せっかくだからギャグのセンスを磨いてみよう。そして、いつか「だいじょうぶだぁ」と言えるようになりたい。
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残りわずかになってきた。また病院行かなくては…
からだの異変シリーズ
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