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幻想文学の先駆者、泉鏡花先生の文学碑へ  -若菜のうち-

こんにちは。

久しぶりの文学碑巡りの更新になります。

泉鏡花先生。先生は明治後期から昭和初期にかけて活躍された小説家です。幻想文学の先駆者としての評価もされています。


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大崩壊の巌の膚は、
春は紫に、夏は緑、
秋紅に、冬は黄に、
藤を編み、蔦を絡い、
鼓子花も咲き、
竜胆も咲き、
尾花が靡けば月も射す。


映画にもなっています草迷宮の一節。草迷宮は先生が逗子の仮住まいで執筆された小説です。相模湾を眺望できる公園の一角に文学碑があります。

以下、リンク。


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単語単語の威厳あるチョイスが美しい。『月も刺す』の表現は、自然への鋭い洞察から導かれた言葉でしょう。


泉鏡花先生の短編集の中で、今回は『若葉のうち』を取り上げます。
この小説は短編ですが、非常に味わいがあります。幻想文学へ導かれるとでもいいましょうか。

登場人物は、子供なしの老夫婦と未就学児の姉妹です。

旅先の修善寺で老夫婦が姉妹と出会いました。
「蕨のあるところを教えてくださいな」と夫人が尋ね、姉妹に案内してもらいました。婦人はお礼に、お駄賃を上げました。
帰り道、夫婦が歩いていると、再び姉妹に会いました。姉はたんぽぽを二本、妹はたんぽぽを一本持って、夫婦に差し出しました。夫婦は受け取りました。
その時、近くの小屋にいた牛が泣きました。夫婦が振り返ると、姉妹は消えていました。
同じようなことが、それまた修善寺でありました。秋の風情を味わっていると、姉妹が現れました。しかし、以前と別人の姉妹のようです。姉妹は夫人の大好きな柿を持っていました。夫人が「その柿をおくれな」と言いまいた。妹は驚いてべそをかきました。すると姉が前に出て、いたいけな掌をパッと開き、ぴったり妹を後ろに庇いました。
夫婦は、思わず、ほろりとしました。



簡潔ですが、このようなストーリーです。
短い小説ですが、どの描写も非常に考えさせられます。一度目では、二度三度と読み込むうちに、見える世界が変わってくるようです。幻想文学らしさでしょう。


僕が個人的に好きな文章です。


とはいえ、なんとなく胸に響いた。響いたのは、形容でも何でもない。川音がタタとタンポポを打って花に日の光が動いたのである。濃く香しい、その幾重の花びらの裡に、幼児の姿は、二つながら吸われて消えた。


奥ゆかしき、美しさ。そうです、このくらいの表現が美しいのです。
僭越ながら、僕も小説を書いていますが、ついつい説明的な文章になってしまいます。説明される方が、確かにわかりやすいのかも知れませんが、稚拙で表面的で奥ゆかしくない。つまりは、誰が書いても変わらない文章、になってしまいます。
書くこと、書かないこと、それらの曖昧な境界線が文学の面白さだと感じます。天を舞う星の如くある先生の面白みは、この辺りに一つあるのではないでしょうか。


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是非是非、お勧めの一冊です。


逗子には泉鏡花先生の文学碑が、いくつかあります。また行きましたら、記事にしたいと思います。



花子出版   倉岡




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花子出版 hanaco shuppan
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