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② 私は生活習慣病のデパートだった。

 昨年、救急車で緊急搬送され入院したが、入院も救急車も初めて尽くしだった。
 今まで大きな病気をしたことはない、怪我もない、出産経験もない。なんとなく、そのまま一生を終えるんじゃないかと思っていた。

 自分の性格はネガティブなのに、身体のことに関しては、ポジティブに考え過ぎだったというのがわかった。

 40代から、ずっと、動悸、むくみ、倦怠感があった。加齢により気圧の影響を受けやすくなったのと、更年期だからしょうがないと思っていた。
 更年期障害の症状は、かなり多様で幅広い。自分の感じる不調を検索して、「更年期」と出てくると安心してしまい、それ以上の思考を放棄していたが、これがすべての間違いだった。

 十年以上前、何かの機会に医者に診てもらった際に、「血圧が高い」と言われて、血圧計を買ったけれど、そのまま使わずどこかにやってしまった。当時は40代で、危機感皆無だった。

 薬を飲むのも病人や年寄りみたいで、嫌だった。今考えると、自分の不調を認めたくなかったのもあると思う。

 そもそも忙しかったし、時間もお金ももったいないからと、病院にはなるべく行きたくなかった。
 これはフリーランスあるあるだと思うのだが、もしも入院とかになると、休む=収入源につながるのも困る。
 さまざまな理由で、私は自分の身体の不調から、目を背けまくっていた。

 

自力で救急車が呼べなかった。「119」が浮かばない。

 今回、倒れたのは、まさにこの「高血圧」だった。

 入院中、心臓カテーテル検査もしたけれど、異常は見つからず、結局倒れたのは血圧が一時的に高くなったのが原因でしょうといわれた。
 入院直後は、血圧が上は200近くあったというから、今考えると、ゾっとする。そら死ぬやろ。

 実はそれまでも同じような症状はあった。
 倒れる二ヶ月前にも、何度か呼吸がしにくくなり、「病院に行かないとな」とは思っていた。けれど、仕事もあるしと、しばらく深呼吸をして更年期に効くといわれる漢方薬を飲んで、その場をやり過ごしていた。
 繁華街で倒れて、人に救急車を呼んでもらったから助かったものの、家にひとりでいたり、どこか人のいないところで倒れていたら、そのまま死んでいただろう。

  高血圧は、本当に怖い。 
 心臓だけではなく、脳にも影響を与え、倒れて後遺症を抱える人の話も聞く。

 退院してからは、毎日、朝晩、血圧を測って記録している。 
 薬を飲んで食事に気をつけていることもあり、今はそんなに値が高くなることはないけれど、冬の寒い時期は血圧が上がりやすく、ときどき高い数値が出て、そのたびに「怖い」と思って憂鬱だ。

 

 さて、血圧に関しては、だいぶ前ではあるが医者に言われたことがあり、多少の自覚もあったが、もうひとつ、入院中に見つかった病気があった。

 二型糖尿病だ。

 糖尿病に関しては、実は幻冬舎plusの連載「51歳緊急入院の乱」でも、書いていない。正直言って、抵抗があったのだ。
 だらしない人の病気というイメージがある。ザ・生活習慣病という印象が強い。実際は、太っておらず、痩せている人でも、先天性であったり、もともとの体質であったり、遺伝であったり糖尿病の人は多い。妊婦さんがなる場合もある。

  病院で医者から「高血圧で糖尿病、そして心不全」と聞いた際に、「私、生活習慣病のデパートやん……」と、目の前が暗くなりそうだった。

 糖尿病……失明や、身体の一部を切断など、さまざまな合併症を引き起こすのは、知っている。そして厳しい食事制限が必要なことも。
 私、もうこれからの人生で、味のないものしか食べられへんの……と考えると、本気でつらかった。そして視力を失ったり、身体の一部を切断とか考えると、気が遠くなった。
 これから先、生きていくのに、そんなに大変だったら、死んだほうがましだったかもとすら一瞬思ったほどだ。
 味のしない食べ物を栄養補給のためだけに食べるなんて、めんどくさいし、楽しくないし、人生の喜びが失われる……そんなんで生きていても、しゃあないと絶望した。

 

 ただ、結果的にいうと、今現在、好きなものを食べてはいる。
 塩分と、糖分採りすぎには気をつけてはいるが、美味しいもの、自分が食べたいものを口にしている。
 むしろ、好きなものを食べるのは、健康に生きていくために必要なことなのだ。

 美味しいもの、自分が食べたいものを口にすると、胃よりも脳が満足して、幸福感が得られる。それによって、過食を防げる。
 美味しいもの、好きなものを食べるけれど、三食がっつりどっさりは食べない。
 だいたい一日のご飯のうち、一回は好きに食べて、あとは軽くだ。

 まずいものは、食べない。

 美味しいものだけを食べると、心がけている。

 意地でも、美味しいものしか食べない。

 人間はいつ死ぬかわからないとわかったからこそ、まずいものは食べないと強く誓った。

  思えば、以前は、お腹がいっぱいにならなければ食べた気にならないような「飢え」が常にあった。食べても食べても満たされない。
 けれど年をとって、身体がついていかなくなって、お腹を壊したり、胃もたれもした。

 退院後、「好きなものを、塩分糖分控えめで。でも食べ過ぎない」生活をしているこの一年は、そういうことも全くない。

  脳を満足させる美味しいものを食べるのと、循環器科、内科の医者にも何度も言われた「適度な運動」により、10キロ痩せて、入院後一年の検査であらゆる数値が落ちて、今は糖尿病のための血糖値を下げるための薬も飲まずともよくなった。

 もっともこれから先、また検査で血糖値が高くなったら、再開する可能性はある。
 そうならないために、必死になって、健康的で美味しいものだけを食べる生活を続けている。


 『シニカケ日記』花房観音 | 幻冬舎 (gentosha.co.jp)

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