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「沙を噛め、肺魚」言い訳できない自分と向き合うとき
あらすじ
『世紀末感溢れる世界を舞台に、前半は「やりたいこと/才能」を持つ少女、後半は「特にやりたいことがない」少年を描いた二部作。両者ともに、自分の生き方に葛藤しながら、それぞれの物語を進めていく。非凡と平凡が対比されるストーリー。
世紀末感漂う世界を舞台に、二部作でそれぞれ異なる若者の葛藤を描いている。前半は「才能がありやりたいことを持つ」少女、後半は「特にやりたいことをもたない」少年が登場し、どちらも自分の生き方に悩みながら物語は進んでいく。
振り返ったり、道を踏み外したり、脇目を振ったりすることが怖かった。
生き辛さをテーマにした作品は数多くあるが、この物語は設定が少し異なっている。登場人物の周囲は、ごくごく一般的、もしくは恵まれた環境に描かれていた。
そのため、彼らの苦しみは他者や環境に原因を求めることができず、むしろ「自分」との戦いであることが強調されている。
家族や社会の厳しさに直面することなく、それぞれが抱える内面的な悩みに焦点を当てる手法は、非常に新鮮だった。
進みたくないなら、進まなくていい。それに気づくまで、随分と遠回りをしてしまった。凡人だとか、天才だとか、やりたいこととか、やるべきこととか、それ以前に、胸倉から手を離せばいい。俺を引っ張るのが俺なら、俺を苦しめているのも俺なのだ。
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また、物語における対比の数々が印象的だった。「砂と水」、「少女と少年」、「音と文字」、「母親と父親」など、さまざまな視点から対比が織り交ぜられている。
「安定と変動」や「機械的と人間的」、「創造と模範」といったテーマは、現代社会で私たちが日々向き合っている課題をそのまま映し出しているように思う。たとえば、テクノロジーの進化が私たちの生活を変え、「機械的な効率」を追求する一方で、どれだけ「人間的な部分」を大切にできるかという問いが、頭に浮かぶ。
そして、その変化の中で「安定」を保ちたいという気持ちと、新しいものを受け入れなければならないという「変動」の狭間で揺れ動くことも、今の時代にはよくあることだと思った。
また、物語で登場人物たちが見せる「優しさ」や「他者への気づかい」は、ここ最近の「いまっぽさ」が反映されていると思った。人と人とのつながりや温かさがどこか薄れてしまうこの世界で、描かれる人々の思いやりは、特別なものに感じる。自分だけではなく、相手の気持ちを大切にする姿勢が、いまの社会にとって必要だと感じさせてくれる。
どのようにしてそれを乗り越えるのか、その過程を描いた本作は、現代に生きる私たちに共鳴する物語だったと感じた。
著者について
1998年生まれ。兵庫県豊岡市出身。兵庫県在住。2015年より小説サイトに短編・長編の投稿を開始。2017年に『文学フリマ短編小説賞』優秀賞を受賞。2020年、第14回小説現代長編新人賞受賞作『晴れ、時々くらげを呼ぶ』でデビュー。他の著書に『アイアムマイヒーロー!』『きらめきを落としても』がある。
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