ひらがなの非平面性と猫の親和性の研究
1.はじめに
ねこという存在はめちゃめちゃに可愛くて愛おしいが、人間はねこに与えられた幸せをねこに返せているだろうか。また、ひらがなも丸みを帯びていて非常にかわいいが我々はその秘められた可能性に気が付いていないのではないだろうか。かわいいものとかわいいものが合わさったらかわいい×2でめちゃ×2にアゲ×2ではないだろうか。そんな感じである。
2.ひらがなの非平面化
(1)非平面化についての考察
ひらがなは文字である。文字は石や土、紙といった平面に記されるため、文字の側面や背面がどうなっているかは知る由もない。新宿にあるロバート・インディアナの「LOVE」オブジェのように押し出された形で非平面化するかもしれないし、文字が生み出された象形に則って文字よりもかなり複雑に非平面化するかもしれない。ひらがなが非平面化したらどうなるかを考えることは意義はよくわからないがとにかく楽しいのである。
今回はかわいい猫とかわいいひらがなの親和性を探り猫も人間も幸せになることが目的であるので、猫が使いやすい形にひらがなを非平面化させる。人間側からの視認性を考え、押し出しによる非平面化を基本に猫向けにアレンジしていく。素材は手に入りやすく猫が大好きな段ボールを使用することとする。
非平面化するひらがなにはいくつかの条件がある。まず「い」「こ」「に」のように独立した点や線が存在すると非平面化した際にばらばらになりやすく、視認性と実用性に欠けてしまうので避けなくてはならない。次に、ひらがなを寝かせ、いわゆる「段ボールベッド」として使用するのであればひらがなの面積が大きいほうが実用的である。「あ」は乗ることのできる面積が大きいので安定するが、「ひ」は乗ることのできる面積が小さく安定しないので寝心地は悪いだろう。また、ひらがなを立たせて「LOVE」オブジェと同じように設置するのであれば自立性が重要である。「く」や「す」は自立できず倒れてしまう。最後に、曲面を大きく持ったひらがなであることが重要となる。猫を優しく包み込むためという理由と、ひらがなのかわいさはその丸みが大きく影響していると個人的に考えているという理由からこの点を重視する。
(2)非平面化の実践
段ボールベッドにする場合どの部分をくり抜くか、立たせて使う場合どの部分をどのように使ってもらえるかを検討し、それをもとに完成品のサイズを決定する。
あとは以前この記事
でも書いたように、段ボールを切って重ねていくだけである。この記事にもあるが、制作のコツについての画像を再掲しておく。
3.非平面化したひらがなとねこの対面
(1)ぬ
最初につくったのが「ぬ」のベッドである。「ぬ」は響きが可愛いし、くるんとした見た目も可愛いし、寝られる面積が広い。すごいひらがなだ。サイズは縦40cm×横47cmで、寝られる部分のサイズは縦32cm×横43cmとした。
反応としては好意的であった。直ぐに猫たちが集まり匂いを嗅ぎ、慣れ親しんだ段ボールであるとわかるや否や、爪を研いだり中に入って丸まったりと使いこなしてくれた。
丸まることのできるスペースが横に二つ並んだようなつくりであること、一匹で入るには余裕のある大きさだったことから、二匹で入る様子が多く見られた。
ベッド部分のくりぬき方はすり鉢状にした。結果として爪を研ぎやすい点が人気で早い段階で内側がボロボロになった。
(2)ゆ
段ボールベッドシリーズ第二弾として「ゆ」を制作した。「ゆ」も半母音の響きが可愛いし、たった一文字で温泉を想起させることでアイコンとしてのひらがなのポテンシャルの高さを示してくれている。そして猫が寝られる面積も多い。すばらしい。サイズは縦43cm×横45cmで、寝られる部分のサイズは縦33cm×横34cmとした。
こちらも素材が段ボールであるという時点で猫に嫌がられることはない。皆すぐに中に入って丸まってくれたが、「ぬ」と比べると少し食いつきが悪かった。観察を続けた結果、サイズに原因があることが判明した。一匹で入るには余裕があるが2匹で入ることはできない微妙なサイズ感が、ミチミチのギュウギュウに入りたい猫たちにとっては満足度が低くなった要因のようだ。
(3)ん
次に「ぬ」や「ゆ」のようなベッドではなく、爪とぎおもちゃとして「ん」を制作した。「ん」はかわいらしい丸みを持ちつつもしっかりした直線部分もあり、その直線部分がねこの爪とぎにぴったりなのだから良くできたひらがなである。サイズは高さ38cm×幅57cm×奥行き29cmとした。本来であれば奥行きは猫の胴体ほどの長さにするはずであったが、「ん」を何枚も切り抜き重ねていくことに疲れてしまったので諦めた。
どのような反応をするか全く想像がつかなかったが、猫たちは怖がることもなく「ん」に登ったり、「ん」で爪を研いだり、「ん」の下をくぐったりして遊んでくれた。
サイズはしっかり立った状態で爪を研ぐことができる上に下側も容易にくぐれるようになるので、やはりもう一回り大きいほうが良かったと感じた。
(4)む
非平面化するひらがなの条件について述べた際、『独立した点や線が存在すると非平面化した際にばらばらになりやすく、視認性と実用性に欠けてしまうので避けなくてはならない』としたが、そうすると非平面化できるひらがなはかなり限られてしまう。そこで実験的に独立した点を持つ「む」を非平面化してみることとした。「む」の2画目おわり部分からバネを生やし、そのバネの先についたおもちゃを点とした。サイズは高さ38cm×幅40cm×奥行き21cmである。これももっと奥行きを長くするつもりであったが諦めた。
置いた途端に猫たちが群がりおもちゃに噛みつき、段ボール部分ごと引きずられ部屋は地獄絵図となった。もうちょっと、おもちゃの部分を猫がお手手でちょんちょんして遊ぶみたいな、平和な光景に馴染む「む」を想像していたので正直ショックだった。少し考えればわかることであった。もう少し大きく、重く制作すれば動かされずに設置できるかもしれないが、万が一にも重量のある物体が猫に覆いかぶさってしまうことはあってはならないので、現実的ではない。
4.反省点
段ボールの時点で勝ち確なのでは、という感じはするが概ね猫たちにも受け入れてもらえたのではないだろうか。ここからは非平面化されたひらがなと猫の遭遇を実現させて見えてきた反省点について述べていく。
まず、お家にある段ボールを使って工作することは別にエコでもなんでもないという点である。今回膨大な数のひらがなを切り抜くにあたり、膨大な量の段ボールゴミが出た。可能な限り無駄の無いよう切り抜いていったが、それでもゴミ袋2袋分は段ボールの切れ端が出てしまった。潰した状態であれば資源ゴミに出せるが、ひらがなの切れ端では資源ごみにならない。ゴミになるはずのものを再利用!ではなく、再利用できたはずのものからゴミを生み出しているわけなので、そこは自覚的でなければならない。
次に、めちゃめちゃに疲れるという点だ。段ボールをカットする作業はかなり疲れる。ひらがなのように細かい部分があればなおさら疲れる。今回の製作は12月に行ったが、暖房をつけていない部屋で汗だくになりながらカットをした。カットされたものをボンドで貼り重ねていく作業がカットに比べて楽すぎてボーナスタイムに思えた。
最後に大きさの問題である。「ぬ」は初めてにしてはかなり良いサイズ感だったが、それ以外は小さかったり大きかったりと反省点が多く残った。これは人間の感覚で制作に取り掛かってしまった事による失敗である。猫がいない場所で猫のサイズを思い浮かべると、その可愛らしさから実際よりも小さく想起してしまう。絶対に猫同伴のもとサイズを確定させるべきだと学んだ。以上3点が、主な反省点である。
5.結論
猫が使うものをひらがなの形にしたい、という考えはひらがなを認識している人間側の勝手な願望であるが、非平面化されたひらがなには猫にとっても楽しいと思える形がありそうだということが見えてきた。そして、複雑な形をしたひらがなを猫に楽しんでもらうにはサイズ感が非常に重要であることもわかった。今後も猫とひらがなの可能性を探っていきたい。
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