放縦
「年をとると情けないもので、体は自在に動かないのに、心のほうは放縦に動きすぎて、あやしげな妄想がそのままことばになって、しまりもなく口に出るものですね。あなたのような不思議なかたのそばでは一段とそれがはげしいらしい。まことにお恥ずかしいことですが」
倉橋由美子『反悲劇』「白い髪の童女」より引用 新潮文庫 p152
手元の本の奥付には、
昭和五十五年八月二十五日発行 十月二十五日発行 二刷 定価320円
とある。
高校三年の時に買った本だったと記憶している。文庫本の値段が、懐かしい。
大学受験を控えていた時期で、息抜きといえば読書だけで、当時気に入っていた倉橋由美子氏の本をむさぼるように読んでいた。
「反悲劇」は、とくに好きな作品だったから、何度も読み返していた。
それなのに、私の記憶にある「白い髪の童女」には、引用した台詞の話者であるはずの老人が出てこない。
抜き書きしながら、「こんなマゾっぽいおじいさん、いたっけか?」と首を捻ったけれども、どうしても思い出せない。四十年の間に、脳が勝手に老人をモブキャラ認定してデータ消去したらしい。
そのかわり、お話の主役である白い髪の老女のイメージは、鮮明に残っている。
怪しい白髪と、みずみずしい肉体を持つ、魔性の老女。
美魔女を前にして、礼儀正しく妄想を口からこぼす、「放縦」な老人の末路はどうだったのか。
あとで四十年ぶりに、読み返して確かめよう。
わたぼこり程の不埒を咎として蘚苔類の迷路を歩む
あ、短歌に引用文中の単語を入れるのを忘れた……。
うん、ルールを変えよう。
抜き書きした文に出てくる単語やイメージを核にして短歌を詠む、に変更。