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服とあいつの思い vol.1〜ポールスミス 花の舞踏会〜
新企画スタートです。
以前ファッションスナップさんで連載されていた〝服とあの子のはなし〟という連載をオマージュした企画です。
その名も〝服とあいつの思い〟です。
服を題材に男性を主軸とした短いエッセイストーリーです。
第1回はポールスミスの花柄シャツに焦点を合わせました。
それではご覧下さい。
〜ポールスミス 花の舞踏会〜
大学3年の冬、ポールスミス直営店でシャツを1枚買った。
大学生と言えど、誠は毎日学校に行き、研究に明け暮れる毎日。
バイトに明け暮れ、欲しい物を買って、行きたい所に行く。
なんてこと誠には出来ない。
それだけ忙しい。
無い時間を割いてバイトで稼いだお金は月に5万円ほど。
その内1万円ほどは通信料に消化され、実家住まいと言えど家族に生活費2万円。移動費研究費に2万円。
正直、誠にはお金の余裕が無かった。
誠は服が好きだ。
好きな服を着て歩く自分が好きだ。
しかし誠にお金は無い。
そのため服はいつも古着屋で、それも安いものを少しずつ買って。
精一杯のおしゃれをしている。
初めて〝それ〟を見た時の光景は今も忘れられない。
大学1年の12月。凍てつく寒さが誠の肌を痛めつける頃。誠は初めて〝それ〟と出会った。
派手で、ガサガサしていて、それでいて品のある美しさ。
〝それ〟はブランドショップの並ぶ繁華街の、ある店舗のマネキンが着ているものだった。
赤や青、黄色といったカラフルな花がシャツの上を舞踊り、それはまるで花の舞踏会のような、そんな印象を受けた。
ポールスミス
誠が普段なら絶対に行かない服屋さん。
それでも、店舗の外からチラッと見えたそのシャツを一目見たいと、店舗の中に入ってしまった。
値札には25000円+TAX
そうあった。
誠の毎月の稼ぎと支出では、到底買えない物だ。
しかし目に映るその美しさを見てしまった以上、誠は後戻りをする気になれなかった。
それからというもの、誠は徹底的に節約した。
稼ぎが増えることは無い。いいや、学年を上がる事に研究の忙しさは増え、バイトの日数も少なくなる上、研究費もかさんで行った。
しかし誠は諦めない。あの美しさに惚れてしまった誠の見据える先は、〝それ〟以外に無くなっていた。
大学3年の12月
誠は遂に〝それ〟を手に入れた。
遠い遠い道のりだった。
コレクションも変わり、デザインも変わった。
しかし臆することは無い。この日のために、誠は頑張った。自分自身を飾りつけるため。
その後誠は事ある事に、大切な日は必ず〝それ〟を着て出かけた。
事もあろうに誠は就職試験の最終面接でもそのシャツをスーツの中に着込んで面接を受けていた。
10社。誠はそのシャツの印象で最終面接を落ちた。
しかし11社目。ITベンチャー企業の社長に気に入られ、そのシャツスタイルで最終面接に誠は合格した。
入社後、誠は社長に何故自分を採用したのかと聞いたところ、「きれいだったから。君の生き方が。あの日のシャツのように。」と、言われた。
35歳
今でも誠はポールスミスの花柄シャツを愛用している。
自身で立ち上げ、東証二部上場のITベンチャー企業の社長になってからも、変わらず。
周囲からはもっと良い物が着れるだとか、もっと品のある物が着れるだとか、散々な言われようだ。
しかし誠はポールスミスの花柄シャツを着る。
毎コレクション事に、出た花柄シャツを全て買う。
それだけ誠はポールスミスの花柄シャツが大好きだった。
己が信念を貫かんという思いは、曲げられない。
なぜなら、今こうして生きているのも、あの日ポールスミスの花柄シャツに見惚れ、自身も花の舞踏会の中で踊り、咲きたいと思ったから。着続ける。
そうして今日も誠は自分の花を咲かせ、ただひたすら好きな物のために、尽くすのだった。