昭和45年(1970)の悩みや議題は、今とあまり大きな違いがないかも
国立大学の授業料値上げ問題を調べていて発見したのだが、面白い中身だったのでこちらに書いてみることにした。
題材は昭和45年10月23日 参院文教委 閉会後審査(?)
・まるで「クールジャパン」のような政策
文化庁かと思ったら、通産省管轄の政策だった。
それが、「日本映画輸出」を促進するというプランである。
(一部引用)
安永英雄
『現在、日本映画産業振興協会、もちろん仮称でありますが、こういった社団法人をつくって、これに対して国の助成措置を要求する動きがあります。で、その協会の設立の趣旨等を見てみますというと、現在あります日本映画輸出振興協会を中心にして、その協会をふくらましたような感じのする社団法人をつくって、そうしてそれに資金の調達、それからこれに対する助成措置、それから奨励金、興行褒奨金、映画館回修助成金、さらに製作資金貸し付けというものについても、現在の日本映画輸出振興協会の貸し付けの要領というものをさらに検討を加え、現行よりも低金利、返済期日も資金の回転率を考慮して二年程度とすると、このようなきわめて具体的な日本映画輸出振興協会をさらに大きくしたような社団法人をつくって、そうして国の助成を求めようとする動きが現在出ております。もちろんこの中心になっておりますのは映画会社の五社が中心になって動いておるというふうなことを私は聞いております。 そこで、現在の日本映画輸出振興協会のこの現状というものについて通産省にお尋ねをいたしたいと思うのでありますが、現在の協会の加入状況、いわゆる現在の会員、こういったものはどうなっておりますか』
日本映画を産業として育成するべく、公的貸付を66.3億円実施するも収益4億円と大赤字。「日本映画輸出振興協会」なる外郭団体を作って予算を投入という、まさにクールジャパン政策と似た思考ですね。
会員6社は
東宝、東映、大映、日活、松竹、石原プロ
と我々がよく知る映画会社が揃っていた。
その対象となった映画の中身が面白い。安永議員の嘆きが次の部分。
『融資を受けて映画を作成したその作品の内容を見てみますと、まあたくさんありますけれども、たとえば「大巨獣ガッパ」「大魔神逆襲」「ガメラ対ギャオス」「宇宙大怪獣」「神々の深き欲望」「怪談雪女郎」「怪談牡丹灯籠」「私が棄てた女」「濡れた二人」まだたくさんありますが、とにかくくだらぬ映画ばかりつくって、そうしてむしろ赤字を出しながら国の融資を受けて作品ができておる。中には融資を受けながらとうとう製作をしなかったという「奔流を行く男」こういったまぼろしの映画の事件もあっておる。大多数の作品を見てみますというと、この「目的」にあげておる「わが国の文化および国情の海外への紹介」といったり、「優秀な」映画、こういった目的に沿ったような作品はほとんどできていないというふうに私は考えます。まあ日本のいまの文化がエログロ文化とか、あるいは怪獣映画とかいう、そのものずばりが日本の文化、こういうふうに考えるならばこれは何をか言わむやでありますけれども、少なくとも日本の文化というものはこういった作品に象徴されるような文化ではないということを私は信じておりますが 』
だが、恐るべきことに、50年以上経った現在では、その「怪獣映画」が日本文化の代名詞的に語られたり、ゴジラ映画がハリウッドでさえ製作されてしまう未来を、安永議員が知ったら腰を抜かすことだろう。
エロ要素も日本語が「hentai」という英単語さえ生み出す原動力となってしまったり、ジャパンホラーが知られるようになったりと、時代が変われば評価も変わることはあるのね。
国立撮影所を作ってみては、という提案があったりするので、安永議員の映画への評価が全然無視とかいうことでもなく、逆に文化庁に「奮起しろよ」と期待してる面もある。
・増加する老人問題、定年延長問題など
特に独居老人が増えてることへの危機感が語られている。
(一部引用)
杉原一雄
『老人の今日の状態を分析して自主、自治、自活できる老人が二百五十万、それから半従属老人が百七十五万、従属老人——あまり好ましい表現ではありませんが、これが百七十五万人。死待ち、死を待たれる老人が百五十万人、こういう分類をしております。
(中略)
厚生省
『たとえば寝たきり老人でございます、約四十万人。一人暮らし老人が約六十五万人。六十五万人の一人暮らしの老人の中には家族と全く断絶をして、死亡しても何日も発見されないというような老人が三割くらいおるわけでございまして、六十五万人の中の約三割は子供と全く断絶をした生活をしておるというような実態…
(中略)
社会道徳そのものも問題がございますけれども、老人を大切にしなくなった社会がいわゆるばば抜き思想につながってきているということが一つあろうと思います。 それから第二の、老齢人口が急激に増加をするという形は、とりもなおさず、日本の出生率が非常に低下をしてきたと、急激に低下をしてまいりまして、かつては非常に出産率を誇った日本でございますけれども、戦後急激に出生率が減り、それから乳児の死亡率が減少してきております。昔はいわゆる急性肺炎で死亡する子供が多かったのでございますけれども、最近は新薬ができまして、乳児の死亡率が急激に減ってきている。そういうふうなこともございまして、老齢人口が急激にふえていく…
(中略)
老人の最大の敵は貧乏だ、それから健康不安の問題だ、もう一つはきわめて孤独な状態にある、この三つが最大の敵だといわれている…
(中略)
現在の五十五歳ないし五十七歳定年を六十歳まで延長するのがいまの段階では正しいのではないか、適当ではないだろうか。そうして六十五歳までは、さらに再就職を老人もすべきではないだろうか。六十五歳くらいまではやはり職を持って活動すべきなんだ、それから六十五歳以降はやはり社会なり自分の経験をいかして生きがいを中心にした就労というものを社会が受け入れる体制をつくるべきだというような審議会の答申あるいは国民会議の意見の大要… 』
定年延長どころか、年金受給年齢の引き上げとか、高齢者をもっとこき使って働かせろ、的な風潮の社会が実現されていますね。
当時、出始めの「生涯教育」とか(今では「リスキリング」という感じ?)年金受給年齢の65歳でも自立して働くとか、当時の議論は今と通じるものがある。
会議録の後半の方は、北九州市の教育委員会(教育長)のした教師への処分を巡り、日教組との対立という軸で紛糾したっぽい?
典型的な左派勢力だったからか。研修命令に従わなかった教師を処分したら、揉めた?
更に最後の方に、国立大学の授業料値上げ問題の質疑が出てくる。
大蔵官僚は大学生一人当たりの経費を算定し私学と比較するのに、東大の予算のうち「科学衛星とロケット」分の27億円も含めて、学生人数で単純に割っているのが欺瞞だ、と新聞投書の抗議を例示しつつ不満を言っている。
いかにも説得的な数字を挙げるべく、「都合のよい数字」を作ってくる習性は今も昔も、霞が関官僚の特技なのかもしれないね。
日本人は50年前から、何らの進歩もなかったということなのかもしれない。