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猫、いなくなる。その喪失感は失恋以上に手強い。マルハペットフードCMショートストーリー。浅田次郎の「民子」

 かなり色褪せている。2001年初版だから、20年も前に買った本。浅田次郎作、マルハペットフーズCMのショートストーリー。売れない作家といなくなった猫、民子の話。猫が不意にいなくなる辛さは、体験した人にしか分からない。

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 私の歴代猫は、ちび、おしし、ふわちゃん。過ごした時期が違うけれど、みんな茶トラの野良猫で、みんな一度はいなくなった。おししとふわちゃんは戻ってきて、うちの子になったけれど、ちびは戻らなかった。

 ちびは子猫の時に現れた。ある日、洗濯機の上にちょこんと佇んでいた。部屋では我がもの顔で振る舞ってはいたけれど、近所の野良と比べると、どことなく幼く頼りない感じがした。要領良くやっていけるような猫ではなかったし、人生最初の猫だったから、かなりキツかった。

 新聞にチラシを入れ、数件電話をもらったが、どれも違う猫だった。探偵を雇ったが、猫探しのエキスパートという訳ではなかった。一日3万円、3日で9万円。今はホリーズ・カフェになっている四条通りのからふね屋で待ち合わせて「よろしくお願いします」と缶詰を渡したのを憶えている。今考えると相当にアホな話なのだけれど、その時は大真面目だった。

 何をしていたって、いなくなった猫を想う。心が晴れない。この虚しさを体験したら、失恋の辛さなんて、これからは軽々と乗り越えられる気がする。私にとって「バラが咲いた」はちびの歌であり、サザン・オールスターズの「YOU」も、とても最後まで歌えない。ザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」もしかり。この限りない虚しさの救いはないだろうか。本当にそう思う。



 

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