ブータン旅行記 #2 仏教国ブータン
※1998年に特派員としてブータンを訪れた際に家族や友人にメールで送った記録です。20年以上が経った現在のブータンはかなり変容しており、細かい事情も変わっていることにご留意ください。(文章は基本的に当時のままです)
さわやかな空気と農村のたたずまい
さて、ブータン。まず、パロという空港への着陸からしてすごい。なにしろ標高2500メートル、いつものように「降下し始めたなぁ」と思って山並みを見ているうちにすぐに「ドン!」と着陸です。で、窓から見える農家がいきなり白い壁と茅葺きのおもむき。飛行機から降りて高原のようなさわやかな風を浴びたとたんに、わたしは同行のカメラのU氏に「これは今回は観光客になってしまうかも宣言」をしておりました。
すごいといえば、航空便を運行している会社もすごい。ドゥルック・エアー、通称ブータン・ロイヤル・エアライン。なんとここは旅客機とカーゴ合わせて2機しか持っていない「世界一小さいナショナルフラッグキャリアー」です。定期便は基本的にバンコク・デリー・カルカッタ・カトマンズ・ダッカをぐるぐる回っているだけなので、日本から行くとなると、普通はバンコクでこいつを捕まえるしかない。まぁ、バンコク在住の私にすればこれに乗ればあとはカルカッタで給油があるだけ、そのままパロに行けるわけです。
首都の街にも信号はない
空港近く、パロの街もいい。前述のようにまるで映画のセットのような町並みをみんながのんびり歩いている。「明治に外国人が見た箱根ってこんな風景だったのかもしれないな」と思いました。パロの市内を流れている川・パロチューも本当にきれいでした。なんでもトラウトがバカバカ釣れるとか。日本だったらあっという間に釣り客で大混雑、河原もゴミだらけ、ということになるのでしょうが、それもない。あくまでも自然のままに豊かな水が流れているだけでした。
首都はティンプー。首都、といってもなにしろ人口は2万7000人。川沿いにゆったりと坂道の街が広がる風情はまるで「鬼怒川温泉郷」。映画館は1軒。しかも自前の国の映画なんてそんなにないから(年間2~3本が制作されるだけだとか)、しかたなくインドの映画を懸けている。信号もない。主要な交差点(といっても2カ所)にお巡りさんが立って、交通整理をしている。空気がうまいのも最高のご馳走です。パロだけでなく、首都でも全然公害がないのでしょう。バンコクから来た当方としては「ああ、このうまい空気だけでもバンコクのカミさんや息子に持って帰ってやりたいなぁ」と切実に思いました。
仏教が生活に密着している
ブータンを知るのに欠かせないのが仏教。ブータンの仏教はチベット仏教、つまり日本と同じ大乗仏教の流れ。しかし極彩色の仏画や仏像を見ていると、とても日本と同じ系統とは思えません。同行のU氏いわく「初めてブータンの仏教美術を見たときにはびっくりしたけど、いざこの国にきてこの空気に触れてみると、じつにこれがしっくりきているのがよくわかった」との弁。国の二大権威は国王とジェイ・ケンポ(大僧正)、このふたりが同じ権威を誇っている。各県にある「ゾン」(県庁)も、お寺と兼用。これがどこも荘厳で素晴らしい(といっても2カ所しか見ていない)。
チベット仏教で有名なマニもあります。お寺などにあって、中に入っているお経を回転させるというもの。これを1回クルリとさせれば経文を一回読んだのと同じ功徳があるという、便利なようなずるいようなそんな仏具。大きなお寺ほど大きなマニがあって、みんな朝から熱心にグルグル。お寺だけではない。県境などにもある。また、携帯用のマニも多く、お年寄りが手に持ってグルグル。子供のガラガラみたいです。土産物屋で見かけたので私もグルグルしてみたんですが、どうも回す方向が逆だったみたいで、怒られました。人力以外でもマニは回る。取材に行く途中の山道で見かけたのですが、人気(ひとけ)のない小屋の中でマニが勝手に回転している。「どうやって回しているのか?」と思わずガイドさんに聞いたら、なんとこれが水車のマニ。実にうまく水を引いてきてグルグルさせている。それだけではない。風車のマニ、仏壇のロウソクの熱で回るマニ、台所の煙で回るマニもあるという。うーむ、ブータンの人たちにとって「マニを回し続けること」がいかに重要なことであるのかがわかります。
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