儚い“歌姫”
西崎伸彦「中森明菜 消えた歌姫」を読んだ。タイトル通り中森明菜の半生を描いたノンフィクションで、彼女を取り巻いた時代の熱気も活写されているのが面白く、半日で一気読みする面白さだった。
熱狂の80年代に青春を過ごした私だが、実際のところ音楽にはほとんどハマってこなかった。当然ながら女性アイドルについても世間の常識程度にしか関心がなかったが、それでも一世を風靡した彼女の曲の多くは脳内でリフレインできる。80年代はことほどさようにヒット歌謡曲が国民の多くに共通の記憶を残す時代だったのだ。
さて中森明菜。
私にとってはスキャンダルや漏れてくるわがままエピソードばかりが目につくだけの「やっかいなアイドル」「終わった人」だったが、本書では歌の才能に溢れ一気にスターになったデビュー直後のようすや、突出した歌の才能に恵まれながらも一途で不器用な生き方しかできなかった彼女が描かれ、その姿がなんとも哀しくて、儚い。
スマホの音楽アプリで彼女の歌を聴きながら読んでいた。中でも松任谷由実が作詞・作曲してバンバンがヒットさせた「『いちご白書』をもう一度」をしっとりと歌い上げているのを聞くと、その情感の豊かさが伝わってきて、身体が震えるほどだった。
住む世界があまりに違いすぎて年齢を意識したこともなかったが、もう58歳になるのか。もうひと花咲かせるチャンスがあるのなら応援したくなったよ。
(23/11/18)