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「親からもらったこの奥歯」

 家族との外食で行った焼き肉屋さん。レジで“お約束”のガムをいただいたので何の気なしに噛んでいたら、奥歯の詰め物がパカッと取れてしまった。

 がっかりして歯科医へ行ったところ、「詰め物が取れた」どころではなく、その奥歯が根元から折れていたのである。土台に残った歯の残骸を鏡で見せてくれて、ゾッとした。

 「抜歯をしなくてはダメです」ということになって、翌週に大学病院ですっかり抜いた。

 こちらでもお医者さんは抜いた歯を見せてくれる。白いガーゼに載せれられて赤い血にまみれた自分の歯というものは、少々グロテスクなものである。

 と、同時に。

 「ああ、これも親からもらった身体の一部なんだなあ」という気分が浮かんでくる。

 「三国志演義」では、魏の猛将・夏候惇が戦場で射抜かれた左目を「父之精母之血不可棄也(父の精、母の血、棄つるべからざるなり)」と言いながら食べてしまった、というエピソードがある。それを思い出した。

 かつては、抜いた歯について「持って帰りますか?」と尋ねられたこともあるが、今回はそのような申し出はなかった。どうせ持て余すので持ち帰ることは断ったと思うが、肉体の不思議さと親のありがたさについて考えるきっかけになった。
(22/10/10)


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