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朗読を堪能する
友人にたまたま勧められて「2カ月間の無料お試し」で始めたオーディオブックサービス「audible」。あれこれ目移りするほどラインナップが充実してきて、ワクワクだ。
成田悠輔「22世紀の民主主義」、百田尚樹「新版日本国紀(上下)」と視聴してきた感想としては「ふーん、ウォーキングや風呂場などの“スキマ時間”に読書が進むのはありがたいな」といったところ。他方「やっぱりリアル読書よりも進みが遅い」「就寝時に聴いているとすぐに眠くなってしまう」というデメリットも感じる(後者については“入眠のための新兵器”ともいえる)。
きょう聴き終えたのは又吉直樹の芥川賞受賞作「火花」。これが、とてもよかった。
現役の芸人さんの芥川賞受賞は、当時かなり話題になったものだ。そうなると愛書家としてはちょっとへそ曲がりな気分にもなって「けっ、話題になってよかったねえ」と手に取っていなかったのである。
実は出版社OBである父も同じように思っていたらしい。しかし「読んでみたら、傑作だったので驚いた」とすっかり認識を改めたということだった。
audibleの朗読は俳優の堤真一さん。登場人物の会話を声色でしっかり使い分けるほか、抑揚や間合いがなんとも上手い。やはり人文系書籍とは違って、小説では朗読劇を味わう愉しみになっている。「そういえば、大久保佳代子さんが朗読した『コンビニ人間』も楽しく聴いたのだった」と思い出す。だから、再生速度は1.0倍である。
さて「火花」。
街のざわめきだったりメールの着信音だったり、冒頭からシーンごとの効果音がうっすらと入る。当初は「鬱陶しいな」と思っていたが、慣れてくればこれもコンテンツの味わいだった。
売れない芸人による先輩への憧憬、生活、苦悩、不安をすくい取って、なるほどしっかり純文学らしい骨格。きらめく文章もあちらこちらにある。ほろっとさせられるストーリーとあわせて、芥川賞の受賞はけっして「話題づくり」だけではなかったと確認。
audibleを楽しむため、この度ついにSONYの高級ノイズキャンセリングヘッドホンも購入した。もうウォーキング中のガード下や走行中の電車内での「聴き取れない!」というストレスも激減だろう。
しばらくは小説を聴いてみよう。つぎは宇佐見りん「推し、燃ゆ」へ。
健康でワクワクできることがある生活。アラカンおじさんにとってこれ以上に望むものなど、ありようもございません。
(23/1/29)