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スポーツの試合のチケットをLPで売ったのに、2枚しか売れなかったときの話

スポーツマーケティングは「デジタルだけ」じゃうまくいかない。

ある地方都市のスポーツクラブの集客をサポートしていたとき、そんなことに気づいた。

ぼくらはクラブから予算をもらって、デジタル広告とLPの作成をお手伝いした。

それまでチケットの販売は「手売り」が中心だったから、デジタルの施策にも力を入れれば、きっとクラブの集客が増えるはず。そう思っていた。

でもいざやってみると、チケットがマジで売れなかったんだ。たったの2枚しか売れなくて。

「ヤバいじゃん、どうやって報告しよう……」ってめちゃくちゃ青ざめた。

やっていることは間違っているわけじゃない。他のクラブでは結果が出ているはずなのに。

なんとか巻き返そうと、自分なりに対策を考えたり、クラブにヒアリングにいったりした。

でも、結局うまくいかなかった。

めちゃくちゃ悔しかったけど、「今回は効果が見られませんでした」ということで、そのプロジェクトは終わっちゃったんだ。

東北楽天ゴールデンイーグルスを大盛況にした知見

「他のクラブでは成功しているのに、なんでなん?」

最初は原因がわからなくて、頭を抱えた。

でも、他のいろんなクラブのマーケティングをお手伝いしたり、スポーツマーケティングの先輩たちとお話しするなかで、あることに気づいた。

それは「リアルの施策」を徹底する大切さだ。

なかでも大きかったのは、東北楽天ゴールデンイーグルスの全盛期をつくった先輩たちから、ある「フレームワーク」を教えてもらったときのこと。

これを聞いたときは「いやあ、本当にそうだよな……!」って、めちゃくちゃ納得した。

先輩たちは、集客のターゲットをこの5つの「カテゴリー」に分けて考えていた。

①スタッフ、選手の家族
②既存のファン、サポーター
③スポンサー企業の社員さん
④地域の行政、自治体や教育機関
⑤新規、ライト層


①から順番にアプローチしていくことで、クラブの集客は増やしやすくなる。

いってしまえばクラブにとって関係値の「濃い順」にアプローチしていくわけだ。

実際、イーグルスの先輩たちは、このやり方で集客を増やしていった。

「集客を増やそう!」と思うと、いきなり「新規・ライト層」へのアプローチをしがち。でも、まだ集客の基盤ができていないクラブが、いきなりそれをやっても効果は出ない。

そうじゃなくて、まずはクラブの身近にいる①〜④の人たちに確実に来てもらう。それができて、はじめて⑤「新規層」への施策が意味を持つんだ。

そして①〜⑤ののカテゴリーごとに、集客の仕方は違う。①〜④に向けては、何より「リアルでの施策」が効果的なんだ。「デジタルの施策」が効くのなんて、この図でいえば、いちばん外側の⑤でしかない。

町のいろんなところにチラシを配ったり、地元の教育機関を訪問したり、キャンペーンを企画したり……。

ひたすら手足を動かして、クラブに近いカテゴリーの人たちに向けて、「リアル」でやれることは全部やる。

そのうえで、はじめて「デジタルの施策」が意味を持つんだ。

ぼくらがデジタルの施策で失敗したのも、そもそも地方では「デジタルチケット」の文化が、まだ浸透していなかったからだった。

最初から、いきなりウェブ広告を出したり、LPを作ったりしても効果は出ない。

すごく悔しかったけど、この失敗は大きな学びになった。

スポンサー企業からどう集客するか?

じゃあ具体的に「リアルでの施策」って何をやればいいのか?

いろんなクラブと向き合うなかで気づいたのは、とくに③「スポンサー企業の社員さんたち」④「地元の教育機関や行政」へのアプローチが重要だということだ。

「スポンサー企業の社員さんを呼んで意味があるの?」と疑問に思う人もいるかもしれない。

でも、実はめちゃくちゃ効果がある。

たとえばBリーグの「鹿児島レブナイズ」ってクラブは、この1年で集客が約2倍に増えた。1シーズン前までは、1試合の観客動員は1400人くらいだったのに、今では鹿児島市の試合では3000人を超えるのが普通になっている。地方都市の試合でも、2400人にまで増えているんだ。

何をやったかというと、ひとつは「スポンサー企業の社員さんをたくさん呼び込んだ」こと。なんと1試合につき、500人もの社員さんたちが来ていたことがあるんだ。会社の数でいうと59社。各社だいたい10人ずつを連れてきたことになる。

3000人のうちの500人だから、すごく重要なのがわかるよね!

だけど、これができていないクラブはけっこう多いんだ。

それはたぶん、単に「応援してます」っていうだけの「形だけのスポンサーシップ」になっちゃってるから。

それだと企業の人たちもクラブに親近感を抱きづらくて、試合を観にいくモチベーションが湧かない。ともすると「社長が好きでやってるんでしょ」みたいに、社員さんたちが冷めちゃってる企業もある。

せっかくスポンサーシップを結んでいるのに、それだともったいないよね。

だからクラブは、スポンサーの権益の中で「無料」で社員さんたちを招待するのがいいと思う。そして「社内用のSNS」なんかで、試合の情報を流してもらう

そういう施策を地道にやって、企業の人たちを呼び込めば、集客にはかなりの効果が出せるんだ。

「地元の人たち」をどう集客するか?

同じように「地元の人たち」を試合に呼び込むのも重要だ。

学校を訪問して子どもたちに声をかけたり、地元のスポーツ施設にチラシを置いてもらったりする。行政と協力して「市民デー」や「県民デー」みたいなイベントを企画するのもいいと思う。

あとは「3人で来てくれたら、2人の料金で入れますよ」「選手と同じ苗字の人は割引しますよ」みたいなキャンペーンの企画も効果的だ。

たとえば上で書いた鹿児島レブナイズは、ハーフタイムショーを県内のチアリーディングの子どもたちの発表の場にした。するとチアの子どもたちはもちろん、その親御さんたちも来場してくれた。結果的に、600人くらいの集客につながったんだ。

上で書いたスポンサー企業の500人と合わせると、それだけで1100人が来場したことになる。

もうひとつ、Tリーグの「岡山リベッツ」も、地元の人たちを呼び込むことでお客さんを増やすことに成功したクラブ。

やったのは、まず地元の卓球場を訪問したこと。学生やアマチュアで卓球が好きな人たちに向けて「岡山リベッツです!」って自己紹介をしにいった。アマチュアの卓球大会にも出向いて、試合の告知をしにいくこともあった。

さらには地元の卓球部の顧問の先生に会いにいったり、岡山県の中学校の「卓球連盟」のホームページに、試合の情報を掲載してもらったりもした。

その結果、クラブの集客は大幅に増えたんだ。

Tリーグは2017年にできたばかりで、まだプロリーグとしての知名度が低い。卓球に興味のない人にアプローチしても、なかなか試合には来てくれない。

だからまずは、卓球が好きな人、経験のある人たちを確実に集客した。そこで集客の「土台」をつくったことで、新規層にも広げやすくなったんだ。

いきなり遠くに飛ばそうとするんじゃなくて、まずは身近な人たちとのタッチポイントをつくる。これがすごく効果的なんだ。

「無料招待」を効果的に使おう

スポンサー企業の社員さんや、地元の人たちなどを「団体」を集客する。そのときに重要なのが「無料招待」を効果的に使うことだ。

というのも、スポーツは「0→1」の接点をつくるのがすごく難しいからだ。

それまで興味のなかった人に、いきなり有料で試合を見にきてもらうのはハードルが高い。SNS広告でモノなら買っちゃうことはあっても、スポーツのチケットを衝動買いすることって滅多にないよね。

だから「無料招待」を使うんだ。

たとえば「県民デー」や「市民デー」みたいなイベントを企画して、地元の人たちを無料で招待する。「子ども限定」での無料招待も効果的だ。

そこで「0→1」のきっかけを作る。スポーツの場合、それができると「楽しかったから、もう1回行こうかな」ってリピートにつながりやすくなる。

やっぱりスポーツのいちばんの魅力は会場の「熱量」「盛り上がり」。実際にスポーツの試合を観た人の満足度はすごく高いんだ。

そこから徐々にファンになってもらえる可能性は十分にある。

もちろん、有料で来てもらうに越したことはない。ただ、最初はどうしてもハードルが高いから「無料招待」を使って0→1のハードルを乗り越える。

まずは「観客動員」を増やさないことには、ファンを増やすことにはつながらないんだ。

LINEを活用して「リピーター」を増やす

「無料招待」で集客を増やす。それができたら、次はリピートにつなげて、有料のお客さんを増やさないといけない。

そのとき、いちばん効果的なのはLINEで「招待客のデータをとる」ことだ。

試合をきっかけに、クラブの公式アカウントを「友だち登録」してもらう。そこでデータを集めて、お客さんとの接点をつくっておく。そこからまた分析して、マーケティングをして……というサイクルをつくる。

LINEは日々のコミュニケーションツール。そこで接点を持って、試合やグッズの情報を定期的に流す。するとリピートにつなげやすくなるんだ。

とはいえ「LINE登録」って、お客さんからするとすごく面倒くさい。会場の入り口で、ただ「登録お願います!」って言ってもやってもらえない。

そこでオススメなのは、この2つの方法だ。

無料招待の要件として「公式LINEの登録」をしてもらう
・会場で「公式LINEの登録」を促すような企画をする(LINEを使った参加型のゲームを実施したり)。

まずひとつは、無料招待をするときに、公式LINEの登録をしてもらって、LINE経由で申し込みをしてもらうことだ。

たとえばデジタル広告や紙のチラシなんかに、クラブの公式LINEのQRコードを載せておく。そして「友達登録してくれたら、無料で試合に招待します!」って案内を載せる。そうすれば、試合に来てくれた時点でLINE登録が済んでいる状態にできる。

とはいえ、地元のお客さんなど、それ以外のルートで会場に来てるお客さんもいる。だからその人たちに向けては、会場でのLINE登録を促すために「参加型のゲーム」を企画するのが効果的だ。

「じゃんけん大会」を企画したことで、LINEの登録率がアップした

たとえばBリーグの「ライジングゼファーフクオカ」ってクラブがいい例だ。

ライジングは、この1年で1日あたりの平均観客動員数を1200人→1850人にまで伸ばすことができた。それは、この「無料招待」→「LINE登録」の流れをうまく作れたのが大きかった。

では、どうやってお客さんの「LINE登録」を増やしたのか?

彼らがやったのは、LINEの機能を応用して、試合会場でさまざまな企画を実施したことだった。

なかでも象徴的なのは、試合中にLINEを使って「じゃんけん大会」をやったこと。

LINEのトーク画面に「グー、チョキ、パー」が表示されて、お客さんはその中から好きな手を選んで、じゃんけんをする。勝った人は抽選でプレゼントがもらえる、という仕組みだ。

また、当たるとプレゼントがもらえる「ガチャポン」をLINEの画面で実施しり、ポイントカードや再来場券の発行にもLINEを使ったりもした。

すると、こうした企画をきっかけに、会場にいる人たちがLINEの登録をしてくれるんだ。もちろん、すでに登録済みの人もゲームを楽しめる。

さらには、公式LINEの「ブロック率の低下」にも繋がった。どうしても企業の公式LINEって、一度は登録してもらえても、すぐにブッロクされちゃうことも多いと思う。でも、会場でゲームを実施したことで、それをきっかけにブロックの解除をしてくれる人も多かったんだ。

こうした工夫が、ライジングの集客を増やすことにつながったんだ。

新規層へアプローチする

ここまできて、はじめて⑤「新規層へのアプローチ」をする。

デジタル広告で遠くに飛ばす。見やすいデザインで内容の充実したLPを作る。選手個人やクラブのSNS発信を強化する……。そうやって、もともと興味のなかった人にもチームの存在を知ってもらう。

さらに、新規層へのアプローチで重要なのが「代表戦の盛り上がり」を活用することだ。自分たちのクラブの選手が日本代表で活躍したときに、それをシーズンの集客に繋げられるかどうか。

たとえば、クラブの公式サイトの「SEO」に力を入れるのが効果的だ。

世界大会でクラブの選手が活躍すると、その選手の「検索数」は確実に増える。そのときに、クラブの公式サイトが、ちゃんと「メディアの記事」や「代表の公式サイト」よりも上に来るようにする。とくに「選手紹介ページ」の内容やクリエイティブを充実させておくのは大切だ。

もしくは日本代表が盛り上がってるタイミングで、自分たちのクラブから出ている選手を使って、看板広告を出すのもいいと思う(もちろん、“オリンピック出場選手の”みたいなワードを使うのはNG! アンブッシュマーケティングには気をつけないといけないところ)。

世界大会で高まった熱量を「一過性の盛り上がり」で終わらせず、ちゃんとクラブのマーケティングやプロモーションに活用するんだ。

ただ、こうした新規層に向けた施策が効くのは、あくまで①〜④の「リアルでの施策」をやり切ってからの話。

たとえば千葉ジェッツは、デジタルマーケティングを活用したことで、集客を2倍に増やせた。でもそれは、他の施策をすべてやり切ったからだった。ホームタウンでの呼びかけもたくさんしているし、地元の祭りには、必ず誰かしらの選手が参加していた。

やれることをやりきったけど、やっぱりまだ届いていない、もっと新規のお客さんを増やしたい。

そのフェーズになって、はじめてデジタルの施策が意味を持つわけだ。

スポーツマーケティングは「デジタルだけ」じゃ成功しない

クラブの集客は、やっぱり「デジタルだけ」やっていてもダメなんだ。ぼくらも失敗を経験して、はじめて気づいたことだった。

もともとぼくらはwebマーケティングの会社だったから「デジタルを提供するのが当たり前」だと思っていた。でもそうじゃなかった。

集客の「0→1」の土台がないと、Webマーケティングを工夫してもうまくいかない。どれだけフルスイングしても、ぜんぶ空振りしてしまう。

そもそもスポーツは「リアル」のイベントだ。だからやっぱり「リアルでの施策」が効く割合のほうが大きいんだと思う。

デジタルで遠くに飛ばす前に、まずは地に足のついた施策を正確にやる。手触り感のある施策を重ねて、集客の「土台」をつくる。

泥臭く聞こえるかもしれないけど、それができれば、クラブがファンを増やすための第一歩になるはずだ。


集客に困っているクラブのスタッフさんへ

最後に1つだけ伝えたいことがある。

クラブのスタッフさんたちは、日々の仕事がめちゃくちゃ忙しいと思う。

チケットの問い合わせの対応をするので、気づけば1週間が終わっちゃう。1日1日の試合の運営に手一杯で、ガーっと走っているうちにシーズンが終わってしまう……。

集客の施策をじっくり考えている暇なんてない。

だからこそ、ぼくらみたいな存在がいる。

観客動員のための施策を考えて、それを実行して振り返る。そして次の対策を練る。そのサポートをぼくらがする。

さらには、集客のためのクリエイティブ制作もお手伝いできる。

ウェブでのクリエイティブはもちろん、リアルで必要なクリエイティブ制作もぼくらはできる。ポスターや看板広告のデザイン、映像制作。そのために、ぼくらは「クリエイティブ」の部署を社内に置いているんだ。

戦略を考えるところから、実行するところまでクラブに伴走する。それがぼくらの介在価値だ。

集客に困っているけど時間が取れない……。そんなクラブのスタッフさんたちは、ぜひ一度ぼくらに相談してほしいな!



まずは、ぼくのXアカウントにお気軽にDMください!! 何でもご相談に乗ります!






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平地 大樹(ひらちたいじゅ)/プラスクラス代表取締役
最後まで読んでくれて、ありがとうございます! スポーツビジネスのこと、経営のこと、セカンドキャリアのことなど、どんどん発信していきます。よろしくお願いします!

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