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#短編小説

へその緒

へその緒

 やあ、いいところに来たね。ちょうどぼくは、おまえが用いる〝ぼくら〟という名前の国について、自分なりに考えていたところだったんだ。「世界一小さい国だね」なんておまえは言っていたけれど、少し考えてみたらまったくそんなことはないことが分かったよ。だって、明らかに、絶対に、〝ぼく〟という国の方が小さいに決まっているんだから。そんなことはない? へえ、おまえは〝ぼくら〟より〝ぼく〟の方が大きくてすばらしい

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アリの巣

アリの巣

「ねえ、地球上の生き物みんなが人の言葉を話しはじめたら一体どうなると思う?」
 今から随分と昔の話だ。ある昼下がり、真上の太陽がさんさんと光を降り注ぐなかで、ふと友人がそんなことを言った。まったく風のない、春と呼ぶには暑い日だった。
「そしたらぼくら、今にも人殺しになるねえ」
 そのとき私はそのようなことを口にしながら、友人が手にしているバニラ味のアイスバーがじわじわと溶け、白と呼ぶべきか分からな

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孤独に近いものの名を上げてみよう。昨日の後悔、去年の怒り、それより前の哀しみ、生まれたときに上げた泣き声。すべて正しい。それではぼくは? きみのこれまでをすべて知り、けれどもそれから先は知り得ない、このぼくは? ぼくの名前は、〝昨日〟、と言う。ぼくは孤独か、永遠に?

ノンブレス 04

ノンブレス 04

 彼女は足にだけマニキュアを塗る。理由を問えば、自分はぶきっちょうだからと、彼女は自分の左手を指差して笑った。ぶきっちょう。不器用。不器用。左手よりは器用な、しかしそれでもぶきっちょうである彼女の右手が塗った足のマニキュアが、影の中に赤く浮かんでいた。
『ハナノカゲ』

 春が青いなんてのは、大人の嘘だ。少年は心の中で呟いて、少し前を歩く少女の後ろ姿を見やった。その背で茶の髪が光に照らされ、半ば金

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ノンブレス 03

ノンブレス 03

 あなたは輝く瞳で、未だ風を追っている。それなのにおれは、風の匂いも分からない。分からない大人になってしまったよ。海鳴りの音、泳ぐ魚、それも聴こえない、その色も見えない大人になってしまった。あなたが船上で手を振る。おれの手が届かない処で。届かない処で。
『モスキート』

 おまえは知らないだろう、おれはおまえを愛しているのだ。おまえのためなら毒も呷ろう。悪魔に魂を叩き売っても構わない。おまえがおれ

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