へその緒
やあ、いいところに来たね。ちょうどぼくは、おまえが用いる〝ぼくら〟という名前の国について、自分なりに考えていたところだったんだ。「世界一小さい国だね」なんておまえは言っていたけれど、少し考えてみたらまったくそんなことはないことが分かったよ。だって、明らかに、絶対に、〝ぼく〟という国の方が小さいに決まっているんだから。そんなことはない? へえ、おまえは〝ぼくら〟より〝ぼく〟の方が大きくてすばらしい国だと思っているわけか。ふうん、まあその話はべつにどうだっていいんだ。それより何より王さまとしてのおまえの態度が気に入らないんだ、ぼくはね。最近おまえはぜんぜんぼくらの国に来ないし、今日は一体何をしに来たの? 観察? 何を? ああ、「コウテイナイに生えている植物の観察日記」の宿題か。ところで腕に抱えているそいつは何? 飼育小屋のウサギ? それともおまえのウサギ? どっちでもいいけど、どうしてぼくらの中にそいつがいるんだ? おまえ、王さまだろう? 追放しろ。それか処刑だ。嫌? なんで? ぼくとおまえの国を守れよ。ぼくら今までずうっと、二人きりでやってきたじゃあないか。分かった、……分かった。そう声を荒げるなよ。わけの分からない言葉で話すな。ちゃんとぼくらの言葉で話して。いいよ。ぼくも宿題をやることにする。おまえのために、コウテイナイの植物を刈り取ってきてあげるから。それじゃあ、ハサミの一つでもあればいいかな?
20220317 執筆
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