コーヒー・マリアージュの話
マリアージュという言葉が、
感覚を伴う言葉へと変わったのはいつだっただろうか。
一般的に マリアージュ という言葉は、
ワインと食べ物の相性が良い場合に使われるという。
コーヒーの場合は コーヒー・マリアージュ と、
敢えて区別した表現をすることもあるようだ。
私にとって記憶に新しいのは、
新年度が始まったばかりの、まだ少し肌寒い、
春の日のことである。
千葉県の中央部に、小湊鉄道というローカル線が走っているのをご存知だろうか。
普通車両とは別に、トロッコ列車という窓がなく天井がガラス張りの解放的な車両がある。
普通車両に比べ、格段にゆっくりと走るこのトロッコ列車からは、
一面に咲く菜の花や、沿線住民が手を振ってくれる様子が間近に見える。
まるで異世界にでも迷い込んだかのようだ。
始発駅のキオスクでおやつを買い込んで、
列車に乗り込む。
途中、いくつかの駅に停車するのだが、
停車時間が長い駅では名産品や温かいコーヒーをホームで販売している。
降りてホームで買い物をして、また乗り込む、という具合である。
小銭を持って温かいコーヒーを買いにゆくと(確か一杯100円くらいだった)、
おじさんが並べられていた銀色のポットの一つを手にとって、
コーヒーを紙カップになみなみと注いで渡してくれた。
列車に戻り一口すすると、
まだ冷たさの残る春風に冷えた体の中を、
ゆっくりと伝っていくのがわかった。
ここで登場するのが、キオスクで買っておいた
アーモンドチョコレートだ。
アーモンド丸々1個がチョコにくるりと包まれ、
パッケージを開ければツヤツヤとした粒がコロコロ揺れている。
子供から大人まで、皆を魅了してやまないお菓子の一つである。
それを口に放り、少し噛みながらコーヒーをすする。
コーヒーの熱も相俟って、口の中でチョコはとろりととろけ、
カリカリのアーモンドと絡まり、
コーヒーのビターな香りが鼻を抜ける、、
なんとも言えない美味しさなのである。
あ、これがマリアージュってやつだ。
と、菜の花の絨毯の中を、コーヒーの香りが走ってゆくのだった。