風船🎈とサイコロ🎲でなぁんとなくイメージをつかむ熱力学入門用語３

2020年3月5日 02:17

今回は自分が物理で一番苦手な「熱力学」のはじめの方で出てくる用語をかみ砕いて自分なりの言葉で説明してみようというぱわぽｄｅプレゼン企画ＮＯＴＥ第３回目です。

第２回はエンタルピーＨとエントロピーＳについてでした。ΔＨと ΔＵは風船が膨張するかしないかの条件の違いはあっても、両方ともガスに与えた熱エネルギーＱin に相当するものでした。また、ΔＳは無限サイコロの例えを出して状態変化の起こりやすい方向・矢印を教えてくれる数字と捉えればいいでしょう、と書きました。第３回はエントロピーＳの続き、ヘルムホルツの自由エネルギーＡ、ギブズの自由エネルギーＧを紹介します。

３''．可逆過程と不可逆過程の感覚的な捉え方

第２回のＮＯＴＥで書いていた無限サイコロですが、バラバラになってしまったサイコロの目を再びゾロ目に戻す作業はやってもやってもキリがありません。なんてったってサイコロが無限個あるわけですからね。このような一度バラバラの状態［２］になったら状態［１］には戻せなくなるような状態変化を不可逆過程と呼びます。ココア☕️にミルク🥛を混ぜてしまったら元に戻せなくなるのもこれの一つですね。状態［２］のエントロピーの方が大きいわけですから、不可逆過程では ΔＳ＞０となる特徴があります。

では、サイコロを無限個ではなくて数えられる程度に少なくすればどうでしょうか？状態［２］になったとしても、また状態［１］に戻すことはできますよね。このような状態［２］から状態［１］に戻そうと思えば戻せる状態変化を可逆過程と呼びます。この時、二つの状態のエントロピーが釣り合って ΔＳ＝０になります。

ここで一つごめんなさいしておかなきゃいけないのは、現実世界には不可逆過程しか存在しないっていうことです。先ほどの例を持ち出すと、ミルクココアをそのまま置いておくと勝手に自発的にココア☕️とミルク🥛に分かれたり、混ざり合ったりを行き来するのが可逆過程なんです。経験的に「そんなこと起こらんわなぁ、食うてもうたパインアメがひとりでに口から出てくるくらい気色悪いやんか」ってのは誰でも思うじゃないですか。可逆過程は仮想的なもので、現実世界で出せる例が残念ながらないんです。

なので、可逆過程を感覚的に捉えるためにサイコロの例を苦し紛れに出したんです。目がバラバラの状態［２］の方がエントロピーが若干大きいんで、ΔＳ＝０にはなりません。けれど、サイコロの数を無限個から数えられる程度にまで少なくしていくと状態［１］と状態［２］のエントロピーが段々近づいていって、その差が無視できるほど小さくなる ΔＳ→０ってイメージすると納得しやすいかもなぁ、と個人的に思ったんですよね。まぁ厳密には、サイコロの個数に関係なく手作業とかエネルギーを使わずに勝手に自発的に状態［１］と状態［２］を行き来し合うのが可逆過程であることを断っておきます。

キュゥべえの「エントロピーを凌駕した」は熱力学に対する叛逆だ

「魔法少女まどか☆マギカ」のキュゥべえが得意顔で「エントロピーを凌駕した」とかぬかしているのは、魔法少女の魂を対価にして先ほど書いた不可逆過程の状態［２］→ 状態［１］を実現しているからです。これはもう熱力学に対する叛逆どころの騒ぎじゃないんですね。言ってみれば、これは人智を超えた夢悪魔の技術の誕生なんですよ。今まで人類が百年以上かけて創り上げてきた「こんなこと絶対に起こらんから！もし起こったら木の下に埋めて貰っても構わないよ！」っていう偏見常識をぶっ壊したわけで、まど☆マギ世界に存在する科学界はパラダイムシフトを引き起こす新熱力学に興奮しすぎて脳汁ブッシャーするに違いありません。

それでは、ここでキュゥべえ先生のエネルギー営業収支を見てみましょう。先に先生は奇跡を起こすのにある程度のエネルギーＥmiracle を投資しています。その後、魔法少女から状態［１：希望］→ 状態［２：絶望］に相当する感情エネルギーの差Ｅemogap を回収します。そうすると、両者のエネルギー差 ΔＥは次のようになります。

ΔＥ＝Ｅemogap－Ｅmiracle

ΔＥ＞０　なら　回収＞投資（回収達成；営業成功）
ΔＥ＝０　なら　回収＝投資（とんとん；営業としては失敗）
ΔＥ＜０　なら　回収＜投資（持ち出し；営業失敗）

キュゥべえ先生の営業エネルギー収支

先に損はするものの、後でそれ以上を取り返す損して得とれ方式なので、最悪持ち出しで終わるリスキーな営業をしていると言えますね。だからこそ、先生は人を厳選しているのでしょう。

３'''．エントロピー変化量 ΔＳ

これまではサイコロを例として感覚的に捉えることをやってきましたから、風船の方に戻りましょう。

これは実際に熱力学の ΔＳがどんな式で表されるのか、今まで出てきた式をこねくり回して導いたものです。重要なのは最後にでてきた赤字の部分で、ΔＳは与えた熱Ｑin を温度Ｔで割って、状態［１］から状態［２］にかけて積分トータルした形です。可逆過程なら等号（＝）、不可逆過程なら不等号（＞）になる違いがあります。ぶっちゃけ「そんなんいきなり見せられても分かるわけないやんか、はっきり言うて」ってのが正直なところでしょう。

自由エネルギーＡ・Ｇ

これから紹介する自由エネルギーＡ・Ｇには２種類の意味があります。１つはエントロピー ΔＳと同じように状態変化の起こりやすい方向を教えてくれる数字、もう１つは風船の中にあるガスから人が自由に取り出して利用できるエネルギー量の上限値です。

４．ヘルムホルツの自由エネルギー変化量 ΔＡ

４．１　状態変化の方向を教えてくれる ΔＡ

ヘルムホルツの自由エネルギーＡは風船が膨張しないことと、ガスと外界の温度が同じっていう条件を前提にしています。先ほど導いた ΔＳの式にガスに与えた熱 δＱin＝ｄＵをつっこんで、スライドのように式を整理すると最終的に ΔＡ≦０となります。等号・不等号があるのはエントロピーの時に紹介した可逆過程・不可逆過程による違いが含まれているからです。

ΔＡ＜０の場合は、状態［１］と状態［２］のヘルムホルツの自由エネルギーの数字を見比べた時に小さい方向へ勝手に自発的に状態が変化していきますよ～ってことを表しています。

ΔＡ＝０の場合は、状態［１］→ 状態［２］の変化と状態［２］→ 状態［１］の変化が同じになって、見かけ上は変化が止まっているように見えます。こういう釣り合った状態を平衡へいこうと呼びます。どっちの変化もゼロになったわけじゃないってことに注意しましょう。

４．２　自由に取り出して利用できるエネルギー量－ΔＡ

さて、昔から人々の関心事は「どうやったらできるだけエネルギーを絞り出せるんや？」っていうことでした。４．１では膨張しないＷout＝０でしたが、今度は必死こいてエネルギーを取り出すことを考えているのでＷout を ΔＳの式につっこんで整理します。

すると、Ｗout ≦ －ΔＡ となって取り出せるエネルギー量は－ΔＡ（ヘルムホルツの自由エネルギーの減少分）以下だと分かりました。ただし、上限値の－ΔＡを取り出せるのは等号となる可逆過程のみで、不等号となる不可逆過程は－ΔＡ未満しか取り出せません。

５．ギブズの自由エネルギー変化量 ΔＧ

５．１　状態変化の方向を教えてくれる ΔＧ

ギブズの自由エネルギーＧは風船が膨張することと、ガスと外界の温度と圧力が同じっていう条件を前提にします。ΔＡと比べると ΔＧは現実世界にめっちゃ近い条件です。ΔＳの式にガスに与えた熱 δＱin＝ｄＨをつっこんで、スライドのように式を整理すると最終的に ΔＧ≦０となります。等号・不等号があるのはエントロピーの時に紹介した可逆過程・不可逆過程による違いが含まれているからですね。

ΔＧ＜０の場合は、状態［１］と状態［２］のギブズの自由エネルギーの数字を見比べた時に小さい方向へ勝手に自発的に状態が変化していきますよ～ってことを表しています。

ΔＧ＝０の場合は、状態［１］→ 状態［２］の変化と状態［２］→ 状態［１］の変化が同じになって、見かけ上は変化が止まっているように見えます。こういう釣り合った状態を平衡へいこうと呼びます。どっちの変化もゼロになったわけじゃないってことに注意しましょう。

５．２　自由に取り出して利用できる非膨張エネルギー量－ΔＧ

風船の中にあるガスから取り出せるエネルギーを求めてみましょう。ガスと外界の圧力がＰなので風船が膨張することはするんですけど、それ以外のエネルギー形態、例えば電気とか光を取り出すことができたら人間的には利用価値もテンションも爆アゲじゃないっすか？ここでは仮に、風船の中のガスがピカッと光る（光エネルギーが取り出せる）ものとしてやってみますよ。

風船から出てくるエネルギーは膨張 δＷout と発光 δＷLight の足し算になりますね。これを熱力学の第一法則の式にあてはめて、ΔＳの式につっこんでスライドに書いているように整理します。すると、ＷLight ≦ －ΔＧ となって取り出せる発光のエネルギー量は－ΔＧ（ギブズの自由エネルギーの減少分）以下だと分かりました。ただし、上限値の－ΔＧを取り出せるのは等号となる可逆過程のみで、不等号となる不可逆過程は－ΔＧ未満しか取り出せません。

実を言うとこの ΔＧ、ＰＣやスマホ、電気自動車ＥＶ、飛行機、宇宙産業に使われる電池バッテリーの研究開発や性能評価・改善をするのにとても大事な指標になってます。なんてったって取り出せるＭＡＸの電気エネルギーを意味しているわけですからねぇ。直接肉眼では見えないっすけれど世の中を支える足の裏的な概念なので、良かったら ΔＧだけでも覚えて帰ってください。

おまけ．十時のＨＡＧＥが遊ぶＰＳ🎮はＴＶ📺の上

今までやってきたＵ，Ｈ，Ａ，Ｇの４つのエネルギーに関する状態量をもう４つの状態量Ｐ，Ｓ，Ｔ，Ｖで書き表す裏ワザを紹介します。ここでは覚えやすさ重視のためＵをＥ（Ｕ）と表記しました。スライドにある通り、最初にＨＡＧＥを十字に配置して、残ったすき間に横方向にＰＳ、ＴＶを書き入れます。そしたらまぁ「十時のＨＡＧＥが遊ぶＰＳ🎮はＴＶ📺の上」で覚えられるんじゃないでしょうか？

８つの状態量の配置が終わったら今度はＵ，Ｈ，Ａ，Ｇの知りたいエネルギーに向かってＰＶとＴＳ間にナナメ矢印を引っ張ります。この時、矢印が上向きならプラスの符号を、下向きならマイナスの符号をつけた積を作ります。例えば、ｄＵが知りたいときは－ＰＶと＋ＴＳですね。最後に、矢印の終点側の要素（ｄＵの場合はＶとＳ）に微分記号ｄをつけて足し合わせます。そうすると、ｄＵ＝ＴｄＳ－ＰｄＶ が得られました。実際のｄＵは熱力学の第一法則とエントロピーの式から導くことができます。

　　δＱin ＝ｄＵ＋ＰｄＶ　（熱力学の第一法則）
　　δＱin ＝ＴｄＳ　（エントロピーの式）
右辺同士を等号でつなぐと
　　ｄＵ＋ＰｄＶ＝ＴｄＳ
　　ｄＵ＝ＴｄＳ－ＰｄＶ

ｄＵの導出

この「十時のＨＡＧＥが遊ぶＰＳ🎮はＴＶ📺の上」のイイところはｄＵ、ｄＡ、ｄＨ、ｄＧの全バージョンを物理的な思考を全部カットして２本矢印を引っ張れば得られる手軽さです。テストの時とか可及的速やかに欲しいときに使ってみてください。この後の発展形として、

　　ｄＳ＝０　⇒　－Ｐ＝（∂Ｕ／∂Ｖ）ｓ
　　ｄＶ＝０　⇒　　Ｔ＝（∂Ｕ／∂Ｓ）ｖ

マクスウェルの関係式への応用

これを他のｄＨ、ｄＡ、ｄＧにも適用したら更に難易度が高い領域、偏微分記号が入ってくるマクスウェルの関係式までクリアできちゃいます。ぶっちゃけ最初に紹介した内部エネルギーからここまで来ることができたら涙が出るほど劇的に進歩してますよ。

熱力学の入門って知らない概念やら記号やら微積がどしどし出てきて「もう無理！分からん！飯食って寝る！」ってなりがちですからね。分からんまま授業とか進まれても虚無の時間が永遠に続くだけなんで、もしそうなったら原点回帰して最初に戻るのが一番の近道ですよ。

とりあえず、今のところはここまで

この熱力学ＮＯＴＥ集は熱力学の入り口があっても入れない熱力学難民自分のために作りました。苦手な自分にとってはここまで理解するのに大変苦労してまして、いつも頭から煙、目から火が出てた感じでした。たぶん、間違ってるところが多々あると思いますけど、熱力学入門に必ずでてくる５つの用語の大体のイメージがつかめたかと思います。ここまでお付き合いいただいた方、どうもありがとうございました ( 灬'ω'灬 )੭⁾⁾

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