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ひとり連句 憎しみが愛に変わるとき(半歌仙)


憎しみが愛に変わるとき

〈表〉
妻のいぬ土曜や午後の初しぐれ
 湯呑みに乳皮にゅうひ張り冬に入る
ここ三日顔知る人のがなくて
 くすぐってみる猫の脇腹
つゆの世の摩天楼に出るフルムーン
 ワイン新酒でよぶいつもの手
〈裏〉
水蜜桃つらいきのうを思い出に
 眠れるからだときに掻く太股あし
憎しみが愛に変わって夜が明ける
 着信に孔雀とあり。「誰?」
名店の菓子折で詫び浜に逃ぐ
 すべてはかなしシャボン玉吹く
夏河をわたる足にかかる月
 蚊に刺されつつ読む色通鑑いろつがん
噴煙の窓より見えて浅間山
 なかなか打たぬ碁敵ごがたきありて
住み慣れし庵の谷は花盛り
 春風駘蕩しゅんぷうたいとう妻は臨月


今回は、つれづれ俳句(3)の中の句をアレンジして発句にしました。

●《2句》「乳皮」は温めた牛乳の表面に薄く張る皮膜のこと。
     嫌いではありません。

●《5句》月の常座。ミュージカル『キャッツ』。あの舞台の背景にこうい
     うのがありました。
     7句も『キャッツ』の「メモリー」という曲から拝借してます。

●《7句》「水蜜桃」は「桃」のこと。秋の季語です。
     大住日呂姿の句に「男は桃女は葡萄えらびけり」とあります。
     6句からはこの句でつなげました。
     ワインで女を呼びだし、男は桃を・・・
     ただし、式目では「恋」は9句と10句ですからあくまで隠し味
     程度です。

●《9句》恋の句です。前句の無防備な女の寝姿で男は苦笑いして、すべて  
     水に流しまた好きになった、ということです。

●《10句》恋の句です。男の不倫が発覚。「誰?」は妻の言葉。
     ガラケーの時代、女性をみんな鳥の名で登録していたんですが、
     しばらくして誰がどれやら分からなくなって困りました。
     孔雀はいませんよ。念のため。

●《13句》蕪村の「夏河を越すうれしさよ手に草履」のオマージュ。

●《14句》「色通鑑」は江戸時代の艶本えほんです。
     風流人はこっちの方も好みます。

●《17句》花の定座。もちろん桜です。

●《18句》いつのまにか妻との仲も戻って、めでたしめでたし。



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