教科書でお馴染みの絵が勢揃い「黒田清輝記念館」
黒田清輝といえば、日本の近代洋画を語る上で、避けて通れない人物……っぽいですね。
そんな黒田清輝の作品を展示するための美術館「黒田館」が、東京国立博物館の隣にあります。その場所は、つまりは東京藝術大学や旧帝国図書館に隣接しています。
黒田記念館は東京国立博物館の附属施設ですが、無料で入館できるのが特徴です。宣伝もしていないし、そっけない入口なので、入ってよい建物なのか、なんのための建物なのか、分からない人が多いような気がします。そして、無料というのは、東京国立博物館のチケットを見せなきゃいけない…なんてこともなく、ぷらっと立ち寄って入れる正真正銘の無料施設です。
黒田記念館に入ると、検温するスタッフが居て、「検温だけさせてください」と言って、無接触の体温計をぴっとやると「展示室は2階になります」と教えてくれます。
ここは2階にしか展示室がなく、ギシギシときしむ階段を上がると、右側に続く廊下の突き当たりに展示室があります。反対側の、階段を上がってすぐ左側の展示室は「特別室」といって、通常は閉まっています。その部屋には、黒田清輝の代表作が展示されて、新年/春/秋の3回の各2週間のみ公開されます。そして、ちょうど10月25日〜11月6日まで、公開されています。
今回、久しぶりに黒田館へ行ってみると、その部屋が開いていました。わたしが入るのは初めてのことです。明日までなので、見たい方は、見に行ってみてください。
正面には、黒田清輝が33歳の時の作品で重要文化財に指定されている「智・感・情」(1899年)が、ドドン! と掛かっていました。そして右側にも重要文化財の「舞妓」と「読書」、左側にも重要文化財の「湖畔」があります。いずれも教科書でおなじみなので、見れば「あぁ〜、これかあぁ」となるような作品です。
こちらの『湖畔』は、もともと『避暑』というタイトルだったそうです。31歳の黒田清輝が、後に妻となる芸妓さんと芦ノ湖へシケ込んだ時に、思い立って描き始めたそうです。
これは、YouTubeの『山田五郎のオトナの教養講座』からの受け売りです。このチャンネルでは、毎回、アシスタントのワダちゃんが、世界の名画を持ってきて、山田五郎さんに「これって、なんで何々なんですか?」と聞くところから始まります。
そして黒田清輝の回では、「この『湖畔』という作品は、なんで重要文化財なんですか?」という問いから始まります(あっ、ちなみにこの回はワダちゃんはお休みの回でした)。すると五郎さんが「この作品どう思う?」って、逆にアシスタントに質問しました。すると「いや……なんとなくいい作品のような気がします」とアシスタントが答えると……。
「まぁね……。でも、特別にいい絵でもないんじゃないか? っておれは思うんだよね。この時代に、もっといい絵はあるぜって」
そして、なぜそれほど良いわけでもない絵が重要文化財なのかと言えば……
「一言で言えば作者が偉いからですよ。黒田清輝が偉いから」
と、ズバッと切り捨てます。「だってもう見た目が偉いもの」と言いながら、黒田清輝の写真を取り出して、「これが黒田清輝。画家っていう顔じゃないよね。普通、この写真を見たら政治家か銀行の頭取って思うだろ?」
もう最初から黒田清輝をメッタギリです。藤田嗣治など、ほかの明治大正期の画家や作品を取り上げる時にも、ことあるごとに黒田清輝のことをチクチク言っているので、山田五郎さんは、あまり画家として好きではないんでしょうね。
ただし、画家として評価していないだけで、黒田清輝が「日本洋画界に明治維新を起こした」ということで、一定の評価はしています。東京藝大の初期の教授だったり、二代目の校長ですしね。
また、動画を見ると、明治元年の1868年以降からの日本の美術史が、なぁんとなく把握できます。あぁ、黒田清輝のせいだったのね……とか(笑)。
わたしは関東で生まれ育ったこともあり、明治維新……戊辰戦争に関しては、佐幕派(徳川幕府寄り)です。歴史小説を読んでいても、薩摩藩や長州藩よりも会津藩や長岡藩を応援してしまいます。
なんでそんな話をしているかと言えば、要は、黒田清輝の絵が重要文化財に指定されているのも、あくまで山田五郎さんによれば、黒田清輝が薩摩出身の薩摩閥だったから……ということになるからです。
ということで、東京藝大は薩摩と……同じく戊辰戦争の勝ち組である肥前藩の出身者で教授陣が占められてしまいます。そして、その薩摩や肥前の画家たちが師として仰いだのは、当時の最先端の画風である印象派……ではなく、印象派の描き方をチョコッと取り入れている折衷派とでも言うべき、中途半端な描き方をする人だったそうです。
そんなこともあり、黒田清輝の代表作の一つである『湖畔』も、陰を暗く描かない点では印象派なんだけど、それほど振り切った描き方ではなく、ゴリゴリの印象派ではありません。そして、そうした「作品としては微妙な絵」が、その後の日本では評価をされ続けることになります。あくまで、山田五郎さんの解説ですけどね ← 動画を見たわたしの解釈なので、山田五郎さんにも「オレはそんなこと言ってねえよ!」と言われるかもしれません。
その文脈で、動画では藤田嗣治についても語られます。「どうしてヨーロッパで高い評価を得ていた藤田嗣治が、当時の日本では、全くと言ってよいほどに評価されなかったのか」が、分かります……というか、山田五郎さん説が分かります。
ちなみに山田五郎さんは、同YouTubeチャンネルで、藤田嗣治だけについても語っている回があります。これを見ると、さらに「なぜ藤田嗣治は日本国内での評価が低かったのか」が分かります(あくまで山田五郎さん説ですけどね)。
■黒田清輝の有名作品以外の絵も観られます
とはいえ、わたしは黒田清輝の絵の(飛び抜けた)良さは分からないものの、単純に絵として嫌いなわけではありません。特に、重要文化財指定の絵が並ぶ特別室の反対側にある、通常の展示室に置いてあるスケッチなどは大好きです。
分かったのですが、作品として完成された近代洋画作品が好きではないのかもしれません。その代わりに、完成に至るまでに練習した鉛筆スケッチは大好きです。noteでも、ご自身で描かれた絵を紹介されている方がたくさんいらっしゃいますが……そういう、一見、なにげなく描いたような、肩の力を抜いて描いたような絵が、大好物です。
展示室には、上の写真のようなスケッチがいくつか展示されています。
もちろん、作品もたくさん展示されています。
この『七面鳥』は、以前来た時にも掛かっていたので、もしかすると有名作品なのかもしれません。
今回は、特別室が開放されていることもあり、『湖畔』のモデルとなった夫人を描いた作品もいくつか展示されていました。
なんだか山田五郎さんの話を聞いているせいで(あくまで山田五郎さんのせいです)、いまひとつ黒田清輝を好きになれません。そうか……薩摩閥かぁ……なんて思ってしまって……。
でも、黒田記念館は建物としては素晴らしいです。いつ行っても、ほとんど人がいないので、監視員とマンツーマンとなりますが、じっくりと(黒田清輝作品のみですが)美術に浸れます。
なにより無料ですし、早ければ5分で館内を回れますし、上島珈琲と繋がっているので、ちょっと休憩したときに寄ってみるのにおすすめです。
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