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宝剣“膝丸”や“髭切”が大活躍!? 源頼光・鬼退治の後日談《綱絵巻》
仕事が早く終わったので(実は早めに切り上げただけ…)、閉館30分前の東京国立博物館へ寄ってみました。さすがにこの時間なら人も少ないだろう……なんて思ったら、けっこう人が居て……7-8割が外国人……ちょっとびっくりです。ただし、ほとんどの人が展示室から出て行くところだったので、約30分でしたが、久しぶりに落ち着いた気持ちで、観覧できました。
そして、なぜそんなギリギリの時間にトーハクへ行ったかと言えば、本日から水墨画あたりの展示替えがあったからです。
と言いつつ、その水墨画よりも気になる作品があったので、今回は、そちらの紹介です。室町時代に描かれたという《綱絵巻(つなえまき)》。
この《綱絵巻》、実は……というほどかは分かりませんが……源頼光が、あの酒呑童子を退治した物語の後日談なのです。こんな話……今まで知りませんでしたよ。
↑ 江戸城にある三の丸尚蔵館も『酒呑童子絵巻』を所蔵しています。あまりじっくりと見られませんでしたが、東京藝大での特別展で観ることができました。
■再びの鬼退治
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改まして《綱絵巻(つなえまき)》は、平安時代の武将の源頼光が、酒天童子(酒呑童子)という鬼を金太郎こと坂田金時などと一緒に退治したお話の、後日談を絵巻に表現したものです。主人公は、酒呑童子の鬼退治へ、源頼光や坂田金時などと一緒に行った、渡辺綱。つまりは、酒呑童子の物語が人気を博したので、そのスピンオフを作ってみた! といった感じでしょうか。
お話は、酒呑童子を倒した源頼光らが京へ戻ってきて、お疲れ様会……つまりは酒宴を開いているところから始まります(この場面は、今回のトーハク展示では観られません)。その中の誰かが「酒呑童子の配下の鬼が、一匹だけ逃げて、平安京(京都)の羅生門に住み着いているらしい」という噂話を話しました。場は騒然となり、その中でも特に渡辺綱が「そんなはずはない!」といきり立ちます。「それなら綱さんよ、本当かどうか確かめてきてくれ」と言われ、「おぅ! それなら見てきて、本当に鬼が居るなら、追っ払ってきてやる!」と、羅生門へ向かったのです。
■宝剣「膝丸」で、鬼の片腕を切り落とす!
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現在のトーハクでの展示は、途中から始まります。初めに観られる絵が、いきなりおどろおどろしい枯れ木なのはそのためで、本当はこの絵の前に、渡辺綱が家来とともに出かける様子が描かれています。
その渡辺綱ですが、左の腰には源頼光から授けられた大刀「膝丸」が吊るされています。渡辺綱らの一行が羅生門の正面に差し掛かると、急に激しい風に見舞われて、馬が動かなくなります。そこで渡辺綱は馬から降りて羅生門へ近づきます。
すると背後から現れた鬼に兜を掴まれてしまいました……。
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渡辺綱が羅生門に近づくと、背後から現れた鬼に兜を掴まれます
渡辺綱は、すかさず太刀「膝丸」で斬りつけますが、逆に兜を奪われてしまいます。組み合った末に、ついに鬼の片腕を斬り落としてやりました。
すると鬼は「必ずおまえから、腕を取り返してやる!」と叫んで、空を覆う黒雲の彼方へ消えて行きます。
■宝剣「髭切」で宇陀の森に住む鬼を退治!
ここから場面は一気に変わるので、とても分かりにくいのですが、同じ年の夏に源頼光が病気に罹ってしまいます。それがどうやら大和国(現在の奈良県)の宇陀郡の森に住む、鬼神のしわざらしいという話になります。
そこで源頼光は、「この大刀なら、きっと鬼を成敗できるはずじゃ。わしの代わりに鬼を成敗してくれ! 頼んだぞ!」と言ったかどうかは分かりませんが、今度は名刀の大刀「髭切」を渡辺綱に授けます。
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源頼光から鬼退治を命じられた綱が頼光から秘蔵の太刀を受け取る
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宇陀の森に着いた渡辺綱は、鬼の出現を待ちます
絵巻の左の方には、その宇陀の森の鬼がいます
甲冑と大刀「髭切」で身を固めた渡辺綱は、宇陀郡の森に着くと、鬼が現れるのをジッと待ちます……でも待っていても、鬼は現れません。
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甲冑を身にまとって鬼の出現を待つ綱
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宇陀の森に住むという、不敵な笑いをした鬼
待っていても鬼が現れないので、渡辺綱は甲冑を脱いで、女装をして歩いてみることにしました。これで鬼を誘い出そうという作戦です。いや、まさかね……こんなので鬼なんて現れますか?
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女人に変装して鬼を誘い出そうとする綱
すると鬼が現れたんです。《綱絵巻》の兄弟本とも言える奈良絵本《羅しやふ門》によれば、女装した渡辺綱は、同じく女性に化けた鬼に出会います。奈良絵本では、その後どう闘いに発展するのか分かりませんが、おそらく渡辺綱がちょっと油断したスキを見て、鬼に戻って渡辺綱を襲ったのでしょう。
トーハクの《綱絵巻》では、渡辺綱が女装して歩いていると、急に空がどんよりと曇ってきて、鬼が綱の髪を掴んで引き上げようとするんです!
「うぐぅ……鬼めぇ! 出てきたなぁ!」と、言ったかどうかは知りませんが、渡辺綱は引き上げられながらも大刀「髭切」を抜いて、鬼の手に切りつけます。切られた鬼から吹き出た血しぶきが、渡辺綱の額にかかり、鬼の腕が切り落とされます。
鬼の手には毛が生えていて、指は3本だったそうです……っていうか、鬼にも赤い血が流れているんだなと、わたしは、そっちの方が気になりました。
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女装した渡辺綱が歩いていると、突然頭上の空に厚い雲が立ち込め、雷鳴がとどろきます。
雲の中からニュッと鬼の手が出てきて、渡辺綱の髪を掴んで引き上げようとしました。
そこで渡辺綱は大刀「髭切」を抜いて、鬼の手を切り落としました。
渡辺綱は、切り落とした鬼の手をたずさえて、源頼光の邸へ戻ります。「頼光さま、申し訳ございません。鬼をころすことはできませんでした。ただし、鬼の手だけは、切り落としてきました」と報告。(……と言ったかは知りませんが、とにかく)鬼の手を源頼光にわたします。
鬼の手を受け取った源頼光は、朱の唐櫃に入れて大切に保管します。
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渡辺綱は、切り取ってきた鬼の手を源頼光にわたします
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渡辺綱は、切り取ってきた鬼の手を源頼光にわたします
鬼の手を受け取った源頼光は、朱色の箱にしまいます
そうはいっても、鬼を退治してきたわけではありません。源頼光は、占い博士を呼んで、どうすべきかを占ってもらいます。占いの結果「7日間の物忌みをすると良いぞ」ということが分かります。
国語辞典には【物忌み-ものいみ】を、「飲食・言行などを慎んで心身を清めること」としています。つまりは、誰にも会わずに自宅で謹慎するということでしょう。
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これからどうすべきかを、占い博士に占わってもらいます
源頼光は、占いに従って7日間の物忌みをすることにしました。家の門を固く閉ざして、四方の門には12人ずつの番人を配置します。さらに邪気払いの蟇目矢(ひきめや)というのを射させます。現代では「鬼はぁ〜外ぉ〜!」と豆をまきますが……当時は蟇目矢(ひきめや)を討っていたのでしょうかね(全くの想像です)。
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占いにより 7 日間の物忌みをすることになりました。頼光は固く門を閉じ、四方の門に12人ずつ番の者を据えて、夜ごと邪気払いの蟇目矢(ひきめや)を射させます
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固く門を閉じていますね
さて、物忌みを始めてから6日目に、源頼光の邸に母が訪ねてきました。
「母じゃか……なんてタイミングの悪いことよ。だが物忌みの最中とはいえ、母を突き返す不義もできまい。仕方ないから、邸に上げてくれい」……と言ったかどうかは分かりませんが、物忌みを破って母を邸に上げて、もてなしてしまうのです。
母に「最近どうじゃ?」なんて聞かれたのか、源頼光は……体調を崩していたこと……それが宇陀の森の鬼の仕業だったこと……ここに控える家来の渡辺綱に、退治を命じたこと……鬼を退治はできなかったけれど、鬼の手を切り落としたこと……を母に話して聞かせたのでしょう。
母は「まぁ、そんなことがあったのですか。それで鬼の手は今どこに? え? 大事にしまってあると……ぜひ見たいものじゃのぅ」と言ったかどうかは知りませんが、「鬼の手を見せてくれ」と頼みます。
すると、よせばよいのに源頼光は、朱色の唐櫃から鬼の手を出して(絵巻の表情を見る限りは)得意げに、母に見せてあげます。
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源頼光の元に母が訪ねてきました
その母に鬼の手を見せます
まぁそうだろうなぁと思うのですが……鬼の手を母の前に出すと、母はその鬼の手を右手で掴みつつ、みるみる鬼に変身していきます。そうなんです……誰もが分かったと思いますが、この母は、鬼が化けていたんですよ。
「ガッハッハッハ! まんまと騙されおったなぁ! バカめが! わしのこの手は返してもらうぞ!」と、鬼が日本語をしゃべれるものなのか知りませんが……左手の傷口に、取り戻した手をつなげると、同じ部屋に控えていた渡辺綱を左手で抱え込みながら、天井の煙出し(換気口または煙突?)から飛び去ろうとしました。
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源頼光が鬼の手を母の前に置くと、右手の肘に接いでしまいます。
母は牛鬼となり、渡辺綱を左手で抱えて、天井の煙出しから空中に上がろうとします
鬼が飛び立とうとする瞬間……さすが源頼光です。おそらく大刀の「膝丸」か「髭切」を抜いて、バサァ〜ッ! と鬼の首を切り落として絶命させます。しかし絵巻では、鬼の胴体は渡辺綱を離すことなく、そのまま天空へと昇っていったとして終わってしまいます。
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頼光は太刀で牛鬼の首を切り落とす。
しかし鬼の胴体は綱を離さずに、破風から天空へと昇っていく
渡辺綱のその後が気になるところですが、史実……定説では、「1020年、主君である源頼光が正四位下・摂津守に叙されると、渡辺綱も正五位下・丹後守に叙された」とあります(Wikipediaより)。むちゃくちゃ出世しているじゃないですか。
え? 彼らって実在の人物なの? って思いますよね。そうなんです。2人とも、かなり実在した可能性の高い人たちです。特に源頼光の……ではなく源頼光の弟の源頼信の子孫には、八幡太郎こと源義家や、鎌倉幕府を開いた源頼朝……当然、源義経も……それに室町幕府を開いた足利高氏などが、子孫ということになります。
そして、お話にも出てきた「膝丸」や「髭切」は、前述した源頼光の弟の源頼信……その子の源頼義、頼義の子の源義家……さらに代が下って源頼朝へと引き継がれていきます。いわば天皇の三種の神器のように、源氏の嫡流の証として、これらの太刀が扱われていたのです(そう思わせたかった部分も、多分にありそうです)。
これら2振が現在どこにあるかと言えば……はっきりとしたことは分かりません。ただし……
京都の北野天満宮が所蔵する、重要文化財「鬼切丸」の別名が、「髭切」です。
「膝丸」は後に源頼朝から源義経に授けられ「薄緑」と名前を変えました。そして現在、京都の大覚寺が所蔵する重要文化財「薄緑」と、神奈川県の箱根神社が所蔵する「薄緑丸」が、「膝丸」かもしれない……と言われています。
《参考資料》
・東洋大学『みて! みて ! — 長~い眠りから目覚めたお宝たち』(PDF)
・Wikipediaの各項目
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